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2009-02-19

『永琳の永遠亭日記』


          『永琳の永遠亭日記』

   【1】

周りの環境がかなり変わった様な―というより落ち着いた―ので
このように、ここであったことをしたためていこうと思った。
別に、誰かに見せるようなものではないのだが・・・
いつか誰かが、きっと最初にみるのは姫様だろうが・・その時のために。

ここ、幻想郷は誰にも犯しがたい領域であるらしい。
いつぞやの、密室の術の折には非常に博麗には世話になった。
そして、その際の説明時に史記を貸していただけた稗田嬢に感謝の意をここに。

月からの使者はここに入ることはおろか、視認することすら難しいそうだ。
お陰で私は常時気を張りつめることなくなり、いつの間にか傍にいた
ウドンゲに薬の技術を教えながら、安穏と日々を過ごすことが出来ている。

たまに、というより以前よりは引きこもらなくなった姫様の
相談役として手を焼かされるぐらいのものだが、正直まだ悩みなど可愛いものである。
ひいては、わがままっぷりがまだ残っている、いや幼心がまだ残っていて
少女らしさが垣間見えてまだまだ可愛い盛りである。
・・・ときに、親ばか、とも言うのが見える私も私だが。

とはいえ、近頃は非常に平和である。


が。


最近、非常に心配である。
何がと言われても困る、ふむ・・いや、なかなか非常事態だ。


不肖私、八意永琳。
過去、月にて天才の異名をも付けられた覚えもあるのだが・・・
そして、同時に姫様の教育係兼護衛兼相談役兼保護者として、やってきたのだが。



なぜ。

なぜに。



姫様の仇敵、藤原が姫様の部屋に入り浸るようになったのか。


はて、記憶が正しければ巫女達一行が私たちを止めに来た際も
その時は確かこの二人は殺し合うなどと言う、双方死ぬこと叶わずであるのに
夜な夜な、外の竹林の開けた場所―上白沢の御嬢が木を燃やすな壊すなと言ったらしい―で
「弾幕ごっこ」に託けて、日夜爆音を響かせていたというのに。

それが今となってはどうだ。
昼の食事もたけなわの頃にふらっと藤原が現れては・・

・・・いや、別に常識知らずとか不作法というわけではない。
上がる際に必ず手みやげは欠かさぬようだし(大抵、まんじゅうか葛餅)
どこぞの魔法使いのように、窓からや屋根から突撃というわけでなく
当たり前のことなのだが、きちんと戸口から入ってくる、失礼と一言残して。

基本的に来客はウドンゲが取り次ぐのだが、それを聞いた姫様の声が
非常に、非常に、非っ常に明るく楽しそうで嬉しそうでまさにそれはもう・・
恋に恋する少女、否、乙女であるかのような年相応の対応で
それをみた藤原もまんざらではないかのように、姫様の頭を撫でるのです。
微かに頬を染めながらもだ。

先日、つい不覚にも、その瞬間を目撃してしまい
その時はかなり作り笑顔であったことはもはや言うまでも書くまでもない。
ただ、かなり遺憾であり憤慨したことこれ事実です。
その後一人、部屋で「姫様は私の・・」と、ぼやきつつ枕を濡らした一日でした。


一月ほど前にその光景を見た一週間ほど後から
姫様から直々に「妹紅をここに泊めても良いかしら?」などと言う言葉を頂く。
名前で呼んでいることに関しては、ずっと以前からそうだったので
特に気に留めることも無かったのだが、言い方のニュアンスがどうもおかしい。

というよりも、たったそれだけを言うのにやたらに照れている素振りがみられる。
何故だろう・・この時、どうしようもない憤慨が内心あった。
しかし、どうやらこのお願いを断ると些か問題があるように思えた。
直感なのだが、どこか非常に思い悩んだ後がみられたからである。
断れないこともなかったが、それはあくまで私情、理由にならず。

