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2009-02-19

『傀儡姫』


「それ」は、その為だけに作られ、そして、闇に葬られる。
ただ、それだけの存在。

決して、それ以上でもそれ以下でも、無い。

一つの例で言えば、彼女。
そう、涼のような・・・ただ、それだけのために作られる。


          『傀儡姫』


   【前編】

―白桜家、地下室にて。

そこは、暗闇。
その中で、揺らめく一筋の光があった。
それは、灯りが点った提灯・・・

それを持つのは、白髪ながらも精悍な顔立ちを持つ男。

男は風貌に反し、歳を感じさせなかった。

男の隣には、この部屋の雰囲気にそぐわない女が一人。
そして、女が口を開く。

「これで・・・・完成か?」
「御意、技術の粋を用いて創り上げました・・」

彼らの目の前には、女が一人。

「しかし、やりよるのぉ・・ここまで似せられるものか・・・
くくく・・傀儡にしては、ほんに瓜二つじゃな」
「有り難き所存で。」

高慢とした態度で、まるでそれが楽しむかのように話す女・・・
彼女こそが現白桜家当主、白砂。
その態度に、不満を感じさせない調子で応える、従者の男。

声に反応し、彼女は目を覚ます。
両腕は肩まで上げられ、そこで固定されていた。
両足は綺麗に揃えられ、同じように直立不動の形で固定されている。

目の前には鏡、そこに映し出される自身の姿。
そして鏡の隣に佇む、別の自分。
だが、その自分は、鏡に映るものとは、どこか、違っていた。

彼女の脳はそう認識した。
やはり、そこに鏡は、無かった。

「誰?」

何も、感情の抑揚のない声で、彼女は鏡の隣に座している者に訊いた。
それに対し、嘲笑うかのような調子で、応えた。

「お主は影武者・・・妾の身代わりとなるべく生を受けた傀儡」

緋色と金刺繍で彩られた着物で着飾った白砂が言う。

「まぁ、傀儡に命などあれば・・・の話じゃがな・・」
「質問に答えてくれないか?・・煩わしいのは嫌いだ」
「はっ・・何を言うやと思えば・・そんなことか?」

あからさまに、嘲笑の態度を崩さない白砂。
対して、毅然とした態度をとり続ける涼。

「愚かよのぉ・・・妾の名なぞ、そちに教ゆる必要なぞ在りはせぬ・・・・・連れて行け」
「御意」

指示を出された直後、白砂の背後より、控えていた別の男たちが闇を縫うかの如く現れた。
誰も彼もが表情はなく、まるで人形のような人たちだった。
そして、その中の一人が涼の肩に手を乗せた。

「何を・・」

涼が話そうとしたとき、別の人が、所持していた鉄棒で涼の頭に殴りつけた。
当たり所が悪かったのか、完全に気絶はせず、意識は残る。
否。そうなるよう故意に殴りつけたのかは、定かでないが。

「一刻ほど、慰み者とでもなっておれ・・・その後に、躾じゃ」
「なかなかの名案ですぞ・・・それ以降はいかほどに?」
「好きにしよれ・・・教育についてはお主に任せるぞ?・・・水鶏」

先程から、従者のように付き従っていた男、水鶏と呼ばれた男は恭しく頭を下げ

「有り難き所存で御座いまする・・・では、後ほどに」
「よいな?・・明朝迄じゃ・・遅れるなよ?後は頼んだぞ」
「御意」

頭に激痛を伴いながら、一連の会話を聞き逃さなかった涼は。
既に、男達に弄ばれながらも、心の奥から湧き上がる、醜悪なる感情を。
抑えられずに、また消すことも出来ずに、燻らせていた。

・・・

惨劇が終わり、ほとぼりが冷めた頃、水鶏によって回収された涼は。
水鶏自身の部屋に寝かされ、水鶏は涼の回復を待っていた。

一刻ほど後。
涼はまたも、目を覚ます・・が、しかし、先ほどと違うのは。

醜い憎悪の感情が自身を支配していることだった。

「気分はどうだ?・・・”涼”」
「聞くまでもないだろう・・・それで、貴様は誰だ?」
「私はお前を創りし者・・水鶏という」
「創りし、者?」

一つの単語に違和感を覚える涼。

「どういうことだ?」
「そのままじゃよ・・・ほれ、例えば・・」

おもむろに、脇差しを抜く水鶏。
そして、それを鈴の腕に当てて・・

「お、おい!何をする!」
「いや、ただ単に、自分が傀儡であることを知覚して貰おうと思ってな。」
「な、なんだと・・・・グッ」

腕は切り裂かれた・・・がしかし、鮮血が溢れ出ることもなく。
ただ、歪な、そして数々の、「線」が、涼の目に映る。

「こんなのって・・・」
「分かって貰えたかな?」

落胆の衝撃を隠せない涼。
しかし、どこか気を許せない水鶏に対し、涼は、気丈に振る舞う。

「は、なんだ、いくらあたしが傀儡だったとしても、貴様が作ったんだろ?
さっきは、自分の作品が穢されてるのに助けてもくれなかったな?」

ようやく、抑揚の付いた声で、感情を小出しにした声で応える。

「あれはな・・・仕方なかったんだ、姫様の手前な・・・しょうがない・・」
「・・・・」
「ああ、でな、お前の気分が悪くなる話ならまだあるんだがな」
「まだあるのか?」 「聞くか?」

