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2009-02-19

『幻想の果つる先、夢と境の向こう側へと。』【1】

          『幻想の果つる先、夢と境の向こう側へと。』

   【1】


ああ・・暗いな。
こんな深い暗い闇の中で俺は何をしているんだろう。


―・・ちょっと!アンタ大丈夫?


なんだ・・?声が聞こえるが・・誰だ?
すこし落ち着いた張りのある女性の声だが・・・誰だ?


―こんな所で倒れてるところ見ると、まあ碌な奴じゃないだろうが・・・


おいおい、いきなり物騒だな。人が倒れてるだと・・?
それは大変だな、何とか助けてやらないといけないと思ったんだが
そういえば俺の身体はどうして、さっきから動いている気がしないのだろうか。


―だからって見捨てるわけ・・・・ないでしょ?ほら!さっ・・手伝う!
―・・はぁ・・全く仕・・・から手伝って・・ぜ。

どうしてだ・・。
こんなときに意識が薄れていくなんて。
まだ、俺はあんた達の姿を見ていないんだ・・せめて一目・・・

そう思った俺はふと、自分の目が開く事を知覚した。
俺の目に映ったのは、綺麗な白と黒のコントラストに彩られた金の髪を持つ子。
その隣にいた赤と白に身を包んださながら巫女のような子。

そして、意識は途絶えた。
一願を果たしたからか、それとも他に理由があったのか。
それは分からないけども、そこから俺は何も覚えていない。

ただ、一つ確かなのは。

俺はもうすでにこの瞬間から、「幻想郷」という不思議な場所へと
足を踏み入れていた、否、身を置いていたのだと言うこと。
それだけが、俺にとっては真実だった。


・・・


次に目が醒めたとき、俺は布団の中にいた。
というか意味が分からない。何が?ってここにいる意味自体が。
いやまあ、確かに俺自身がこの前に何処にいたとかそういうのはまったくとして
思い出すことが出来ないのは確かなんだけどもだ。

それに加えて、俺自身が何物だっていう事まで分からないってのはどういう事かと。

あれ?これってもしかして噂に名高いキオクソーシツとかいう
物騒なアレもののアレなんじゃね?とか不毛に近い思考の最中で俺は。

「あれ?起きた?・・具合とか悪くない?」

とかいう、女の子の声を聞いたわけですよ。
まあ、あんまりにも突然だったもので、おっかなびっくり周りを見渡してみて。
で、現状俺のいる場所再確認ということに。

俺が整理した感じだと、ここは和室。
だって畳がいっぱい敷いてあるし、ベッドじゃなくて布団だし、これ確実。
当たり前っぽいことだけど、きっとこういう確認が大事なんだ・・たぶん。

「え~・・っと、アンタ訊いてる?」

で、実際問題この和室はいったい何処の和室なんだ、って言う疑問があるわけだけど
というか、なんで俺この部屋に入れられて布団で寝かされてるの?

「訊いてる?訊いてないわよね?うん、訊いてない、訊けやボケェェェェッ!!!」
「ぬうああああああああああああああああああ!!!!!」

ビビッた!超ビビッた!
ていうか誰だこの巫女さん・・可愛い子だけど・・
なんか・・・変わった巫女服着てるけど・・何で腋出してるんだ・・?

「あのねぇ・・人の話ぐらい聞きなさいよ!」
「ゴメン、えっと・・ちょっと考え事しててさ・・うん。」

怒られた。いや、絶対当たり前なんだけどちょっとぐらい良いじゃんかよーブ~ブ~。

「まあいいわ、とりあえず訊くけどアンタ誰なのよ?」
「いやあ・・・それが訊かれても俺にはさっぱりでさ。」
「は?・・・いやいやいやいや、そんな見え透いた嘘は良いから。」
「・・いや、君みたいな見ず知らずの人に嘘を吐く意味がないと思うんだ・・けど・・」

・ ・ ・ ・ ・

「・・・・霊夢。」
「ん?なんだって?」
「博麗 霊夢、私の名前・・・でも、霊夢で良いわ・・みんなそう呼ぶし。」
「霊夢さん?」

うわ~・・すっごい疲れた顔してる。
ここの人って・・・ていうかむしろ霊夢さんの知り合いって・・・何。

「もう良いわよ?貴方、「外」から来た人なんでしょ?だったら、うん。」
「「外」?・・・えっと、霊夢s「霊夢で良いわよ?」・・霊夢。」

・・・非常に怖かったので、言い直した。
もう二度とこの人はさん付けなんてして呼ばない。むしろ呼べない。
呼んだら何か死が待ってそうな雰囲気がした、一瞬。

「何かしら?」
「えっとさ・・「外」って何のことだ?あと、俺は自分が分からないから
よくは言えないけど、俺はこれからどうしたらいいんだ?」

当面の疑問、というかこれが分からないとどうしようもない。

「あ~・・そういう質問はメンドイからパスで。」
「マジでかっ!!」
「マジもマジも大マジよ・・・まあ、後者には答えてあげるわよ?私優しいし。」
「おお・・よかった・・そうだよな、どうしたらいいかが最優先事項だよな!」

さりげなく、霊夢は明らかに嘘を吐いた気がした。
何がって・・・まあ、なんとなくなんだけど・・アレは嘘だったと言わざるを得ない。

「まあ・・どう思うかは勝手だけど・・そうね。
とりあえず・・・ここは『博麗神社』よ、名前の通り私が管理してるわ。
正直、一人でいっぱいいっぱいだから「寝」だけは提供してあげるわ。
「食」は、なんていうかもう自分で何とかして頂戴。」
「・・・微妙にエラくシビアなのかヌルいのかが分からんな・・・それ・・」

要は素泊まり宿・・みたいなとこって解釈で良いんだろうな・・きっと。

「あとは、死なない程度にぶらついて頂戴。ここ『幻想郷』は人間だけでなく
妖怪・妖精・魔女・吸血鬼・半獣・現人神・閻魔・亡霊・神様まで・・・と
何でもありに近いぐらいルール無視だから、それさえ気をつければ大丈夫でしょ。」

本当に何でもありすぎて逆に笑えてくるラインナップ・・・すげえ。
というか、吸血鬼って・・てか現人神?・・マジでスゲえな・・

「難点はみんな女の子・・あ、男の人は『里』で道具屋やってる人ぐらいよ。
それぐらいね・・たぶん、当分帰れないから気楽に過ごしてて良いわ。」
「最後なんかさりげに酷いこと言われた気がするぞっ!気のせいか?!」
「気のせい気のせい、ほら、じゃあ行った行った。」

すごいアバウトというか大雑把だな霊夢・・まあ、いいか。
さて、何処に行こうかな・・・。



   【2】

まあ、半ば追い出されるように神社―『博麗神社』だっけか?―を出たんだが
正直なハナシ、俺ここ以外だと何処に行って良いのかさっぱりなんだが・・・

「霊夢って、その辺分かってて追い出したのか・・・?」

きっと、十中八九その確率は低いと思われる、ってかたぶん無いだろうな。
もしあったとしたら、どれだけ心根が腐ってるんだって言う。

「・・そういや確か『里』に誰か人が居るって言ってたな・・行ってみるか。」

とりあえず霊夢に関しては今は置いておくことにしよう。と思い
やっぱ『里』って言うぐらいなんだからやっぱ下ればいいよな(笑)という
誰がどう聞いてもアホ丸出しの思考で歩き始めた訳よ。
・・・ぶっちゃけ、神社出たら下り坂の道しかないんだけどさ。

「ていうか、この神社・・結構山の上にあるんだな・・結構高いし・・
なんか、向こうの山の方にもう一つ神社っぽいのがある気がするんだが・・・
あそこは後で行くことにして、今は『里』へ行くか。」

そういうことにして、俺は鳥居を潜り抜けて坂道を下っていった。
神社のくせして何気に石段の数が微妙に少なかったりとか
掃除はしているんだろうけど、多分手入れ自体はしてないんだろうな・・・とか
ま、思うだけで俺がそれをしようとも思わないんだが・・・

(でも、宿を提供してくれるお礼にしてもいいかもな・・・)

ふと、そう考えたときだった。卒然と俺は足を止めた。

「・・・・昼、だよな?・・今。」

真っ暗だった。
いや、それはもう容赦ないくらいに問答無用で真っ暗だった。
おかげで俺はついつい、誰もいないのに誰かに確認取っちゃうくらいに慌てた。

異常だ・・とりあえず一歩下がってみた・・・二歩、三歩・・・あ、明るくなった。
そしたら、俺はすごいものを見てしまった。下がった後に見た「闇」の全容、そして。
下がるその一瞬の時に、闇の中で閃いた一筋の眼光、そして、手が。

「・・この黒い丸って・・てか、球体か?なんでだよ・・
誰か居るのかよ、こんな球の中に・・そういや妖怪が居るって言ってたな・・」

直接口には出さない、ていうかむしろ出せない。
あんなのがあるとは思えないし、逆にあってもらっちゃ困る。いろいろと。
ちゃんと明言しちゃうと、マジでそれが具現しちゃいそうで嫌だ。

「あれー?・・おかしいなー、逃げちゃったかな?」
「ほら、あんまり悩みすぎるから俺もついには幻聴まで・・ってええええええええ!!!」
「んー?うるさいー・・よく分かんないけど、逃げないのー?」

思考が追いつかない、追い付く訳も道理もクソも何もあったものじゃないけど。
ぶっちゃけちょっとハイトーンの幼い女の子の声が聞こえてるんだが
姿形は見えないわ、声は闇の球体から聞こえてくるから奇妙で仕方ないわで
というか、逃げる?おいおい・・・もしかしてもしかすると俺ってピンチなのか?!