と言うことで、渋々・・いや、少なからず了承を出さざるを得なかった。
とりあえず、私の解答の後、花が咲いたような笑顔で「ありがとう、永琳」と
言われた日にはその場で卒倒してもおかしくないぐらいに可愛うございました。
ごちそうさまでした。


続きはまた明日。


   【2】

生活費を稼ぐために、薬を作ってみた。
先日、ウドンゲが鈴蘭畑にいたメディスン・メランコリーという鈴蘭の
人形と出逢ったらしいので、鈴蘭の花が入り用と思えたので連れてきて貰った。

本人は、「人形の不遇、如何ともし難い現状からの脱却」を根底に
人間にはあまり好印象を持っていないようだったが、少しばかり説得。
少しながらも、鈴蘭の花を分け与えてくれるように頼んでみた。
了承が頂けたので、今度から比較的簡単に鎮痛剤が作れるようになる筈だ。

そのウドンゲだが、以前は永遠亭の掃除・その他諸々の家事をやらせていたのだが
近頃は、隠れる必要もなくなったために頻繁に竹林の外へと遊びに行っているようだ。
主に紅魔館、白玉楼をメインに据えて行っているらしい。

たまにではあるが、博麗の巫女も遊びに来る・・・もとい、賽銭をせびりに来る。
「お金を入れて信仰心アップ、これでいつでも安泰よ!」と
鼻息荒く語っていたが、私も何度か神社を訪れたことがあるが
寂れに寂れていて、賽銭どころの話ではないような気もしたように覚えている。
むしろ、あそこに溜まっている妖怪や幽霊をどうにかすることが先決だと思うのだが。



さて、それよりも問題なのが先日書いた姫様のことである。
不運にもこの頃、姫様と藤原のが共に居る場面を良く目撃してしまう。
殊更に気に入らないのが、姫様が主に藤原に抱きついているように見える点だろうか。
その際に、藤原は明後日の方向を見ていることから、まんざらではないようだ。


少しでもその場に留まろうものなら姫様から発せられる
甘い声での「妹紅・・」という呟きが聞こえる。
ああ、なんといじらしいことか。その姿だけ見るならばどのような女子にも
辿り着けぬような可愛らしさと、愛くるしさと美しいが同居している・・・
その奇妙さがまた姫様を引き立てているというのに・・・・!


何故、それが藤原にだけ向けられているのか。



これは嫉妬なのだろうか。
たしかに、私もそういう時期もあった。
いつも姫様は私の後ろをトコトコとついてきていらして、鈴のような声で
「えーりん、どこいくの?」と私にお訊き下さります。

あの頃の姫様への愛情が、その残滓が今の私にのしかかっているのだろうか。
あの日向けられていた、頼ってくださるお気持ちは今や藤原に。
確かに、永遠に不変である感情などこの世にはないと、頭では分かっていても
どうやら、私の心ではそれを受け入れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。


・・そういうことなのだろう。
今更、子供みたいに「私だけの姫様」では無くなったのだと言うことなのだろう。
そう、そう考えると幾らか気持ちが落ち着くようである。




だが。

むしろ、ですが。





夜中に姫様の部屋の方角から、夜な夜な嬌声が聞こえるようになってきた近日。
声質的におそらく姫様のものであると思われるが・・・・
というより、このような事態にまで発展していることに
今更ながら私、この日記を書いている時点で気付かされているわけですが。

少しの時間音が聞こえなくなるような薬でも作ろうかしら・・・


・・しかし、この姫様の声もなかなか艶やかでいいものである。
そのうち、河童にでも頼んで音を残すことが出来る機会でも作ってもらおう・・・

さて、非常に明日が怖いものである。同時に楽しみであるが。
久々に姫様をカマにかけてみるとしよう、もちろん藤原に同席させて。
混乱すると果たしてどちらが全てを吐露するのが早いか見物である。





そろそろ、姫様のお悩みも実現に向かってきたので
その辺りも少しずつ内容的に充実したものになるように、粉骨砕身の意気込みで
私もこれに当たらせて貰うことにしますか。

