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2009-02-18

『裂帛、斯くも叫こうが知らぬ振り。』


『裂帛、斯くも叫こうが知らぬ振り。』


彼は走る、その手に空を握りしめて。
涙は見せずに、走り抜けていくその様はまるで韋駄天。
修羅のような心であるにもかかわらず、顔は菩薩。
安らぎは柔和として彼の周りに漂う。

流れる景色は、張りぼてのような形を僅かにくねらせ踊る。
機械仕掛けの時計は、着々と針を進め時を刻む。
歯車で作られたこの世界に、彼は嘆き悲しみ、それ故に走る。
定められた途など、歩きたくも見たくもないと。

だが、それでも今まで過ごしてきたのは彼女の存在だった。
彼女もして、物は上から下に落ちる、万里にそぐわぬ道を歩んでいた。
彼女は彼を慈しみ、慕った、それに彼は応えた。
しかし、途は変えられず、その道には終焉が存在した。

無情にも刻むキカイジカケの時計が針を刻む。
その時が来たるとき、彼女はさも今までが傀儡であったかのように
糸が切れたマリオネットの如く、倒れ込んだ。
いや、そもそも、そこに彼女は居たのかどうかさえも疑わしい程に。
冷たく、佇んだ。

彼は、叫んだ。
こうも世界は残酷な物かと、なして我をこうも苦しめるのかと。
運命の歯車は決して狂うことなく今も回り続けている。
それこそ、真実ではあるまい、脱却するのだ、幾何的なこの世界より。
彼は決心した、もう一度彼女と過ごした日々を過ごすために。

彼は走る、砂利道に足を切られようと、風に吹き荒びかれても。
他人には目もくれず、彼は永遠かと思われるほど走った。
先には、禁断の地、針の筵が延々と敷かれた天上へ至る道。
既に彼は、涙も枯れ果て、精根尽き果てていた。

だがしかし、心は今も生きている。
中に彼女との回想が廻り続ける今生、消して尽きることは無い。
彼はそれのみを拠り所とするが故に、彼自体はもう人形であった。
いつ糸が切れてもおかしくないような、それほどに草臥れた。

突き刺さる、突き刺さる。
痛みはもう無い、この痛みなど彼女を失うことに比べれば。
しかし、いずれ彼は限界を迎える、執念だけで動くそれは
既に、薇仕掛けの道化と変わらぬが、さすればこそまだ動く手足。

そして、途切れた。
彼は、人形は、傀儡は、機械仕掛けの道化は。
腕は肌が摩り切れ、足は所々に骨が見え隠れしている。
しかし、そんな彼の表情は至って安らかなものであった。

そう。
既に彼は着いていた、天上へ。

光差し込む、神の手の中へと。

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