「待った!俺は君に何もしないし何もしないから何もしないで欲しいなっていう・・」
「・・?ヘンな人間・・てゆーかそーじゃないんだよー?」
「・・・は?」
「アナタが何もしないって言っても、私はアナタを食べるだけだから。」
「ちげぇよ!そうじゃねぇよ!食べんなよっ!人間を・・むしろ俺を!」

会話が噛み合っていない事は、薄々分かっていたが・・・しかし。
言ってる途中で、闇から次第に何かが現れてきた。
髪は薄い金、まだ幼い顔立ちだけど血のように赤く、紅いその瞳。
白のブラウスにただ真っ黒なツーピースを着た、彼女は少女だった。

「・・なんだ、普通の可愛い子じゃん・・」

俺は、彼女が俺を食べるという事実を胸の奥に閉じこめて・・・いや、違う。
本当はそんな事なんか、この一瞬の時にはどうでも良いことだった。
今まで感じていた、ひたすらに恐怖しか与えないような闇から出ていた声。
その正体が、外見は・・・この際、この子の本質が何なのか?ということは気にせず
見た目だけなら、俺はその子を素直に可愛いと思えた。

だから、俺はそうやって、素直な一言を述べた。
身体にのし掛かっていた恐怖や、重圧、その他諸々の負の感情を押しのけて。

「ふぇ・・・?な、にを言ってるの・・?」

すると、忽ち彼女の周りからは闇が消え去っていった。
まるで砂に描いた軌跡を、波が掻き消すようにあっさりと、キレイに。
同時に彼女の顔がさっきと比べて赤みが増している・・とはいうものの
正直な話、さっきまで彼女は闇の中に埋もれていたせいかよく分からないけども。

それで安心したのか、俺は彼女に普通に話しかけることが出来るようになった。

「えっと・・とりあえず、俺を食べるって言うか人間を食べるのは止めて欲しいんだが・・」
「えー・・どーして食べちゃダメなのー?」
「どうして、って言うか、君だって仲間とか友達とかを殺されたらイヤだろ?」
「それは・・そうだけどー・・じゃあ、何を食べたら良いのー?」
「そうだな~、普通に肉とか野菜とか、人間が食べるようなもの、かな?」
「私、そーゆーの作れない・・・」

つい、俺はあ~・・と言ってしまう。そういや俺もそういうの出来る気がしない。
苦肉の策の案だったわけだが、納得はしてくれたみたいだけど方法が問題らしい・・
でも、ここでハイ、サヨナラと放っておく訳にもいかないしなあ・・・

「じゃあ、ちょっとアテを探してみるからそれまで待っててくれるかい?」
「うん、分かったー。」
「えと、そういえば訊くのを忘れてたけど、君の名前は?」
「ルーミアだよー、それなら、アナタは?」
「あー・・ちょっと俺の名前は分かんないんだ、ゴメンな。」
「じゃあ、今度会うときに教えてねー、それじゃあねー。」
「ああ、それじゃあなー。」

彼女はそういうか早いか、すぐさま先の闇を自らの周りに闇を展開し球を形成した。
ふわふわと浮きながら、それは上空高くへと行き向こうへと消えていった。
手を振り、見送ってから俺は、『里』への道を急いだ。

・・その時、頭上から迫る「塊」に気がついていればすぐに『里』に着いた気がする。
・・・でも、俺はきっとこれは避けられなかったんだろうと思う、フラグ的に。
おかしいとは思ったんだ。

「ちびたっ!・・何?水?・・てか、これ氷じゃん・・何でだよ・・」

空を仰げば、雲一つ無い晴天。雨霰や雹霞とかそういったのが降る気配は何処にも無し。
むしろここまでくればお洗濯が捗ること間違いなし、とかいうそういう天気。

「おまえー!ここで何をしてるー!」

エラいハスキーな声が聞こえたのその時だった。



【3】


怒声が響く。

「そんなとこ呑気に歩いてんじゃねーーーーぶばっ!」

声が響いた矢先、ラグビーボール大の氷塊が俺の歩いていた山道の
表面に、数十を超えて小さな氷が突き刺さり、遅れて氷柱が二三個ほど落ちてきた。
そしてその荒行をしてのけた当の本人はと言うと・・・


頭から地面に埋まっていた。


・・正直、一体何がどうなっているのかが俺には分からなかった。
もちろん人並みには、状況理解力とかそんなのもあると思ってた。
あると思ってるんだけどさすがにこればっかりは無理だと思う・・いろいろと。

具体的に言うなら、肘から上は見事に土の中に埋没しているみたいで
足の形がなんか・・・某探偵さんの有名な
白い仮面の人の家の話に出てくるワンシーンみたいになってる。
ただ一ヶ所違う点があるとするなら・・・
アレは湖の中だけど、これは土の中という何ともアホな事になってる点・・・

「ああ、何か叫んだにしては妙な語尾だなって、うん、まあ思ったな・・・今更。」

ぼやいても仕方ないけどなっ!
どう頑張っても開いた口がふさがらないってこの事なんだろうな・・
きっと今の俺の顔ムンクだよ、ホントに両手を顔に当てて叫びたい。

「~~~~~~~!!!!」

何か喋ってるんだろうなぁ・・・これ。
でも土の中だしなぁ・・・これが何を言ってるのかさっぱりなんだよなぁ・・・
・・だからってこのまま放置をして、『里』に向かうのはな~んか自殺行為のような。
というか、助けないと目の遣り場に困るのが実情だったりしちゃう純な俺。うん、死ねばいいな。

「仕方ないから抜いてやる・・しかないよな、これって。」

そう思った俺は、その青がキーカラーとなってそうな
見つけた瞬間から俺に致命傷というか、怪我とかそういうのを負わせようとした
THE☆危険分子の両足を掴んで引き抜いた。気分はまさに「大きなカブ」状態。

「ぐへゃっ・・死ぬ゛~い゛ぎがでぎな゛い゛~・・」
「おおっ!やっとこさ抜けたよ・・ていうか死なれたら困るぞ俺。」

そんなわけで、ズポッっていう小気味のいい音を上げて地中から引っこ抜いた。
その後に酸素吸引ならぬ、外気吸引をして・・とんでもなくアホなことをしている。

「スーハースーハー!・・ううっ・・敵に助けられるとはっ!アタイとしたことが!」

ただ・・・引き抜くときに何故か凄くひんやりというか・・・いや、気のせいだろう。
アレが体温だったらどう考えても死人ってことになっちまう。
でも霊夢の発言的に、微妙にあの中に死者とか、そういう類が居そうでイヤなんだよな・・

「こらっ!お前~!アタイのテリトリーに勝手に入ってくるなー!」
「はぁ?」

いつの間にか呼吸を整え―意気は荒いが・・―俺に指を差していた。
つーかこの無駄な敵視って何なんだ?
いきなりそんなこと言われても俺としてはとりあえず、疑問系で返すことしかできない。

「こっからちょっと先にある湖がアタイのテリトリーなんだよっ!」
「・・・ちょっと・・?いや、そんな湖どころか水がある気配すら見えないけど。」
「いくらアタイが最強だからって、そんな嘘吐かなくて良いんだぞっ!」
「いやいやいや、嘘だと思うなら君もちょっと振り向けば分かるって。」

ちなみに、俺の視力は良い方だったりする。
それでも・・・現地点から周囲1キロぐらいにそれっぽいのは見当たらない。

「ふっふっふ・・アタイが最強だから背後を取ろうとしてるんだな?」
「それはない、というか俺は君のことを知らん!」
「うっそー!?マジで?最強で天才のアタイを知らないって言うの?!」
「だって俺、『幻想郷』の人間じゃないそうだし・・・」
「いや、それはない。」
「てめー!そっちこそねーだろ!どう考えても!」

無意味にほくそ笑んだり、何故か無駄に俺より優位に立ちたがったり・・・
そして、ことある毎にアタイが最強だ!、と宣う少女(で、差し支えないと思う。)
何というかここまで話してたら、凄く思うところが一つ。

「ふっふーん、アタイは天才だから嘘を見抜くぐらいどうってことないのさ。」
「そーか、それなら俺は大分早く君がバカだと言うことに気付いたよ・・・」

・・・つまりはそういうこと。

「バカって何よ!アタイはバカじゃないもん!」
「バカじゃないならせめて名前を名乗るとかしてくれよ!」
「アタイ?アタイはチルノだよ?ていうか名乗ったからお前も名乗れ~!」

・・・つ、疲れる・・・!
この子―チルノって言うそうだけど・・・―さっきの喧嘩覚えて無さそうだ。
ほんの数秒前の話題忘れるって、どんなだよ。

「ていうか名乗ったら名乗り返すって何で知ってるんだよ?」
「へ?アタイは天才だから知ってるんだぞ?!」
「はいはい分かったよ、チルノは天才だよ。」
「はっはっは、分かったら良いの。」
「ああ、俺も分かったよ・・チルノは下から一番目の(バカの)天才なんだな。」

()は言ってないぞ?一応、常識ある人間として。
何というか、口に出すのを憚られるというかその・・うん、まあなんだ。
チルノはどうやら普段褒められて無さそうだし・・・
それくらいで機嫌を直す、もとい都合の悪いことを忘れてくれるなら本望だ!

「なんかお前って良いヤツだな!アタイちょっと勘違いしてたよ。」
「いや、なんかもう分かってくれて嬉しいよ俺・・・」

ホント泣きたいくらいに疲れてる俺がそこにいた。
許されるなら、今から即座にチルノを振り切り『里』へと向かって全力疾走をしたい・・!
けど、なんかそれってフラグ的に絶対無理っぽくて出来ない・・!!
・・・・心で滂沱の嵐です。くすん。

「そういえば、お前ってこの世界の人じゃないんだっけ?」
「ああ、なんか霊夢が言うにはそういうことらしいんだけど・・・」
「けど?」
「俺にもよく分からん!俺自身に記憶はないし、ここがどこか・・って言うのは分かってるが
それでも、普通に生きていたいからな、こうやってブラブラ散歩してるんだよ。」
「へ~、色々大変なのは分かったけど霊夢って言った?」

ん?ちょっと雰囲気変わったぞ?・・分かりやすいな~・・

「言ったけど?」
「クソー!あの紅白巫女ってばアタイの偉大な姿を横取りしてー!」
「・・いや、何かよく分からんけど・・・」
「だって人助けじゃん?!だったらそれを助けた人ってもう英雄じゃん!?」

何となく理解できないこともないけど・・・ないけど・・!
あまりにもなんというか、アレ過ぎてって言うかバカすぎて・・!