すこし、逡巡した後、何かが切れたかのように。

「聞こう・・・で、なんなんだ?」
「ふむ・・・実はな、お前はあの姫様の影武者だ」
「それはさっき聞いた・・・で、なんでそうなってるんだ?」

涼は、全く驚いたそぶりを見せず、ただ、聞き返す。
水鶏は、理由を尋ねられ、機関銃のように話し始めた。

「今の白桜家は、主君・園田家に仕える形となっておる。
しかし、つい最近になって他の家々が主君に反乱を起こす・・・
つまり、謀反じゃな・・それが多くなってきおってな・・・」
「へぇ・・それで。」
「うむ、そこで園田家は謀反を恐れるあまり【人質】を要求してきおったんじゃよ・・・」

一瞬の沈黙。涼はその間にそれらの情報を脳内で処理することができた。
それから、口を開く。

「その人質とやらが、姫様だった・・・て訳か。」
「左様、無論こちらとしてもむざむざ姫様を人質に出す訳にもゆかぬ・・・
そして、唯一の善策が・・・お前、つまり影武者じゃ。」
「まてよ。・・・それって。あたしが姫の。・・・ってことは、あたしは・・・あたしはそれだけのために!?」

不満げな顔で、涼は水鶏に問う。
・・・問うと言うよりは、もはや確認の域だったが。

「まぁ・・・そうなるな。」

それだけで、彼女自身には十分だった。
彼女の存在価値は影武者としてのみのものだと。
決定され・・・事実が裏付けられた瞬間だった。



   【後編】


涼が、唖然としているとき、水鶏の背後の襖が開き。

「主、刻限が近うございます・・・お急ぎを」
「あぁ・・分かった」

黒子が、水鶏に告げ、短き応答を交わした後。
黒子は、その場から音もなく去っていった。
それがいた痕跡は、一寸ほど開いた、襖があるという事、それのみだった。

「さぁ、時間もない・・・気に入らないだろうが・・・」
「・・・まぁ、気に入った事もなかったけどな・・・」

そして、二人は立ち上がり、階下へと向かう。
徐々に白み始めた、空の下。

「入っておけ」

冷たい、従者の声。
しかし、涼が今まで出逢った人に比べれば、その人はまだ
人としての温もりがあるように感じられた。

涼が入れられたのは、十畳ほどの一間。
周りには、まさに目が眩むほどの金糸・銀糸で彩られた着物。
そんな物があるかと思えば、その反対側には
質素のように感じられるが、決して貧相には見えず
むしろ、気品漂う上質の着物さえ在った

それらがある中で、彼女は知る。
ここが、「衣装部屋」である事を。

そして、涼自身、これからも・・・また、これから先も
永劫着る事はないだろうと思われる、煌びやかな着物を打ち着せられ。
部屋の外に出たとき、目の前には
白砂が、自分と同じ姿をした娘と、二人立っていた。

「ほぅ・・・人形であっても、着る物が違えば見違えるのぉ・・」
「母様・・・あれは、一体なんですか?」
「あれは人形じゃ・・・たかが「姫!訂正を申し上げたく所存であります」・・・なに?」

白砂が、話を止めた。
そして、水鶏に問う・・・

「水鶏、妾の話に口を挟むとは、そなたも余程偉くなったものじゃのう?」
「それについては非礼を詫びさせて頂きたい・・・が。」
「が?・・・なんじゃ?」
「いくら人形とはいえども、これでも私が根を詰めて創った一品
それにて、人形ではなく・・・傀儡と、お呼び下さい」

白砂の、「人形」発言に対し、水鶏の自尊心が傷つけられたらしい。
しかし。
目の前で、二人のやりとりを見ている方としては、たまったものではないが。

「ふむ・・仕方ない。」
「そ、それでは!?」
「改めよう、傀儡じゃ、あれは傀儡じゃ・・・分かったか?”涼”。」
「はい、分かりましたわ、母様」
「それでは、”涼”お前は、もう部屋にお帰り。」

先刻とは、まるで別人のように振る舞う白砂。
嘲笑・軽蔑などの感情は一切込められず。
今、感じられるのは、慈愛・親愛などの優しい雰囲気だった。
”涼”は、4人の従者に連れられ、本丸へと戻っていった。
その後、城門の方より、男が一人走り寄って来て。

「姫、申し上げます、申し上げます!」
「来たか?」
「はい、園田家より先方より御老中一行様、受け取りにいらっしゃいました!」
「よい、報告に礼を申す・・・退がれ」
「はっ」

