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2009-02-18

『粛々と流れる鐘に滔々の雪。』


生暖かい。
紅色は静かにこの手を滴り落ちていて、それだけ。
鈍色に輝くこの切っ先は、柔らかな脂身を切り裂いていた。
呻き声が聞こえる、でも無視した。

俺は飛び出した。

・・そして。
俺は、この日何かを失った。

『粛々と流れる鐘に滔々の雪。』

煉瓦造りの路地は、暖かみをどこかに置いてきたかのように冷え切っていて。
素足の俺にはとても堪えた、しかし歩かずにはいられない。
止まってしまえばそれまでの気がした、ただそれだけでしかない。
動いてなければ、歩いていなければ、終わりなのだと。

冬のある日、俺は諦めた。
誰かに居て貰うことを、この生を全うすること。
タガが外れたかのように、鎖は断ち切られた。
糊が付いたこの刃物は、もはや何も切ることも出来ず役立たずだった。
まるで俺みたいだなと自嘲した。

ふと、視界に埃が舞ったかと思えば、雪だった。
白く、白く、何物をも染めんとばかりにただ白き、雪だった。
毒される、犯される、今の俺にとっては、えてしてその程度のものだった。
純粋なるものは、そうであるが故に恐怖の対象となる。

これも、その類だった。

慌てふためいた、驚き戦慄き戦き恥も外聞もなく叫んだ。
尻餅をついたのか、それとも咄嗟に立ち上がり走り出したのか。
覚えてない・・・全てが戻ったときにはそこには屋根があった。
そう、俺は逃れることが出来た、奇跡的にも。
汚れて、穢れて、荒みきった上で何も求める気など無い。

数刻経った後、外に出ようかと逡巡し、放棄した。
窓を開けることすら叶わない、雪は、ユキは、白く・・コワイ。
視界の中で、いや視認することすらもはや恐怖。
それでも、陽も何もないこの小屋の中は、寒く、暗かった。
俺は、灯を捜したが、無い。

ここも、俺と同じなのかと、自嘲した。
そして、ならば死んだように眠ろうと、帰結した。


・・もう、どれだけの時が流れたのだろう。
身体は痩せこけ、骨は脆く肉は削げ、頬骨は陥没し髪は伸びきっている。
皮は張りつめた布のように張りつめている、過去の面影は何処にもみられない。
あの日「彼」を殺し、「何か」を失い、「自分」を捨てたあの日々の。
若かりしあの頃の俺は何処に消えたのだろうか。

いつしか、窓からは陽が差し込んでいたが、俺はそれに気付かなかった。
既に光明は俺の頭には届くことはなく、淡々と暁闇の中を生きている。
音も聞こえない、きっと寝ているときに何かで突き破られたのだろう。
・・・たとえ、それが俺自身の指だとしても。
だから、俺の指は赤黒く汚れていても、自然の納得の理由とされる。

それでも、どこで感じているのか分からないが
音は聞こえ、極彩の世界を覗くことを許されている。
四季折々の情景を垣間見ることもあれば、唐突に暗闇に堕とされることもある。
そして、冬のあるときだけ一瞬だけだが・・・


黄金の鐘が鳴り響くときがある。
決まって、あの煉瓦造りの路地が見えているのだが
俺は、ふと気付けば教会の前に立ちつくしていた。



―まるで、この情景は虚飾だと言わんばかりに。

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