「え?何で泣いてるの?あ!もしかしてアタイが良かったなって思ってるの~?」
「ああ・・そうだよ、ホント、マジでそう思えるよ・・・」

ああ、バカらしくてホント嫌いになれないな、チルノは。

「ああ、そうだチルノ。」
「ん?どうしたの?」
「湖って言ってたよな?それってどっちの方向にあるんだ?」

最初に言ってたことを思いだした。
もしかしたら、何か面白いものがあるかも知れない。
湖自体じゃなくて、その奥にある何か、が少し好奇心をくすぐった。

「それならこっちだよ?連れて行ってあげたいけど、アタイは最強だから巫女を・・!」

そう言って、『里』とは少しずれた方角を指さすチルノ。
関係ないけど、多分この調子だと毎回霊夢に辛酸を味合わされてるに違いない。
・・・少しだけだけど、霊夢の常時のけだるさの理由が分かった気がする。

「ありがとな、その先ってなんかある?」
「お前何にも知らないんだな!湖の先は『紅魔館』っていう真っ赤な家があるんだ!」

そして、口ぶりからしてチルノはそこに行ったことはない、と。
きっと華麗に追い払われているんだろうなって予測が。

「へ~、『紅魔館』、か・・・ちょっと行ってみるかな?」
「行くのは良いけど門番がいるから入れさせてくれないよ?」
「ああ、いや、見てみたいだけだからさ。」
「ふ~ん・・・変なの。」

まあ、少しだけその門番さんのご厚意があって、入れるとなったら
それほど嬉しいことはないけど、まあ、それはないだろうから見るので十分だったりする。
だってこの世界じゃ新参者だしな。

「ああっ!こうしてる間にもアタイの最強の座が!」
「揺らがねえから早く霊夢んとこ行ってこい!」
「分かった!やっぱお前良いヤツだな!アタイお前みたいなの好きだぞ!」

・・・しっかし、少し可愛いけどこれほど嬉しくない好きって珍しいな・・・
なんでだろう?考えたって理由が分かる物でもないけどな。

「じゃあな!うおーっ!霊夢ー!今日こそ息の根を止めてやるー!!!」
「・・ああ、頑張って散ってこい。」

すごく良い笑顔で敬礼してみたり。
足は既に『紅魔館』へと向かっているが、きっと俺が『紅魔館』へと着く前に
チルノは霊夢に熨されているのが、目に見えて想像できるのが・・・まあ。
それがチルノらしいといわれればどこか自然と納得できるのも不思議だ。

「ま、ホントに湖も見えてきたし、これならすぐ着くかな。」

丘から林を抜けて、かなり広い湖が姿を現した。
そして、目をこらすと紅い霧が遠くを染めていた。

「・・あれ、なんだろうな。」

徐々に近づく、赤い館『紅魔館』へと俺は歩を進めていた。



【4】


てこてこと歩いてく内に、俺は一つだけ大事なことを知った。
まあ、当たり前だ・・・とか何とか言われたら身も蓋もないんだけど・・・
つまりそれは何かって言うとだな。

「見えてるものが近いって誰が決めたんだっつーのっ!」

・・・湖を通り過ぎて、その奥にあった木々を抜けて
そして鬱蒼とした森へと変わっていくその様を、俺はもう延々二時間は見ている。
別に迷っているわけではない。ちゃんと足下には舗装はされていないが
明らかに人の通り道、所謂「獣道」が作られていることが素人の俺から見ても分かる。
それに、こんなすごい森の中からでも『紅魔館』は見えるという・・・

「あれってどんだけデカいんだよ・・ありえねえだろ・・・」

思わず独りごちてしまうのも仕方ない。
何せさっきから歩き通しで、そろそろ体力的云々よりも精神的にキツい。

「いったいいつまで歩けb・・って急に開けたな、おい。」

気付けば俺は森を抜け、左右に木々が立ち並び正面奥に門が見えるという・・・
どう見てもお金持ちのお屋敷前です、本当にありがとうございます。
でもこの『幻想郷』ってそんなお金持ってる人居るんだろうか・・・?
具体的な例を挙げると真っ先に思い浮かんでしまう紅白が、俺の脳内なのに
まさに鬼のような形相で、強烈な死線(誤字ではない)を感じ、すぐに頭を振った。

正門(?)に近づくにつれて、門の前に人影を見つけた。
まあ、こんな所に居るくらいだからやっぱお金持ちか、それとも門番かな・・・とか
そんなことをふわふわと思い浮かべながら、その人に近づいていくと。


見事が鼻提灯が作られt・・いや、いらっしゃいました。


この時点で、俺の中の選択肢は全て壊滅させられた。
曰く「お金持ちは鼻提灯つくって仁王立ちしながら寝たりしない。」
曰く「門番が門の前で寝る訳がないだろう・・・常識的に考えて。」

・・・しかし困った。
もはや、顔を見たら爆笑必至なので意図的に見ないようにしているが・・・
とりあえずこの人をどかさない限りは『紅魔館』に入れそうにもない。
寝てるくせに、妙な威圧感のある仁王立ちだから困る。
でも、一応意を決して訊いてみた。

「あの~・・・?」
「・・zzz・・ぁあ!違います・・・そこはパッ・・・zzz・・・」

パッ・・・?謎は深まった。
というか何の夢って言うかどんな寝言なんだよって言いたい!
でも言えないこのもどかしさ。ハンカチ噛んでキィーッって言いたい!

「えっと・・起きてくださ~い・・・・」
「zzz・・・はにゃにゃにゃ・・・はぅあぁっ!」

適当に肩を揺さぶってたら、すぐ起きた。
・・本当にこの人は何なんだろう・・・ますます分からなくなってくる・・
起きたショックから、両手を前に出して―まるでファイティングポーズ・・―はわわわわ言ってる・・
そして、あまりにも鼻提灯が衝撃的だったせいか全く気付かなかったけど
薄緑色のチャイナドレスに身を包み、中華帽に龍と書かれた星のワッペン?が付いている。

ここから導き出される答え・・・それは・・・!

「・・はっ!まさか中国人か!?」
「違いますっ!!私は中国じゃないです!!」

コンマ二秒で返答されました。

「え・・?そんな格好してるのに中国人じゃないの?」
「当たり前です!」
「すっごく紛らわしいよ・・そういうのってキャラ付けって言うんじゃ・・・」
「それは少々、この『幻想郷』では言ってはいけないような・・・」
「いや、たぶん『幻想郷』に限らずともどこでも言っちゃダメなような・・」

何となくだけど、そういう世界の常識って言うのがあっても良いと思うんだ。

「ですけどね、ここ『幻想郷』ではそういった常識に囚われていてはいけないんです。」
「へ~、それはまたなんで?」
「『幻想郷』・・・ですから。」

・・・なまじ期待すると失うものは大きいと言われる。
例えば、信用とか絆とか、そういった情緒面の何かが主たるものだったりする・・・
というのは俺のマンガとか本の知識なんだけど・・・
ちなみに、どうでもいいかもしれないけど、この場合で俺が無くしたものは。

「はあ・・・」

少しでもこの人を凄い人かなと思ってしまっていた心、だったりする。
しかもかなりいい顔して、遠い目で言われた日にはもう溜息しか出ない。

「あの、すいません。」
「そう、この『幻想郷』は全てを・・っと、何でしょうか?」
「この中に、というか『紅魔館』に入りたいんで、そこ・・のいてくれません?」

何かとてつもなく語っていそうだったこの人に、本題を訊いてみた。
そう、この人さっきからこの門の前から微動だにせず、立っているんです。

「え~と、それだったらアポとか取ってらっしゃいますか?」
「アポ・・・ってアポイントメント?」
「ええ、こんな所ですがお嬢様含め『紅魔館』の方々は忙しいですので・・・」
「・・・いやいやいや、ここでどうやってアポを取れって言うんだよ・・」

そもそも『幻想郷』に電話ってあるのか・・・?
それ無しだと手紙?どうやって?俺ここに来たばっかりでどうやればいいのか知らんぞ?
ていうかお嬢様て・・・じゃあ貴族か何かのお屋敷?
・・いや、『紅魔館』だからお館?どっちでも良いって言うか違いが分からんが。

「まあ・・・」
「えっと、まだなんか必要なものとかあったりするんですか?!」

これ以上あるとなると、俺にはどうにも出来ない。

「あくまで形式上のものですし、そもそもアポって何なんでしょうね?」
「・・・ちょっと待ってください、言っている意味がよく分かりません。」

そして俺の頭の中は今ちょっとびっくりドンキー状態でパニックだ。
おいおい、必要とか言いながらこの人自身が分かってないって何だよ・・・

「いや~、咲夜さんからそう言えって言われてるだけで私には何の事だか・・
あ、咲夜さんって言うのはウチのメイド長の事で、すっごく有能なんで私の憧れなんですよね。」
「はあ・・いや、それで通してはくれないんですか?」

正直、そんなに話し込まれても俺にはさっぱり分からない。

「通すのは・・いや、門番の一存だけで決めて通しちゃったら後で咲夜さんから折檻を・・・ぐす。」
「いや、そこで泣くなよ・・っていうか門番だったんだ・・・てっきりアブn・・何でもないですよ?」
「はい?ああ、はい、私ここで門番を務めさせていただいてます紅美鈴と申します。」
「・・・えっと、美鈴さん?」
「そうですよ?どうかしましたか?驚かれているようですけど・・・」