急いで、男は退がる。
そして、笑みを浮かべた白砂は、涼に振り向き

「クク・・聞いた通りじゃ・・もう、長くないのぉ・・・連れて行け」

涼は、何も言わず、押し黙ったまま、大勢の従者に連れられ
城門へと向かう。

「待て!」

突如、水鶏が声を張り上げた。
そして、既に駕籠に入れられた涼に走り寄り、小声で話す。

「よいな。決して何も言うではないぞ?
姫は、お前が行った後、お前は死ぬように言っておられるが、それは違う。
近いうちに、我が白桜家は園田家に対し、謀反を起こすべく、準備しておる。」

涼は、水鶏の驚くべき告白を聞き、声を出しそうになったが、すんでの所で、押し黙る。

「その時に、十中八九、私も参加する。
分かるか?・・・お前は向こうで飼い殺しなどにはならない。
それまでは耐えろ・・いいな?必ず私がお前を連れ出す。
だから、希望を捨てるな・・・いくら、影武者とはいえ
用が済めば、おさらば・・・と、なりがちだが、お前はそうさせない。」
「おい、何を話している・・・さっさとどけ、傀儡師ごときが。」

苦虫を噛み潰したかのような顔で、一歩、退く水鶏。
その隙に、城門の外へと連れ出される涼。

そして、城門の外で。

駕籠師は、園田家の駕籠師に、涼が乗った駕籠を引き渡し。
園田家老中側近は、白桜家大老側近に、文書を受け渡した。

こうして、涼は、園田家に、引き渡された。

・・・。

そして、園田家に引き渡され、二ヶ月が経った頃。
園田家の、本丸三階に涼はいた・・・そこに鎮座していただけだが。
涼は、水鶏の言葉を信じ、今か今かと、謀反を心待ちにしていた。
しかし、感づかれてはいけない為、決して、顔には出さなかったが。

(まだなのかよ・・・もう二ヶ月だぞ?)

そう、思った瞬間。
耳に、階下から爆音が鳴り響いた。

「襲撃だと!?・・どこからだ!?」
(よし!・・・どこだって?)
「もう、本丸に攻め込まれた!?・・・馬鹿な・・白桜相手にか?」

涼は、内心、喜んだ。
これで助かる・・・こんな自由のない生活―人生―から抜け出せる・・・と。
そして、勢いよく、襖が開けられた・・・

「涼!」

開けたのは、自分を創った、傀儡師・水鶏だった。

「何をしていた!遅いじゃないか・・」
「すまない・・思ったより斥候が情報を掴むのに難儀してな・・」
「さ、早いところどっかに連れてってくれないか?」

―こっちは二ヶ月も待たされたんだ・・どっかに連れてってくれないか・・?
そんな、一縷の希望も、水鶏の吐いた言葉によって、打ち消された。

「ははぁ・・・よかった。まだそれを真に受けていたか・・」
「なんの話だ?」
「だから、たかが影武者を助ける訳がないだろう・・・
影武者とは本来、死なせたくない本人の身代わりだ
このまま、お前を助けるとその人が、困るだろうが・・・」
「じゃ、じゃあ・・・前の話は嘘だったのか!?」

涼の中で、忘れかけていた、あの感情が浮かび上がってきていた。
―それは、憎悪・・・人に対する憎悪の感情。

「嘘も何も、まず、そんな事があるわけが無かろう・・・
影武者として、一番困るのが、自分から自分が影武者だと吐露する事だからな。
それを防ぐ為に、自分にはまだ希望がある・・・と、思わせるのが得策だろう?」
「じゃあ、さっきの斥候がなんたら・・・って言うのは嘘か!?」
「それは本当だ・・・せっかく始末しなくてはならない対象が
どこにいるかが分からなくて始末できませんでした・・・では、私の面子というのもあるんでな
やはり、下準備はしておくものだな・・・上手くいく。」

涼は無意識に、背後にあった一本の刀を手に取っていた。
それは、何故か。

水鶏の胸に、刺さっていた。

「ぐぁはぁ・・・」
「あんたもか・・・あたしの自由はどこにあるんだよ・・・」

すでに、本丸は炎に包まれていた。
気づけば、周りには。

一人の死体と、灰と化していく調度品。
そして・・・涼。
水鶏という、自分を始末しに来た者がいなくなった為に
こうして、自然死という・・・例を見ない消え方をする、哀れな傀儡が一人。

突然。
天井が焼け落ちた・・・が、それは横にずれ。
涼の頭上には、青空が広がっている・・・はずだった。

頭上にあったのは、空飛ぶ・・・そう、それは飛行船。
それは、涼の目に、綺麗に映った。
飛行船、そう言う言葉でしか、今は表現できない。
そして、涼に一番近いところの蓋が、開いた。

「生きたいかい?」
「あぁ・・・生きたいさ!自由に!」

蓋が開いた先には、一人の笑顔の女の子がいた。
そして、涼は。
自分はこんなに声が出せたのかと思うほど、声を張り上げた。

「じゃあさ・・・」
「?」

そして、彼は一拍おいて、こう言った。

「方舟に、来ない?」

その質問に、涼は。
笑顔で、首を縦に振った。

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