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2009-02-18

『崩落せし無間の壁、覗き差す花弁。』


風が、仄かな香りを運んでくれる。
花吹雪を伴って、しかしそれらの花もまた馨しき芳香を放っている。
それでも、静かにそれらは調和し合い、厭な思い一つ残さない。

今、ここに立つ私は空を仰ぎ見る。
・・色はとても、鮮やかな青鈍色だった。
それはまるで・・・・


思い出す、灰に染まる衆生の日々の中。
そんなある日、私はこの「門」をくぐった。

『崩落せし無間の壁、覗き差す花弁。』

ただ一人、立ちつくす私は広い講堂に一人で居た。

喧噪が、ひたすらに私の周りを埋め尽くしていく。
この耳が得られるものは、ただ人のざわめきとそれだけ。
声は聞こえるけど、でもそれだけだった。
何も響かない、届かない、何も響かせない、届かせない。

それで、私は満足していた。
ただ一人で内を、自分だけを守りきるだけで精一杯だったから。
だから私は私の周りにまで、思いを遣る余裕なんて無かった。
何せそれが全てだったから。

誰かが私に声をかける、いや、かけた気がした。
かけた、と思しき人は私の顔に少しの笑みが見えたことから
きっと心細かったのか、次々と言葉を紡いでいった。
・・・誰も、そんなの聞きたいだなんて言ってないのに。私は言ってないのに。

自分のこと、ここのこと、昔のこと、大事な人のこと、友達のこと。
様々なことを、いろんなことをその人は話していった。
私はただ、よくそんなに他人に向かって話せるなっ・・て漠然と思ってた。
この人もどうせ、私に向かっては喋ってなんて居ない。

きっと、この人が話しているのは私にではなくて、自分にだろう。
私がそれとなく聞いているような頷きを返せば
この人はこの先、窘められでもしない限りこの話を止めようとはしないだろう。

それは、私にとって何物にも代え難い苦痛だった。

「ごめん、私・・ちょっと疲れちゃったから、向こうに行ってるね。」
「それでねー・・ってあれ?うん、わかったっ、それじゃあとでねっ。」

今、思い返してみれば何時でもこんな風にこれは言えたんじゃないかって。
そんなことをふと思いつきながらも、内心苦笑した。
・・そんなこと、出来るわけ無いじゃない、って。

急いで、その場から離れた。
じょじょに喧噪が遠のいていく、私の耳からじょじょに。


出た先は、草原だった。
中央に位置する辺りに、一本の巨木が聳えるだけの、簡素な草原。
私はとりあえず、あの場所から逃れるために
・・・いや、誰も、私を追ってこられないようにと思い。
その、一本の巨木へと走り寄っていった。

ふぅっ、と一息付いた私は、巨木に背を預け座り込んだ。
ああ、何と壮大で優美な景色だろうか、ただ息を呑むばかりの緑。
上を見れば、そうこれは椿の木だ。あの、綺麗な花を咲かす、椿。
でも、私はそうではない。綺麗でも爽やかなものすら感じさせない、私。

孤独には慣れていた、むしろそれすらも望んでいた。
周りを拒んだのは、かつての裏切りを受けぬようにと誓ったから。
もう、あんな傷は負いたくないと、だから私は人を信じ・近づくことを止めた。

そうすれば、もう二度と傷は受けないで居られる。
私はもう、傷つきたくない。

「・・・おや?どうしたんだいこんなところで?」
「・・・・・・・っえ?」

ふと、唐突に声をかけられて私は即座に声のした方を向いた。
何でこの時、いつものように諦めた素振りで周りを見なかったのか、分からない。
ただ、向けてしまった瞳の先にいたのは、一人の「」だった。
「」は、私にさして驚いた様子も見せずに、呟くように続けた。

「え~っとだ、一応ここは私有地だから・・おっと、僕のだがね?
それとも・・・ああ、君は来たばかりか、じゃあ知らないのも無理はないか・・
うん?僕かい?それは君が知っても・・ああ、知りたいのか、そうか。」

言っていることはよく分からない。
でも、それは理解するものじゃなく、感じるものだと知った。

「貴方は・・・「」なのですか?」

問うたことは覚えていない。
過去に、私が思ったことは、続く今の私への足跡なのだと知った。

「そう呼ばれるときもあるけど、今のところそうではない。
何やら、君はそうなって欲しそうなんだけど、そこの所はどうかな?」

訊ねられた真意は分からない。
でも、確かにその言葉と問いは、私へと向かって告げられていた。

「・・それなら、私は貴方に「」になって欲しいです。
そして、私はそうなることを・・・き・っと・・望ん・・・で・・ます。」

無上に嬉しかったのを覚えている。
この人こそ、きっと私にとっての「私」であって大事な「」なのだ。
気付けば、何故か視界が霞んでいた。もう、前が見えなかった。
目の前にいた人は、優しく手を差し伸べてくれていた。

足下に茂る若草に、雫が二、三滴落ちた後。
私はこの人と共にどこかへと、歩き出していた。
どこへ行くなんて行き先は決めてもいないし、決まってもいない。

ただ、私はこの人とならば、共に歩けると思えた。
それでも、過去の傷が疼くが、それもいつかは癒えていくのだと信じて。
私はもう一度、手を伸ばすことにした。
いつも、いつまでも差し伸べられていた手に、私の手を重ねるように。
差し出された手は彼の手だから、私はそれを頼りに生きていく。

頼りは貴方だけ、この畢生を愛に捧げようと心に決めた、あの日。


空は、やはり、綺麗だった。

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