・・・いや、待て。
結果を急ぎすぎるとどっかに間違いがあるはずだ、決め付けるのは早計だ。

「その、ですね。」

深呼吸して一拍おいてみた。
ていうかそうでもしないと、すぐにぶっちゃけて仕舞いたくなるほど、これはヤバい。
何がって言うか、いやもうどこから言えばいいのやら・・・

「着ている服ってチャイナドレスですよね?」
「そうですよ♪実家からの贈り物で一番気に入っているから着てるんですよ~」
「えっと・・・何かされてます?こう・・武芸とか・・」
「あ、分かります?太極拳から八卦掌、八極拳や他の中国拳法とか得意ですよ~」
「もう一回だけ、確認したいんですけど、お名前ってなんでしたっけ?」
「忘れちゃったんですか?・・『紅魔館』で門番をしてます紅美鈴と言いますよ?」
「一つだけ・・・良いですか?」

俺の心は決まった。
というか、頼むから言わせてくれ。お願いだから、本当に。

「良いですよ?どうしました?」
「・・・どっからどう見ても中国人じゃないかああああああああああああああああああああ!!!!」
「わひゃーーーーーーーーーっ!!!」

はっ、ついあまりの突っ込み処の多さに叫んでしまった。

「そんな訳ないでしょう!私は中国人なんかじゃないです!」
「いや、そりゃ俺もね?チャイナドレスとか拳法とかまでならまだ分かりますよ!
その辺ならまだ、”ああ、中国が好きなんだ~”で終われますよ!でもっ!!」
「でも、何ですか!?」
「名前でアウトだと思うんですよ・・どう考えても・・・」

いや、もうホント突っ込ませてください・・・
これだけは他は許しても俺だけは許すことが出来ない!

「紅美鈴(ほん めいりん)ってどう聞いても中国名じゃないか!!」
「あの~・・・何か勘違いされてません?」
「・・・・へ?」

・・・すごく・・・不完全燃焼です。

「あの~、何だかすごく言われてますけど・・・私は中国人ではないんですよ。」
「いや、だから・・・どう考えても・・って、え?」
「ですから、「人間」では無いんですよ。」
「・・え~っと、それだとつまり美鈴さんって・・・」

恐る恐る訊いてみるも、凄く嫌な解答しか予想できないのがイヤすぎる。
なんだろう、ここ数年流した覚えのない冷や汗とかが背中を伝ったのがやけに分かった。

「「妖怪」、ですね。」
「HAHAHA!妖怪!ようかい!ヨウカイ!YOHKAI!」
「いやそのあのその、えっと大丈夫ですか~?」
「・・・まさか本当に「妖怪」だったりしちゃうんですか?その態で・・?」
「そうですね~、何の妖怪かはあまり知られてないので、言っても分からないんですが・・」

・・・なんだそれ?
言っても分からないっていうことは・・・この、限りなく不幸っぽい美鈴さんは・・・
本当に妖怪、だと考えた方が良いんだろうか?

「美鈴さん。」
「あ、美鈴で良いですよ~♪名前で呼んでくれるだけで嬉しいですので~」

いったいどういう境遇・・むしろ職場なのかが非常に興味がある。

「とにかく、通しては貰えないんですか?」
「私だけではどうしても決められないので・・通しちゃうと私の命に関わります・・」
「・・ま、まあまあ、無理ならこのまま帰りますし良いんですけど・・・」

元々は『里』に行くつもりだったしな。
ちょっと長い・・長すぎる寄り道だと思えばなんてことはない。
そうして、美鈴に会釈をして帰ろうかなと踵を返した瞬間。

―――・・・お通しして良いわよ、門番。

と、ルーミアでもチルノでも霊夢でも美鈴でもない声が聞こえた。
がしかし、だ。俺はもう驚かない。
なぜならここは『幻想郷』で、常識に囚われてちゃ何も出来ないと言うことを知ったからだ。
主にここ数時間で学んだけどな・・そんなに間違ってもいない筈なんだ・・

「あら、お客様。もうお帰りになるなんてそんな勿体ない。」

僅か鼻先三寸、気付けば目の前・・っていうか冗談でも何でもなく
本当に超目前に、俺は目を閉じていたわけでもないのにメイドさんが居た。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっっっ!!!」
「あらあら、困ったお客様だこと。」
「あの、咲夜さん・・・どうしてここに・・?」

突然の登場に思わず2メートルほど後ずさりした俺だが、どうやら会話から察するに
美鈴の上司?の「咲夜さん」と言う人らしい・・・このメイドさん。
というか、やたら美人だなこのメイドさん・・何か?『幻想郷』は美人しか居ないのか?

「お嬢様が会いたい、と仰ったのよ。それでお迎えに上がったまでよ。」
「はぁ・・そうだったんですか。てっきりまた私が何かしてしまったのかと・・・」
「あら?何かされるような心当たりでもあるのかしら・・?」
「いえいえいえいえいえいえいえいえ!!!ありませんともっ!!」
「・・・えっと、俺はどうしたらいいのかな?」

すっかり気分は蚊帳の外でちょっとだけ傷心。
というか・・美鈴はこの「咲夜さん」が大好きなんだろうなと、見てて思った。
きっと天然なんだろうけど、この「咲夜さん」もそんなに嫌がってないようだ・・

「申し遅れました。私この『紅魔館』でお嬢様直属のメイドをさせて頂いている十六夜咲夜と申します。
この度は、ウチの門番がとんだ非礼と、お迎えに上がるのが遅れてしまい申し訳ありません。」
「ああ、いや、そんな頭下げられるようなことは何も・・・」
「お客様がお優しいお方で安心いたしましたわ。それでは、お連れいたしますので付いてきて下さいませ。」

そういった直後、何故かさっきまでは門の外にいたのにも関わらず
一瞬の後、気付けば門の内側へと入っていて門を開けていた咲夜さん。
・・というような感覚がしたけど、きっと俺がボーッとしてただけなんだろう、うん。

「お客様、こちらへ。」
「ああ、うん。分かった、ありがとう。・・・っと、美鈴ー!」

咲夜さんから呼ばれているが、その前に俺はしたいことがあった。
声に気付いてか、すぐさま振り返り大きく手を振って応えてくれた。

「はへっ!?なんでしょうかー!?」
「話してくれてありがとー!」
「いやー!それくらいでしたら結構ですよー!いつでも来てくださいねー!」

入れない。そう言いつつもちゃんと話し続けてくれた事に感謝したかった。
あそこで入れないだけの一点張りだったら、俺は多分、もうここに足を運ぼうとは思わなかっただろう。
それくらい、美鈴にはすごく良い感じを受けた。

「そろそろ、お屋敷に着きますよ。」
「ああ、ありがと・・・・ってでけええええええええええええええええええ!!!」
「お客様、驚かれるのは結構ですが少し声が大きくございます。お控え下さいませ。」

軽く窘められてしまった。・・・このメイド・・・出来る・・・!
真っ直ぐ正面を見据えてみれば、気付けば本当に扉の前まで俺は来ていた。

「こちらです。」

そして、俺は『紅魔館』に足を踏み入れた。



【5】


「ほへぇ~・・・・」

つい、声を漏らしてしまった。
別にマッサージとかエステとかで気持ちよくて極楽極楽と満喫して
つい出ちゃうようなあんな蕩けきった声なんかじゃない。

俺は『紅魔館』の内装の豪華さに驚嘆しただけだ。

「お客様・・・?」
「・・はっ!いやいや、何でもないですよ?」
「・・・観光でしたらお嬢様に会われた後でも出来ますので、それからにして下さいね?
あ、それとお客様がここに来るのはこれで最後とはならないはずですよ。」
「え?それってどういう・・・」

明らかに含みのある言い方だったが、咲夜さんは答えてくれそうにない。
そういえば、何故か咲夜「さん」と呼んでるけど他意はない。
何故かそう呼ばないといけないような気がしてるんだよ・・・不思議だ・・。

「理由は何れ分かりますよ。」

半ば思った通りの答えが返ってきた。
俺は何も言ってないんだけど、どうやら雰囲気で察したみたいだ。
・・何だこの人、すっごく有能じゃないか・・そりゃ美鈴も憧れるわな・・。

とかそんなことを考えている内に、廊下の突き当たりにある一際大きな扉の前に来た。
言わなくても分かって貰えそうなんだけど、廊下にはお決まりの赤い絨毯ですよ・・・!
そして外観がデカイだけじゃなく、それに合った内装の大きさを兼ね備えているかのように
廊下には誰が使っているのか気になっているほど、多くの扉―部屋?―があった。
・・・蝋燭の灯り使ってるけど、確か建築法とか・・ああ、『幻想郷』だから良いのか。

「では、私は一旦此処で下がらせていただきます。」
「はい、わかりまし・・・・・って、え?」

なんて言ったんだ今・・・

「少々、所用がありまして抜けなくてはなりませんので。」
「えっと、俺って確か案内されてる、って思ってたんだけど・・・」
「ええ、それは間違ってはいませんが、少し鼠を退治しなければならないので・・はい。」

すごく良い笑顔で何を言っているんだこの人は・・・
ただ、どうでも良いことなんだが良い笑顔で言った瞬間に、微かに部屋の方から
小さく爆音が鳴り響いた気がしたんだけど、咲夜さんの声でほとんど掻き消されたようだ・・
だからかいまいち確証が持てないって言うかなんて言うか・・・

「ねえ咲夜さん・・さっき部屋から物音g」
「してませんよ、それにこの部屋のお方も貴方に会いたがっているので・・都合が良いのです。」
「え!ちょっと、それってつまり俺普通に此処に連れてこられただけで、そのお嬢様ってかn・・・?」