明日は、洩矢の神社にでも姫様と優曇華院を連れて・・藤原も良いとしよう。
あそこの神はなかなかやるようである、巫女は博麗に及ばずと行ったところだが。


月も煌々と照ってきたので、この辺りで。

また明日。


   【3】

今日も今日とて姫様と藤原の中は良好のようだ。
藤原が主に永遠亭に来ていたので、彼女の方がお熱なのかというとそうではなく
逆に姫様が藤原にお熱なのだ、と言う旨を本日洩矢神社に参拝しに言った折に耳に挟んだ。

そう、いつまでも部屋に閉じこもって薬の制作も、暇が潰せて良いのだが
やはりそこは人の子、外に出て日の光を浴びたいと願うのも当然だろう。
私と姫様は月の民であったが、それでも日の光は月と違って
燦々と輝く辺り、月のように妖しく光る事もないのだ、と言うことで
比較的、日光は好まれるようだ。私にも、姫様にも。

神社には相変わらずこちらに不慣れと思われる東風谷の御嬢が
境内の掃除に所狭しと行きずり回っていた。ふむ、これを見ると
如何にあの博麗の巫女が、怠惰な性格をしていても仕事は出来るのだなと言うことを
嫌でも痛感させられる、否、もともと博麗は存在が役目なんだとか。

ウドンゲに姫様を八坂神と洩矢の神に逢わせるよう、言付けると
私は比較的町に慣れている藤原に着いてきて貰った。
道中、姫様について二三質問を通してみたが、いやはや、どうやら人となりとしては
とても好ましい人ではないか、ということを改めて認識させられた。


不死について。

姫様のことについて。

幻想郷について。

自分について。


主だって挙げればこのような質問になるのだろうか。
不死については、もはや諦めたと言っていた。

彼女は「あれだけのことをしておいて、輝夜は私のことを好いてくれるという。
その気持ちがある内は、やはり私は死ぬことで輝夜を裏切りたくはない。
一時は後悔したこの身体も、今となってはあの時の自分に感謝せざるを得ないな。」と言う。

それだと、二つめとほとんど変わらないのではないかと問えば
それだけ輝夜を大事に思ってるんだよ、とはにかんだ笑顔で答えてくれた。
時間の経過で非常に擦れてしまったが、元はかなり良い子なのではないか。

そういえば、この町の人とやけに顔を知られていますね。
と訊いてみれば、何とも不思議なことに独りだった私をこの中に引きずり込んだ
無二の友人が居るんだとか、その人は寺子屋で子供に教えているらしい。


はて、そういえば稗田の御嬢に付いてきていた妙な帽子をつけた
少し背の高い女性が居たのだが・・・彼女なのか?、確認してみれば
青い髪だったらまず間違いなく彼女だ、慧音という、と名前まで教えてくれた。

妖怪や半獣の類であるにも関わらず、人間が好きで
何かと問題があれば、人間側の肩を持つという少し風変わりの方らしい。

先日の事件の折には、被害を与えさせて堪るものかと言うことで
町があったという歴史を消してしまったということだ、なかなかに豪胆らしい。
人間好きが高じて、町一つの寺子屋で教鞭を執るにあたるという彼女。
町はずれの稗田の御嬢と仲が良いらしい、知識仲間だとか聞いた覚えがあるという。


幻想郷について聞いてみれば、外よりは大分幸せな世界。
という、簡素ながらも込められた思いは非常に大きな答えを頂けた。

よほど、死ねないということが首を絞め、迫害されてきたのであろう。
姫様はそのことについてさほど気に為されたことがないぞ、と言ってみると
快活に笑いながら、ははっさすがはお嬢様だ、やはり違うな、と言ってのけた。
皮肉のように思えたが、すこし目が泳いでいる点から照れ隠しなのだろう。

いや、なんとも、これは私から見ても好感の持てる人だ。
どうやら、私としたことが色眼鏡で最初から本質を見ようとしなかったらしい。


薬の材料となる各種薬草を買い求め・・・ようとすると
あら妹紅ちゃんじゃない、ほらほら持っておゆき、などと店の方は言いながら
品物を笹の葉に包んで、私たちに持たせた。

