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2009-02-19

『琥珀道士』


          『琥珀道士』


荒野。
ただ、吹き荒ぶ風だけが累々と重なる骸を撫でる。
風に吹かれ、桜が散った。
桃色は褪せて、色は紅。
飛沫が飛び散った、成れの果て。

その中に。
琥珀色の髪が流れた。
鳶の瞳を持つ彼女は「琥珀道士」。
手指に挟むのは符。

ただ、紅桜の中を、立ち惚けていた。
足下に、炭と化し灰に散りゆく人の子を置いて。
彼女は腕を上げ、符を掲げ、唱える。

しかし、瞳には。
雫が。
一筋。



彼の、乖離戦争の、情景。




彼女は、道士としては、かなり名を馳せていた。
彼女ら琥珀道士の仕事は「闘争の援助」「魂魄の誘導」
その二つの力量が、彼女・・玻玖は飛び抜けていた。

符を使った符術を用いて、仕事を全うする。

しかし、彼女は一月前より符を持たなくなった。
乖離戦争に参加してからと言うもの。
彼女は、全くとして、村から外に出ようとはしなかった。
原因は、誰にも分からず、村人は困窮した。

幸いかどうかは別として
彼女の家系は村にとっての地主の役割を持っていた。
不信・不満・不平・・そのようなことは直接には言われなかったものの
それらは確かに、村人達の心に植え付けられていった。


そして、さらに一週間が過ぎた頃。

「主様、ここは・・策は一つしか取り得ません。」
「ご決断くださいまし・・」

場所は、玻玖の家。
村人が訪れ、ついに嘆願を申し立てた。

策・・・それは僵死と呼ばれる、補佐役の者を付けるというもの。
ただし、それは人でなく、符術によって生み出された存在。
完全な自律神経を持ち、性格は多種多様。
琥珀道士が持ちうる、最秘奥の秘技であった。
方法は、門外不出、技術は完全なる一子相伝であった。

主は、不承不承ながらも、それを受け入れ
僵死を、喚びだした。

喚び出された彼は「羅刹」と名乗った。
思考回路は天上天下唯我独尊、まさにそのものだったが
忠誠心においては、他には無いほど抜きんでていた。

玻玖は羅刹が傍にいることを、拒みはしなかった。
しかし、それだけであった。
普段通り振る舞っていても、そこに気はあらず。
過去の威厳・覇気等は抜け落ちてしまっていた。

羅刹が、無理を言って、玻玖を仕事に連れ出そうとしても
彼女は何もせず・・・符も構えず・・・

それは、さながら人形のようであった。

彼が、玻玖に付いて三日が経った頃。
そんな様子に飽き飽きしたのか、羅刹は一人で鍛練を積んでいた。
玻玖を一人にしておくのは、出来ない話なので
もちろん、傍には彼女が佇んでいる。

「おい、何を呆けてるんだ?」

声がかかる。
相手は紛れもなく玻玖に向かってだ。
声をかけてきたのは同業の「朱春」・・・自尊心が強すぎる
玻玖の存在が、重荷になっていた者だった。
要は、玻玖によって、自分のプライドが傷つけられてきた・・・
そう言うヤツだった。

「・・・朱春か・・」

玻玖は気怠そうに顔を上げ、朱春を見た。

朱春の隣には身の丈2メートルを超えるような巨体が居た。
天慎と呼ばれる彼は、その巨体を活かし
重量に任せた動きを本分にしていた。
ただ、彼は気性がおとなしく、朱春に指示を頼り切っていた。
悪く言えば、金魚の糞とでも云われるヤツ。

「はっ、なんだ、たかだか戦争に行ったぐらいで
ここまでヘタレるのか、お前・・・あ~あ、信じられないなぁ・・
この村一の符術使い玻玖様とも在ろう方が、たかが死人一人見ただけで
ここまでにも弱くなっちゃうのか・・あははっ、バカじゃないのか?」
「・・・そうかい・・・」

朱春は勝手に一人で話し始めた。
嘲笑・哄笑混じりの彼の語らいは、誰が訊いても
腹の虫が治まらないものだった。
それを、玻玖は心底どうでもいいように、聞き流していた。

その様子を見て

「・・・おい。」
「ん?何だい・・あぁ、お前も大変だねぇ・・
使えない主を持っちゃってさぁ・・・良かったらさぁ・・・」
「貴様の話なんか知ったこっちゃねぇ・・覚悟しやがれ・・
何人たりとも・・我が主の侮辱は許さん!」

彼は、朱春に飛びかかった。
拳を振りかざし、狗鷲のような速さと万力のような強さをもって。

「・・やめて。」

羅刹の一撃が、天慎によって防がれたとき。
玻玖の鶴の一声があがった。

「・・・なぜです?!・・何故止めるのですか?!
こいつらは、あなた様を愚弄したのですよ!?」
「・・もう・・いいのよ・・」

彼女は・・立ち上がった。
ただ、いつもと違ったのは・・・

「悪いけどね・・・もう、誰も傷つけたくないの・・いいえ
もう、傷つけない・・・誰かのため、とかそんなものじゃなくて・・
だって・・私が・・耐えきれないから・・」

空気が固まった。
羅刹でさえも、初めて見る玻玖の様子に気圧された。
そう、これこそが彼女の力。
琥珀道士としての、力だった。

その様子に、不意打ちだったのだろう。
気勢を削がれた朱春達は、まるで逃げ帰るように
そこから立ち去った・・・。

「・・羅刹。」
「はい。」

実質的に、これが最初の命令だった。

「・・連れてってちょうだい。」
「・・場所は?」
「あの場所へ。」
「・・承知。」

覇気が戻った玻玖は羅刹に抱きかかえられると、声を張り上げた。

「そういうこと、だから。
私は乗らないわよ、すべては私が弱かったせいだから。
迫害を受けたのも、誰のせいでもないもの。
それに・・・私はね、誰も恨んではいないのよ。」

それは、誰に対してのものだったのか。
自分か・・それとも、他の誰かに向けてか。

彼の地にたどり着いた玻玖は。
両手を挙げて「ただいま。」と、つぶやいた。
羅刹は、どことなく満ちあふれた笑顔をしていた。

そのときに、火傷を負った少女が駆け寄ってきた。
玻玖は、久方ぶりに、符を構え。

彼女の傷を、癒し始めた。






木陰にいた、二人の人影は、それを聞いた後。
「彼女は・・乗るべきではない。」と、判断を下した。
一人の影は、みるみるうちに小さくなり、動物の影へと変わった。

彼らの結論は、恐ろしく簡潔だった。

ただ単に、彼女は強くなったから。
それは、以前の彼女よりも格段に。

彼女には、まだ、残されているから。

と。
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