俺は話し続けていた、はずだ。
確かにさっきの台詞を言うまでは、確かにそこに、目の前に咲夜さんは居た、はず。
ところが、だ。俺が気付けば。

姿は消えていた。

人間ってそこまで早く動けたか?とか、無意味な考えが頭をグルグル回るけど
結局答えなんて出ないし、そういえばルーミアは空飛んでたよな~っとか
でもあの子達って妖怪?だったはずだし、それだと美鈴は空飛べる・・?いやいや。
あの人は多分・・・おかしな妖怪、なんだろう。きっと。
確証がこう、ハッキリと持てない辺り・・・どこか涙を誘う要素が無いような気がしないでもない。

え~と、とりあえず今することは・・・。

「お邪魔しま~・・・・・・す・・・・・。」

小さく声を立てながら、目の前の部屋に入ることだった。
ゆっくり入ったのに扉を開けたらギイイィィィィィィィィィィィィッッッッ・・・・って
メチャメチャ軋みまくって音が鳴るから、もう心臓がバックバク状態に。やめぃ。

そうして、その部屋に足を踏み入れて見回してみると。
何とも奇妙な光景が繰り広げられていた・・・コントかと思うくらいに。
つーか、一度ドアを閉めて、また開けて、まだ信じられなかったからついつい
目を擦り擦り、何度も確認したけど・・・やっぱり同じ光景しか見えなかった。

吹き飛ばされたみたいに大穴が空いた天井。

中心に佇むテーブルの横でおよよよと泣き崩れている紫色の服装の少女。
帽子に月のワッペンのようなアクセサリーみたいなのが映えている。
何故か一冊の本を抱えているのは、大事なものなんだろうか・・・?

そして、本棚の上で袋に本を詰めながら大笑いしている金髪の少女。
それも分かり易すぎるほどの魔法使いスタイルの子だ・・・
箒に乗って空をふわふわ飛んでいる時点で、もうそうとしか見えない・・・!


・・・何だろう・・・この、ダメ亭主とそれに振り回される妻の光景。


「ダメ~・・それは貴重なクロウリーの原書なの~・・・」
「あっはっは!大丈夫だって、死んだらちゃんと返すぜ!」
「それは返さないって意味じゃないの~・・えぅぅ・・・・」

・・・・名前も知らないけど、こればかりは不憫と思わざるを得ない・・・!
というかそれは普通に泥棒なんじゃないかと思うんだが・・・
あ、紫色の女の子が少しだけ復活したみたいだ・・・

「そう言いながら前に奪っていったあそこの本棚の二百冊以上、まだ返して貰ってないわ・・!」
「アレはまだ読み終わってないんだぜ!」
「せめて読み終わってから来なさいよっ・・・!」
「私の中で燃える好奇心に火が点いたら止まらないんだぜ!」

論法が最悪すぎるんだが、どうにも憎めないのは何でなんだろうか・・・爽やかさ?
というか二百冊以上・・・?どんだけ借りパクしてるんだあの子・・・
・・・ん?あの子、どっかで見覚えがあるな・・何処だ・・・?

「そんな好奇心捨てちゃいなさいよっ!」
「いやいや、魔法使いたる者、常に探求していないと道は開けないんだぜ!」
「その道で言った挙げ句がこれじゃないのっ・・!」

と叫んで―いるように見えるだけでそんな大声じゃない―た女の子は
大穴の空いた天井をビシッと指さした。
ていうかアレあの子の所為なのか・・・どうやったらあそこまで・・・
あ、でも魔法使いだからやれば出来ないことはない、としてもやり過ぎだろ・・・

「素晴らしい結果のためには多少の犠牲はつきものだと思うんだぜ・・?」

無理があるとしか思えない・・・
よく聞く常套句なのに、何でこの時ばかりはこんなに胡散臭くなるんだ・・!

「なんでそんな微妙に自信が無さげなのよ・・貴方は・・・ん、あれ?」

そう聞けばそう見えなくもない、んだけども何かこの子目つきが・・・
ってこっち見られて・・目があったって言うか今ようやく気が付かれましたか・・?
おいおい・・・ここ―扉の所―に立ちつくして結構経つんだけど。
そしてその時のBGMは良くあるダメ家庭の痴話ゲンカだったけどな!

先に気付いた紫色の少女は、何故か微妙に乱れていた服を直し
えらく長いスカートをはたいて・・あ、埃が舞って咳してる。
ひとしきり終わった後に、あまり健康的とは言えない白い顔でこう言った。

「貴方が例の人?」
「ゴメン、何が例なのかが俺には分からない。」

何かを端折りすぎてる気がするぞ・・・この子・・・

「ああ、ごめんなさい。レミィから話を聞いただけでよく知らないの。」
「れ、みぃ・・?」
「レミィは私の友達よ。あまり深くは問わないで。」
「ああ。」

なるほど、それなら何となく話は繋がる・・・?
いやいや待てよ?深く訊いちゃダメってなんだ?なんかあるのか・・?

「あー!お前ってあの時のっ!」

とか、少し考えて・・・もとい少しボケた返答をしてくれる紫色の少女の後ろから
ひょこっと出てきて大声でこっちに指を向けてくれる、例の魔法使い。
・・・やっぱ見覚えあるんだよなあ・・・何処でだ・・?
そもそも・・・う~ん・・・

「いや、どこかであったような記憶はないんだけど・・?」
「それはないぜ?アンタを運んだのは私と霊夢だからな。もちろん覚えてるぜ?」
「とは言われても・・俺は全く覚えてないんだけど・・・」

正直、あの記憶は曖昧すぎて記憶と言っていいのかどうかすら危うい。
夢のような一時とも言えるし、夢にしては身体が動かないという変な夢だったけど・・・

「覚えてないってそりゃあないぜ、こんな美少女を忘れるなんて!」
「・・・・」
「・・・・・・・・・へぇ。」

漏らしたのは紫の子だった。
ぶっちゃけ俺は何も反応できなかったからだけなんだが。
ていうか今のにどう反応したら正解なのか教えてくれよ安西先生・・・・!

「ゴホゴホ・・・まあ、下らない冗談は放っておきましょう。」
「そうですね。是非ともそうさせて貰います、是が非でも。」
「・・・お前らそんなに私が美少女って認めたくないのか・・・!」
「「だって、ねえ?」」

ついハモってしまったがそれはご愛敬。

「言い忘れてたわ、私はパチュリー。パチュリー・ノーレッジよ。」
「おっと、それなら私も一応名乗っておくぜ!魔理沙だぜ。」
「パチュリーと魔理沙・・か、分かった。覚えとくよ。」
「それで、貴方の名前は?」
「そうそう、幾ら何でも人の名前聞いておいて自分は答えないって言うのは・・・」
「あ~・・・それは言いたいんだけどな・・・無理。」

まあ、普通の人なら名乗らせておいて自分だけ名乗らないなんてのは
なんというか、「ナシ」だろうな~・・って思ってたし、流石に訊かれるとも
思ってたから特に動揺はしなかった。だって今更だぜ?うん。

「名前が分からない。ていうか俺が何者なのかさえ分からないよ。」
「・・・ふぇ~・・・」
「ほほぉ~・・それはまた珍妙な事で。調べて良いか!?」
「いやいや、調べるって言ってもどうやって調べるんだよ。」
「そんなの決まってるだろ?こう・・・ナイフとか使って解剖t」
「却下だバカ野郎!」
「バカ野郎ってなんだー!私は女だぞー?」
「私もそれは魔女として賛同しかねるわ。やるなら儀式魔法を用いての透過解析でしょう?」
「おー!そういえばそんなのあったな!」
「あ、何かそっちの方が凄い便利そう・・・って魔女?パチュリーが?」

聞き慣れねえええええええええええええええええええええええええ!
ぶっちゃけ何処までファンタジーに染まれば気が済むんだこの『幻想郷』は!

「そうよ?少し身体が弱くてそんなに全力が出せないんだけどね。」
「でも魔女ってだけあって、結構すごい魔法とか使えるんだぜパチュリーって。」
「・・・なのに身体が弱いって、それかなりマズイんじゃ・・・」
「マズイわねぇ・・どうにかしないといけないんだけど。」

そう言いながら、袂で口を押さえて咳を押し殺すパチュリー。
辛そうだな・・・と、思った矢先にふと閃いた。
・・いや、別にか弱いからって変なことは考えてないぞ?

「この図書館って・・・掃除してるの・・?」
「掃除は小悪魔がしてくれているはずよ。後はたまにメイド長が。」
「ああ、咲夜さんですか・・・あの人ならやってくれてるな・・確実に。」

小悪魔がどんな子か訊こうと思ったけど、多分この広大な図書館のことだ。
今から呼んで貰っても、きっとかなりの時間が掛かるだろうからやめておいた。
そういえば咲夜さんは鼠退治と言っていたが、鼠って誰のことだったんだろう・・・?
というかあれから結構経ってるのにもかかわらず、未だ姿が現れねえ・・・

「ああ、そうだ。」

不意に、パチュリーが声を上げた。

「今からレミィの所に遊びに行こうかしら。どうせ貴方もレミィに会いに来たんでしょう?」
「いやいや、行くのは構わないけど俺はそのレミィって子に会いに行く訳じゃ・・・」
「あら?この『紅魔館』の主に会いたいって言われて連れられてきたんじゃなかった?」
「そうだけど・・・それがどうしてそのレミィって子に会うこと・・に・・・って・・・」

何を言っているのか分からないから、まさかという思いが身体を駆け抜ける。
・・・パチュリーが言ってることが本当だとしたら、俺が会う主って・・・

「もしかして・・・・」
「もしかしなくても『紅魔館』の主はレミィだぜ?」
「ちょっと魔理沙。先に言っちゃってどうするのよ。こういうのは言わせないと。」
「ははは、ゴメンな。今度どっかに連れて行ってやるから。」
「魔理沙・・・」

瞳をキラキラさせながら何をときめいているんだパチュリー・・・
というか魔理沙は女の子なのに、何でこんな妙に格好良いんだ・・・
ちょっとだけだけどドキッとしたじゃないか・・・すげーよ魔理沙。

「え~・・つまりは何ですか・・・?」
「要はそういう事よ。楽しみが増えて良かったじゃないの。」

そう言ってパチュリーは楽しそうに笑った。
・・・もちろん、傍らの魔理沙は常時笑っているというかリアクションが大きくて
とても一緒に飽きそうにない女の子で、でも笑顔の方の印象が強い。
まあ、そんなのを直接言うのもこっ恥ずかしいので。

「魔理沙。」
「ん、どうしたんだ?」
「俺はパチュリーの方が可愛いと思うんだぜ?」
「・・・微妙に私の口調を真似るんじゃないぜ?」
「というかサラッと恥ずかしいこと言わないでくれる・・・?」

胸の前で両手を組み合わせながらモジモジしてる姿は、本当に可愛かった。
白い顔が朱に染まっていくのを見ると、案外ウブな子なんだなと。
・・・というか何だ?パチュリーって意外と今までにないタイプ・・・?