お代はと訊けば、妹紅ちゃんには色々お世話になってるから良いのよ。
と、不思議と凄いことをサラッと言いながらも業務に戻ってしまわれた。


神社に戻ってきてみれば、姫様が八坂のを相手に外の札
(妙な4種類の記号と1~10、奇妙な文字三つが組み合わさった計52枚の札)
を使って、神経衰弱なる遊びをなさっていた。
どうやら、東風谷の巫女の住んでいた外の世界では、廃れつつあるが
まだまだ各所で人気のある遊戯だという話を聞いた。



ただ。



帰ってきた際に、ウドンゲがとても憔悴していたのは何故だろう。
と、疑問に思わざるを得なかった。

何があったのだろうか、だが、ウドンゲが何かをしたのかな。
と思う程度で、何か納得がいってしまったので、この件は保留と言うことにしよう。

今宵も月が綺麗である。


また明日。


   【4】

朝から雨が降っていた。
竹林に住む兎達もどこか覇気や元気が無く、あまり目の前に現れなかった。
ただ、そんな日でも藤原はいつも通り姫様の部屋から出てきた。
おはよう、今日は・・・雨か、とまるでごくそれが普通であるかのように
私に話しかけてきた、真意は分からないがきっと何もないのだろう。

ひとまず挨拶を返し、姫様はまだかと問うてみた。
すると、少し顔を逸らしながらもまだ寝てる、などと言うものだから
ふむ、昨日はさぞお楽しみだったのですね、と笑顔で返しておいた。
とうとう顔を伏せてしまった彼女は、ただ目の前で手を振るばかりだった。

言葉など無くても伝わる、勘弁してくれと。その手は雄弁にその意思を物語っていた。


半刻ほど経った後、のそのそと寝間着のまま部屋から出てきた姫様は
甘ったるくもまだ眠そうな声で、あ~妹紅だ~と言いながら
藤原に背中から抱きつき、しなだれかかっていた・・無論、藤原は赤面していたが。

「ね~ね~、何で先いっちゃうの~?起こしてくれても良いじゃないのよ~?」
「おい・・ちょっと離れろって恥ずかしいからさ・・・」
「え~ヤダー、妹紅から離れたくないもん!・・ね~何で~?」
「・・・が・・ぃか・から・・・」
「え~何~?良く聞こえな~い・・・」
「・その・・輝夜の寝顔可愛かったから・・ちょっとな・・」
「・・え・・・嘘・・・ホントッ!ありがとっ!妹紅大好きっ!」

まともに聞けたのはここまでが限界だった。
これ以上はまさに二人の世界が広がっており、私としては複雑だった。
・・・しかし、それにしても姫様が麗しいのは変わらないのであるが。

余談だが、最後の姫様の言葉の後、何かを押し倒すような音と
僅かで小さい音ながらも、衣擦れの音が聞こえ
早々に私は今から立ち去った次第である、後ほど嬌声が響いたのは言うまでもない。


雨が降っているせいで、時間がよく分からない。
ただ、昼頃と思わしき時刻に氷精が夜雀と蛍、妖精とを引き連れてやってきた。
いや、正しく言うのならば引き連れられてきていた、というのだろうか。
どうやら、あのてゐが誘ったらしい・・・真偽はよく分からないが。

とにかく、彼女たちがここ永遠亭に来るのは至極珍しいことなので
ウドンゲに命じてそれぞれに僅かながらのおもてなしをさせ
その代わりに、あなた達のモノを少し分けて貰えないかと頼んでみた。
・・・私から言ったのが功を奏したのか、全員から快諾されるとは思ってもみなかった。

氷精の羽根、夜雀の爪、蛍から少々の虫、妖精の鱗粉を。
これで、当分新薬の調合で遊ぶ・・・否、研究が出来る事であろう。
また、今度他の友達も連れておいでとも言っておいた。
どうやら、まだ式神の式神や、宵闇の妖怪がいるらしい・・・興味が尽きない。