「てかそれだと私は可愛くないって言うのか?」

とか考えてたら、魔理沙が妙なむくれ方をしていた。
今時、ほっぺをプクーって膨らませてむくれる奴なんて初めて見たけど。

「いや、魔理沙は何というか・・・常にある可愛さって感じで。」
「よく分かんないが、とりあえずお礼は言っておくぜ。」
「・・・何のお礼なのよ何の。」
「それは色々なんじゃないかな・・・?」
「そうそう、色々なんだぜ。」
「・・・誤魔化してない?気のせい?」
「「気のせい気のせい。」」

ハモったので流れでハイタッチしておいた。
どうやら魔理沙との気の合い方は尋常じゃなく良いみたいだ・・・不思議。

「お客様。」
「おっ、アンタのお迎えって言うか私たちのお迎えだぜ。」
「ああ咲夜、良いところに来たわ。今からレミィの所に行こうと思うの。」
「承知しております。紅茶とクランベリーケーキのご用意が出来ております。」
「・・待って、ついさっきの会話なのに何で咲夜さん承知してるのさ?」
「メイド長だからだろ?」
「メイド長だからじゃないかしら?」
「・・・二人のメイド長についての認識がぶっ飛んでる気がする・・・」

気が抜けすぎて、つい四つんばいで頽れる。
いや、そんな答えが返ってくるだろうなって微妙に予想は出来ていたはずだ。
でもなんでか、そんなのを実際に聞くと素晴らしいほど脱力してしまう。

「まあ良いじゃないか。メイド長って言っても咲夜しか居ないし。」
「魔理沙、それはあまり言って欲しくないのだけど。」
「でも事実じゃないの・・・『紅魔館』以外にメイドなんて居ないもの・・・」
「それもそうですが・・あ、それではご案内いたしますのでこちらへどうぞ。」
「「はーい!」」
「・・・何だか小さい子の遠出のような感じね・・・」

そんな訳で我等が魔法使いと魔女の愉快な仲間達は、一人の優秀なメイドさんに案内されて
この広大な『紅魔館』のご主人様へと会いに行ったのでした。ちゃんちゃん。

・・とは言ってみたけど、ぶっちゃけ奥へと進む事に暗くなってるのは何故・・・?
なんか怖いんですけどー!?



【6】


暗闇の中を、ただ俺たちはひたすら歩いていた。
・・・とでも言えば、何処ぞの本格冒険譚とかそういうのっぽくなるんだろうけど
先頭にはカンテラを携えて辺りを照らすメイドさんと、っていうか咲夜さんと
さっきから本を持って行くときには・・と魔理沙に(無駄な)説得を試みているパチュリーと
それをさらっと聞き流しつつも、またも無意味にさらっと暴言?を吐く魔理沙。
んで、それに挟まれて歩いているのが俺である。

両手に花。
なんかそんな言葉もあったかもしれない。でも俺は違うと言える。

「だからっ!せめて持って行くときには一言置いていきなさいよ!」
「ちゃんと言っているだろ?事後報告になっちゃってるのはお前が居ないからなんだぜ?」
「私が居たときに目の前で堂々と、持ち去っていったのは何処のどちら様かしら?」
「そんな時なんてなかったぜ?何しろ私が覚えていないからな。」
「・・・いや、魔理沙。さすがにそれはいろいろとマズいだろ・・」

だってさ、それならもっとウキウキドキドキハートフルな何かがあってもいいじゃん。
別段これには望み過ぎって訳じゃないとも思えるし。

「どうマズいんだぜ?」
「いや・・・どう、と言われると難しいけどさ。」
「私はね、別に持って行くこと自体には怒ってなんてないのよ?」
「落ち着けパチュリー、きっと魔理沙はそんなことを言っても分かってくれないと思うぞ?」
「怒ってないなら、私がいつ持って行っても良いと思う・・・のが間違いなんだろ?」
「てかさっきから疑問系ばっかりで、何がどうなってるのかよく分からんぞ?」
「・・・またなってるわよ・・・貴方・・・」
「・・あ。」
「「・・はぁ・・・」」

深く溜息を吐かれた。しかも同時に。仕方ないけどさあ・・仕方ないじゃん。
少なくとも、「花」とか言うならもっと楽しい話題でキャッキャウフフしてもいいと・・俺は、思う。
誰だってそうだろ?少なくとも俺はそう思うってだけなんだが。
と言うわけで、絶賛現在進行形で何とも言えない空気の中って訳だ。

「ところで咲夜。」
「どうなさいました?パチュリー様。」
「いったい何時まで、こうやって遠回りさせるつもりかしら?」
「え・・・?嘘、マジで?!」

てっきり主って言うぐらいだから、その部屋までなら結構時間がかかるものだと多寡を括ってた俺には
その言葉に驚かざるを得なかった・・・ていうか普通は驚く。
敢えて俺は普通を強調したい。何でかって言うと、だ。

「あ~・・やっぱ遠回りだったか。」

とか何とか魔理沙さんは言い出したからなのであります。
おいおい・・・ここに通常人(=俺)は一人だけなのかよ・・いろんな意味で咲夜さんはアレそうだ。
どういう意味でかなんて、そんなことは世界の崩壊よりも気にしちゃいけないことだ!

「しっかし何でそんなのが分かるんだ?」
「ああ、だってこの『紅魔館』がそんなにデカい訳がないんだ。」
「でもここ、外から見たら結構・・・あったぞ?」
「あっはっはっはっは!」

まるで魔理沙は俺の心の裡を見透かしたかのように、次いでこう答えた。

「そりゃ、歩いて来た森よりデカくて周りに比べるものがないならそう見えるだろ?」

・・・道理だな。何で俺が歩いてきたのかどうかを知ってるのは腑に落ちないけど。
それでもそれだけで納得するってのはいろいろと問題が・・・ない、訳でもない。
よくよく考えたら、そもそも俺自身にそんなことが分かるとも思えない、うん。
決して、自分が馬鹿だと認めた訳じゃない。てか少なくともあのチルノって子よりはマシだ。
ああ、それはそうとやっぱり気になった一言。

「やっぱ魔理沙って空飛べるのか?」
「飛べるぜ?魔法使いなら飛べて当たり前だろ?箒に乗ってさ!」
「ああ、なんかその理由聞いたらそれもそうだなって思えるな・・」
「・・一応、私も魔女の身ながら言うけれど、ステレオタイプってこの事よね・・・」

やはり、魔理沙は空を飛べるらしい。
パチュリーに関してはもうそんなことを訊く気すら起こらない。
だって、ずっと前から俺は歩いてるけど、さっきから歩いてないんだ・・・パチュリー。
そう、正しくは最初に訂正すべきだったんだ。パチュリーは歩いてないんだ。
うん・・・・浮いてる、とでも言う方が正しいのかな・・だと思う。

「いいじゃないか、ステレオタイプでも。そっちの方が分かりやすいと思うし。」
「だよな。物事は分かりやすいのが基本だと思うんだぜ。」
「まあ、いいけど。それなら魔理沙が魔女になるときは大変ね。」
「うぐっ・・そうだな、今度は紫色に身を包んでしわくちゃのお婆様にならないと・・・」
「いやいやいや!そこまですることはないだろう!?」
「というか色合い辺りは私への当てつけなのかしら・・?」
「いや、大事なんだ・・私にとっては形から入るのが「到着いたしました」筋・・・」

この時ばかりは咲夜さんナイス、と心の中で拍手喝采しておいた。
口には出さない、出したら隣の黒い魔法使いに何かされそうだったから。
話し始めた途端に徐々に顔に暗い影が蔓延って、姿勢が悪くなっていくんだ・・・
これで止めた人を褒めでもしたら、俺の将来は天国地獄に行ったり来たりなのは間違いない。
どっちかに固定はしない。というかそもそもあるかどうかすら謎だし。

「それでは、皆様。準備の方はよろしいでしょうか?」

いつの間にか、目的地の部屋の前・・・大きな扉の前に来ていた。
その前で、優雅に俺たちに向かって一礼をしつつ、そう述べた咲夜さん。
少し前に俺にお客人・・とか言ってたから主に俺に対してなんだろうか?よく分からない。

「ああ、いつでもいいぜ。」
「私もよ、早く開けなさいよ咲夜。せっかくのお茶会の時間が勿体ないわ。」
「俺も・・・大丈夫だと思う。」
「了承いたしました、それではこちらへ。」

持っていたカンテラを扉脇の明かり置き場へと掛け、大きな扉を開く。
ここまでの廊下は薄暗かったものの、部屋の中は不気味なぐらい荘厳で、明るかった。
ただし、人為的に産み出された明かりではなく、部屋の天井部分がガラス張りになっており
そこから差し込む―いつの間にか夜になっていたようで―真円の満月の光が部屋を満たしていた。
内装は至ってシンプル、赤い絨毯、目前に在るようで無い、長いテーブル。