そのうちに、てゐが少しだけ姿を見せ彼女たちを連れて竹林に行ってしまった。


さて、そろそろ姫様達の睦言も一段落したかと思って
居間に戻ったところ、そこは二人が接吻を交わそうとしていたまさにその最中であった。
目のやり場に困り思考のために動作が止まる私。
丁度こちら側を向いていた姫様が私を視認し所作が止まる。

・・・そしてそれに気付かずに、未だ姫様の唇を貪る藤原。

一瞬の後、姫様は藤原を両手の平で突き飛ばし
ついでのように「蓬莱の玉の枝」を翳し、私に向かって放ってきた。
その際、突き飛ばされた藤原が倒れるときにしっかりと私を見たことは
視線の先から予測して間違いはないはずだった・・証拠として
彼女は今、居間の隅にて足を抱えて俯いている・・・きっと自己嫌悪なのだろう。

さて、とりあえずは飛んでくる蓬莱の玉であるが
姫様自身が切羽詰まってる状態であり、落ち着いてもいないため
普段の精度も何処へやら、まったく、これでは先ほどの氷精と良い勝負ではないかと
思わせられるほどの・・・いや、しかし衝撃的瞬間を人に見られたのだ。
これで落ち着けている方が私としては何か異常なのではないかと思える。

ひとまず、一歩踏み出し・・・・・




はたいてみた。







・・・落ち着かせるのに一刻、説得に二刻。

姫様の我が儘振りにも多少慣れていたつもりだったがこれほどとは。
しかも、全ての話の途中で藤原が絡むとやけに強気になる辺り
やはり、恋を知ると女の子は強くなるのだなと再実感した。

・・ただ、彼女たちの様子が終始どこかおかしかったのが気になるのだが・・・



今宵はこれで。


   【5】

少し、日が開いてしまった。
この日記も付けるのはこれで最後なのではないだろうか。
というのも、そろそろこの紙も今回のことを書けば尽きそうなのである。
いろいろと、忙しく嬉しくもどこか肩の荷が下りたかのような気もしないでもない。


先日、雲一つ無い晴天の下、たまには外に出ないとね~と笑顔で言いながら
姫様は私と藤原を連れ立って自主的に表に出ようと仰った。
何でもこの先開くつもりの、例の企画を進めるための材料や設備の調達のためらしい。
兎達に任せても良いが、それだと私の出る幕が無いじゃないの。とも仰っていた。

それに、私の考えたことなんだから主催者が何もしないなんて
私の意地に賭けてもそんなことはないんだからっ、とも仰っていた。

昼よりも半刻前ほどに到着し、様々な店に姫様自ら赴いていた。
風貌を見た村人達は、傍に付いていた藤原を見て姫様を無害と判断したようだった。
そんな勢いで、姫様は終始笑顔で人々と関係を作っていった。

一通り、村人との交渉を終え資材面でも十分な都合が付きかけた頃。


ふと、永琳、と一言。  私の名を呼ばれた。
その声は、いつもの我が儘じみた声ではなく、一本の糸が走っていた。

―ねえ永琳、貴方は・・私の保護者でもあるのよね?

ええ、その通りですよ、姫様。

―なら、一つだけ訊いても良いかしら?

ええ、何なりとおっしゃってください、私は必ず答えます。


そして、姫様はゆっくりと口を開いた。
右手はしっかりと藤原の手を握り締めながら。
藤原は最初はおどおどしていたが、姫様の顔を見るとふっと微笑んだ後
今まで曲げていた背筋をしゃんと伸ばし、不敵にも笑っていた。

それを見た姫様は、麗らかな春風のような動きでこちらをお向きになった。
その目は、何物をも寄せ付けぬ高貴な輝きで満ちていて・・・
在りし日の風格と威厳を兼ね備えた姫様がまたここに、いらっしゃった。


―妹紅と、いえ、藤原妹紅と私、蓬莱山輝夜は
一つ屋根の下で暮らしたいと思い、ここに籍を入れたい所存です。
しかし、何分私もこのような立場であり、永琳貴方に確認を取ろうと思ったの。
・・・・・・・どうかしら?