そして、奥の椅子に凭れかかるように座っていた。赤く、紅い少女。
彼女を以てして、『紅魔館』は成り立っている、そう強く思わせるほどに。

―――いらっしゃい。ようこそ、我が紅魔館へ。

紅の瞳が、ただ静かに俺を見据え、そう云った・・・様な気がした。

「あら、パチェじゃない。」
「こんばんは、レミィ。今日は良い夜ね。」

他愛のない会話、と言うには些か距離がありすぎるというか・・・
一方は部屋の奥の椅子に座ったまま、対してパチュリーは入り口から数歩前に出たところから
軽くお辞儀をしながら、少女―レミィ・・?―に挨拶をしただけだ。
が、それでも何か引っかかる。見た感じ、そこまで礼を尽くしているようには見えない。

「・・・ク、ククク」
「・・ップッ、あははははは」
「え・・・?」

と思った矢先にその二人は急に笑い出した。
ちらと、ふと魔理沙を見てみると「またか・・・」と言いたげな表情でその光景を眺めていた。
咲夜さんはと言うと、ああ、なんかもうこの人完全にすごいメイドさんだよ・・・
何というか・・・「我が主の事に関しては何も申し上げません」と言わんばかりの表情で。
・・そして、反応というか理解が追いつかない分、大口を開けて呆然とする俺が居た。

「あー、楽しかったわ。」
「レミィってば、またこんなことして・・・私もちょっと楽しかったけどね。」
「たまにやると良いものね、ありがとねパチェ。」
「どういたしまして。」

鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている俺の前で繰り広げられる、悠然の会話。
ていうかどう考えてもこのお二人さん仲が宜しいようで・・・いや、マジで。
もちろん、俺はひたすらに置いてけぼりを食らっている。
魔理沙はなんかもう慣れっこのようで、てこてことテーブルの椅子まで歩いていった。

「お客様、それではどうぞ。」
「えっと、ああ・・・分かった。」
「咲夜、早くお茶を淹れて頂戴。お茶会なのだから。」
「只今。」

言った瞬間にさっきまで俺の後ろに居た筈なのに、気付けばレミィの隣に居て
これまた、非常に様になるくらいに優雅に紅茶をカップへと注いでいた。
・・・もう、俺がボーっとしていた、だけでは済まされないだろう。

「貴方・・・座らないのかしら?」
「え、あっ、はい。」

つい動きが止まっていたせいか、彼女から催促されてしまった。
なぜか敬語で答えてしまったんだけども、理由は分からない、なぜか、だ。
射抜くような視線だったからか?それにしては殺意めいたものは感じなかった。
初対面のルーミアのような、純粋な食欲を満たすだけの獣染みたあの感覚。
それは無かった様な気がする・・・そんなことを思いつつ、俺は椅子を引き、座った。
そして、それを見計らってかレミィはカップを中空に掲げて、こう言った。

「それじゃあ、珍しくも儚い『外』の人間の来訪と。
私たち『幻想郷』での新しい出会いと、これからの幸を願って・・・乾杯。」
「「「乾杯。」」」

レミィ、魔理沙、パチュリー、そして俺は、一斉にカップを掲げて乾杯した。
・・咲夜さん?ああ、メイドですからってことで誘ったんだけど、飲んでくれなかった。
だから、その場には居るんだけど乾杯はしてない・・・ことになるらしい。
らしいっていうのは、どこかでそういう事はしているらしい、とのこと。
そんな事を、お茶会の最中に魔理沙とパチュリーが話してくれた。

そんな中、突然レミィが思い出したかのように、声を上げた。

「あら、すっかり忘れていたわ。」
「お?ついに年を重ねすぎてボケてきたのかレミィ?」
「あっはっは、面白いこと言うわね魔理沙、早速魔女にでもなりたいのかしら?」
「これ以上ないくらいに遠慮しておくぜ!」
「あら、魔法使いの割には魔女にはなりたくないのかしら?」
「まだまだ婆さんになるには早いって思うだけだぜ?紫色はそんなに好きじゃないしな!」
「・・・やっぱりそれって、私への当てつけじゃあ・・・」
「パチェ・・遊ばれてるわ、気付きなさいな。」

いろいろと思うところはあるけど・・・レミィって幾つなんだろう・・・?
魔女って死なないとなれないのかな?なんかさっきの口振りからするとそうみたいだけど・・・
でもなあ・・・女性(?)に歳を訊くのは失礼すぎるしなあ・・・困った。
しかしも何も、勿論のごとくそんな場で口火を切ったのは俺じゃなくて魔理沙だった。

「で、何を忘れてたんだ?」
「まず何よりも自己紹介をしておかないとね。」
「おいおい・・・レミリアはともかく、ここの奴は全員知ってるぜ?」
「何言ってるのよ、私たちのことは知らないでしょう?・・・・そこのお客人は。」

紅茶を飲みながら、視線を俺に向けてくるレミィ。
それを察したかどうかは分からないけど、つつつと咲夜さんがレミィに近づいて。

「・・・お嬢様、つい先ほど図書館内で名前を伝え合われたようです。」
「な、なんですって・・・・!?」

「○○・・・恐ろしい子・・・!」を彷彿とさせる所作で驚くレミィ。
何がそんなにショックな出来事だったのか、俺には何一つ分からない・・・と思ったが
単にこの和気藹々な光景を見ると、自分だけ仲間外れって言うのが嫌だっただけだと・・思う。
・・・その所為か、主としての尊厳とか、そういうのが見えにくくなってきた・・

「・・はっ・・まだよ、まだイケるわ・・・!」
「その意気でございますお嬢様。」

なにやらショックから立ち直ったのか、ガッツポーズをとりつつそう宣言したレミィ。

「それじゃあ改めて、自己紹介と行きましょうか。どうせ名前だけなんでしょう?」
「いや、魔理沙は魔法使いで、パチュリーが魔女って事とかは知ってる。」
「な、な、ななななんですってー!?」
「PART 2」
「爆誕!レミィの驚愕!!」
「・・・魔理沙・・・てかパチュリーもノってやるなよ・・・」
「あら、ついうっかり。」
「うっかりしてたんだから仕方ないんだぜ!なあパチュリー。」
「ええ、そうよ・・・うっかりだもの、仕方ないわ。」
「・・・うっかり、には到底見えませんでしたが・・・?」

咲夜さんマジナイス!
でもそれは一度間違えれば、微妙にその人たちに滅多刺しであること間違い無しの死亡フラグ・・!
さあ、どう切り抜けるんだと応援している俺は、微妙に発言してないチキン。
・・・いや、だって今何か言うと矛先が俺に向いての「GO TO HELL」ルート確定だし。
しかしそんな最中、バンと景気の良い音を立てて魔理沙が言い出した。

「うっかりに見えない、これこそが真のうっかり・・・!」
「・・魔理沙、さすがに私もそこまでは言う気にはなれないわ・・・」
「どうしてだよパチュリー!?私を裏切るって言うのか!」
「裏切り以前の問題よ、そもそも私が魔理沙に手を貸すような事態はないわ。」
「この前、地底よりの間欠泉事変の際はご一緒だったように記憶しておりますが。」
「・・・むきゅー、それはそれよ、また今とは別の話!!」
「・・・・・・・というか、貴方達。」

ひたすらに凍て付いた声が響いた。
少し騒がしかったくらいの、というか数人しか居ないのにあれだけ騒がしかったのが不思議だが
そんな状況をたった一声で覆した・・・レミィの一声。

「いったい、何時から自己紹介を始めればいいのかしら・・?」
「ごもっともだぜ、とりあえず真っ先にレミリアからすればいいと思うんだぜ!」
「魔理沙、レミィって呼んでも良いと言っているじゃないの、どうして呼ばないの?」
「そうよ、レミィが言っているんだから問題なんて。」
「そっちの方は霊夢に譲ってるんだ、私は違う方で呼ばないとな!」
「・・・そういう問題でもないと俺は思うぞ?」
「「「・・・・」」」

返事はない。と言うかあったら俺が困る。
何せ、何を言えばいいのかなんてこれっぽっちも分からんしね。

「んん・・・!」
「じゃあ、最初はレミィからかしら・・・一応、此処の主ではあるわけだし。」
「パチェ、一応じゃなくて実質的に主であることをここに表明するわ。」
「というかこういう、自己紹介とかお茶会とかするなら、妹も呼べば良かったのにな。」
「―――!!」

妹、という言葉が出た瞬間だけ、レミィの顔には何とも言えない表情が垣間見えた。
パチュリーの方を見てみればもう・・・小さく「バカ・・・」と呟いただけだった。
ある意味予想通り、魔理沙はそれがどうしたと言わんばかりに・・・分かってるけどな。
ただ、小さく。

「あの子は・・・・後で、会ってもらうわ。」

ただそれだけ、その一言だけを残してその話題は打ち切られた。
・・・俺はその子に、会うようだが・・・イマイチ、よく分からない。
ただ、少なくともその子の話題だけはここではタブーなのであろう事は・・・分かった。

「とりあえず私から、ね・・・私はレミリア・スカーレット、この『紅魔館』の主を務めているわ。
種族は【吸血鬼】、ついさっき歳を気にしていたようだけど、私自身は500を超えたぐらいかしら?」
「ええ、レミィは確かその辺りだったはずだわ。私も保証するわ。」
「・・・・え・・・え・・え?」
「そんな保証が出来るパチェってばいったい幾つなのかしらね?」
「あら、まだまだ魔女としては新米も良いところよ?」

言葉が出ない。てかマジもんの吸血鬼ってあんた・・・
長閑に笑い合ってる場合じゃないだろうに・・・てか何この微笑ましさ。
ついでに何で歳が気になってたことを知ってるんだよ・・・おかしいだろ。

「まあ年齢だなんてここ―『幻想郷』―じゃあ何の足しにもならないわ。
基本的に人間以外で、見た目で判断しない方が良いと思うわ。そんなもの、と思っておきなさい。」
「話の流れで言えば私、かしら・・改めて、パチュリー・ノーレッジよ。魔女をやってるわ。
歳だなんて野暮なことは訊かない方が良いかもしれないのには同意しておくわ。一応。
勿論、私とレミィが旧来の知己であるが故に、歳は余計に・・・ね。」
「ああ・・・それはなんかもう、訊いちゃいけないタブーなんだな。了解だ。」

恐らく、パチュリーはとんでもなく長生きなんだろうと思われる。
こんなすごい吸血鬼・・・というかレミィとここまで話せるのだから、きっと。
かく言う俺は、そんな二人の圧力に負けてしまったのだけども。

「まあ、何にしろ女の人に歳を訊くのはタブーだと思ってたし、ちょうど良いか。」
「それは殊勝な心がけだわ、是非それを貫きなさい。」
「そうね・・・無為に命を粗末にしたくないならそうした方が賢明ね。」
「さりげなく怖いことを言われてないか俺?」
「そう思っちゃう辺りが、そこはかとなく良い奴なんだと思うぜ?」

今やグッジョブ!としかねないほどの勢いでフォロー・・に回ってくれた魔理沙。
しかし、何故かそれをしないのは単に知らないからなのだろうか・・・?