発言は、言葉は鈴のように良く響き渡り、それでいて心に残った。


結婚、ですか?

―・・そう言うことになるわね。


叫びたかった。噎び泣きたかった。
今この胸に秘める想いを吐き出しても良い、それでも良かった。
でも、それでも私にはそれは許されなかった。

それが、その確認という名の問いかけが「いつも通り」であったのならば・・・
えてして私はそのような行為を取れたかも知れない、やった後に
いつもの笑みで冗談ですよ、と一言云えば、それで事足りた。

分かってはいた。いつかは、この時が来るとも。
それも、藤原が永遠亭に入り浸りだして、姫様との睦言が始まったときから。
気付いていた、それでも気付いてしまえばこの通り、私は崩れてしまう。
いつからか、私は私であるために姫様と藤原を見ていなかった。

見ていた、しかし見ていなかった。
そこにある深き悩みや、幾らかはあろう葛藤の余地を。
姫様方は、きっとこの時を迎えるのを恐れていたのではないだろうか。


いまも、彼女たちは強き瞳で私を見つめている。
手を繋ぎ、不死であるが故にその愛は不滅であることは分かっている。
いや、愛が不滅であるなどという詭弁はやめにしよう、どうしようもない。
重要なのは、大事なのは・・・



姫様・・・。

―・・・なあに?

藤原・・・。

―・・・ん?


そして私は告げる。
彼女たちの新しい門出を祝って。
私の中での姫様のカタチを過去と今とを決別させるために。



「先、二人で、路を歩めますか?」

小気味よく、しかしそれでいてどこか悲哀をおびた声で、ええ、と。
二人の声が聞こえた。そう、彼女たちは涙していた。それでも笑顔であった。
ただ、そのままの悲しい笑顔で姫様はこう仰った。


―変わっても、変わらないモノもあるのよ。
私と妹紅は変わった、関係はいつからかこうなってしまったように。
私と貴方の中に、環の中に妹紅が入るだけ・・・そう。
永琳、まだ・・・いられるのよ?だから・・・・





――――――



博麗神社の境内の中、私は一人佇んでいた。
巫女は大幣を振り回しながらあゝ忙しいあゝ忙しい、とぼやいていた。
吸血鬼一行は日傘を差して、優雅にも巫女を追いかけていた。
それにしてもあのメイドもなかなか優秀のようである。
・・・虹の翼が魔法使いを追い回していたが、見なかったことにしよう。

亡霊と半霊は今日も悠々自適な日々を送っているようだ。
主に半霊が振り回されているようにしか、どうみても見えないが。



ベルが鳴った。


姫様が、藤原が。
かつての仇敵が、恨み恨まれの関係であった者が。
夜な夜な殺し合い、自らの気分で殺戮を行っていた者が。
それでもその中で、確かに相手への思いが育っていた二人。


・・ああ、姫様の白無垢はとうとう見ること叶わなかったが
永遠亭秘蔵の、否私秘蔵の姫様の正装を、この日贈った。

何千年もの時を越え、再び地上に降り立った姫そのものであった。



祝辞を、祝辞を、祝辞を。
神が、人形が、閻魔が、人が、妖怪が、妖精が、悪魔が、魔法使いが、河童が。
・・・そして、私が。
彼女たちに、これ以上ない祝福の言葉を贈った後、彼女たちは一言こういった。



「・・・良い環が、出来たわ。」












心より祝福申し上げた。
どれだけ言っても、書いても足りないほどに。

ついに、今宵は満月。
二人の門出としては非常に美しく良いものではないか。
暗き夜、静かに煌々と照らす月のような、いえ月の姫。



不死の鳥と共に、何度でも昇ることを私は願っている。
これからも、貴方の傍で守り続けることを誓いましょう。

永遠に。





了。

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