「おっと、私もだな。霧雨魔理沙だぜ!魔法使いとは言うけど、実は人間だぜ。」
「・・・魔法使いも魔女もどっちも人間なんじゃないのか?」
「それは同じようで違うわね。」
「そうだな、基本的にスペックが違うというか。」
「いや、詳しいことは言われてもさっぱりだから、パチュリーその分厚い本はしまってくれ。」
「え~・・・・この辺で説明しておかないとキャラが」
「そこまでよパチュリー!」
「むきゅー・・・・少し行き過ぎたわね・・・ここは素直に謝るわ。」
「メタ的な発言はこういうときはタブーよ・・・。」

何を口走ったのかよく分からなかったが、ひとまず・・・大丈夫、か。
てかメタってなんだメタって・・・。
そう思っていたら、咲夜さんがまたも突然現れて、佇まいを整えてからしゃべり出した。

「差し出がましいようですが、それでは私も。
『紅魔館』専属メイド長を勤めさせて頂いております、十六夜咲夜と申します。
そして、もう一つ。先ほどから私に訊きたいことがあるようですが、何用でしょうか?」
「ああ・・ずっと気になってたんだけどな。」
「はい。」
「ていうか、咲夜に訊きたい事って何かしら?」
「さあ・・・?レミィに分からないのなら私にも分からないわ。」
「そもそも、主である私を差し置いて真っ先にメイドに質問って言うのが・・・」
「もしかしたら、メイドって言うものに幻想を抱いているが故なんじゃないか?!」
「なるほど、それなら納得がいくわ。確かに外の世界にはそういうヒトが溢れていると聞くわ。」
「確かその辺のはパチュリーが詳しかったよな?」
「いやよ、いくら”ああいうもの”があるからって、それを直接だなんて・・・」
「ちょっとさ、俺が訊きたいんだから少し静かにしててもらえるかな?お願いだから。」

無駄な方向性に話が展開するところだった。
というか俺が個人に訊くだけで、そんなに話題性のあることなのかと俺は驚くしかなかった。
むしろ、なんか妙な世界のことに詳しいなと。
・・・・パチュリーが持ってるというその系統のは後で見せてもらおう。何かと。

「・・それで、何をお訊きしたいのでしょうか?」
「ああ、うん。咲夜さんってさ・・・瞬間移動とか高速、光速移動とか出来るの?」
「・・・言い得て妙だと思われます。しかし、瞬間的に移動しているわけではございません。」
「?・・どういうこと?」
「『幻想郷』の住人殆どに言えることですが、誰もが何かしらの能力がございます。
私の場合、それが単に【時間を操る程度の能力】であったまでのこと。
メイドの仕事を致す際にはとても重宝しておりますので、普段より使用しております。
ご理解いただけましたでしょうか?お客様。」
「なんとな~く分かるような分からないような・・それでもやっぱよく分かる話だな。」
「どっちだよ。」
「それが分かれば苦労なんてしないと思うんだ。うん。」
「・・・ああ、何となく言わんとしてることは分かったぜ。」
「ありがとう。」
「どういたしましてなんだぜ。」

いつもながら良い笑顔で返してくれる、が、俺として複雑だった。
何そのとんでもワールド。一人一つのワンダフルな能力持ちだと・・・?!
おいおい・・・それじゃあその内に山田とか内田が出るかもしれないって事か・・・?!
とてもそうは見えない神父とか、そういう可能性が・・・・

「何を考えてるかは分からないけど、その考えはたぶん違うと言わせてもらうわ、ええ。」

・・・きっと、俺は顔に出やすいタイプなんだ。
そういうことにしよう・・うん、まあ良かったじゃないか、自分のことに気付けて。
ただでさえキオクソーソツとか何とかファンタジー真っ盛りな状態なんだ。
自分のことが知れただけでも僥倖というかそういう事じゃないかHAHAHA。

「それで、貴方の名前は何なのかしら?」
「いやー・・・出来れば答えたいところなんだけどさ。」
「?」

思い出したかのように、レミィは口に出して・・・俺はどもった。
それでいて、頭にクエスチョンマークを浮かばせられるなんて、なんて器用な真似を・・・
とりあえず説明をしなければ。またかと言いたいけれどな。

「レミィにも「ちょっと待って。」て・・どうした?」
「私は貴方に、その呼称で呼んで良いなんて言った覚えはないわよ?」
「いや、だって名前知ったのはついさっきのことだし、その前からパチュリーが・・・」
「パ~チュリ~~・・・・?」
「ひゃひぃっ!・・何にも、何にもしてないわよっ!」

いくら何でも怯えすぎだと思うのは気のせいか。
あ、でもこれは明らかにパチュリーの所為だって思うのもまた事実な訳で。
・・・どっちにしろ、今のレミィが怖いことには変わらないけど。
でもさっきのパチュリーは可愛かったけど。

「ただちょっと・・前にレミィが話してた通りの子が来たから、その・・・」
「良いわ、ちょっとした出来心だって言うのね・・分かったわ。」
「あ、じゃあ・・・・」

少し、パチュリーの顔がほころんだ。
何らかの温情とか、そういうのを期待したんだろうけど、がしかし。
パチュリーには地獄が待ち構えていたようだった。

「ひとまず、ドッキリ仕掛けましょうね♪って言って持ち掛けたのは私なのに
先のそのネタバレをした罪と!お茶会前に私の名前を・・それも愛称を言っちゃうだなんて・・
いったい全体一切合切、私の友人を何年しているのかしら!?その辺の制裁を含めて・・・1つね。」
「分かったわよ・・こうなったら私も少しは抵抗しないとマズいわよね・・・!
小悪魔!小悪魔!!こっちにいらっしゃい!!いるんでしょう?」
「は~~~~~~~い♪」

一頻り言い切ったと思えば、パチュリーが誰かを呼んだらしい。
少し遅れて聞こえてきたのは少し甘ったるい声をした桃色の長い髪を持つ少女だった。
もちろん、名前の通り背中には黒い小さな羽が一翼、ご丁寧に尻尾まで着いていた。
・・・まさにどう見ても小悪魔スタイルだけど、かなり可愛い方なんじゃないかと思う。

「小悪魔、メルキセデクとネクロノミコン持ってきて。」
「りょ~かいです~♪」
「ふんっ!今更そんな悠長に待ってあげるほど私は優しく無いわよっ!」

小悪魔が部屋を出て行った後、パチュリーはすかさず持っていた本の栞を挟んでいたページを開き
ぶつぶつと、呪文らしきものを唱え始めると足下に魔法陣が浮かび上がった。
そして、相対するレミィとは言えば、いつの間にか拡げていた闇い翼をはためかせ
部屋の上空へと飛び、右手を掲げていた。

「久しぶりだけど、こういうのも偶には良いかもね!」
「ええ、久しくこういう事がなかった気がするわ・・・レミィとするのは何年ぶりかしら?!」
「きっと・・・そんなのも気にならないぐらいずっと!」
「「前ねっ!」」

そして、大きな力が放たれようとしていた。
・・・もちろん、そんな大舞台を目の前にして俺がそこにいる訳が無くてだな。
ちょっと前にパチュリーとレミィが言い争った辺りから、咲夜さんがそっと肩を掴んでくれて
少し離れたところに避難しているけど、それでもここからだとよく見えるのは・・・・
やっぱ、咲夜さんなりの心遣いとかそういうのなんだろうか・・・?

「行くわっ!【獄符「千本の針の山」】!!!」
「甘いわっ!【土水符「ノエキアンデリュージュ」】!!」

レミィからは数千にも及ぶであろう紅き針弾が、これでもかと投擲され続け
パチュリーはそれらを相殺するかのように、塊ずつ当て、少しずつ消していった。
見ている俺はすっごくドッキドキものである。つーかぶっちゃけ怖い。
ただ、分かるのはこれだけやり合っているのにも関わらず、当人たちは笑っていること。
・・・つまり、本気でなんてやり合っていないことは明白だった。

――だからってここまでしなくても良いんじゃね・・・?

・・・な~んてことは、とりあえず思ったりしちゃいけない。
つーか思うだけ言うだけでもなんか、死にかけそうな気がしてならないから。

「おっと、これは私も参加して良いって事なのかっ?」
「待て魔理沙、お前はいったい何をするつもりだ!?」
「弾幕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!パゥワァァァァァァァだぜええぇぇぇぇぇぇっっ!!」

箒の上に立ち、桃白白さながらの格好でかめはめ波を撃つような・・・
と思ったら両手の中で何かを握り締めてってなんかすごく光って・・・ええっ!?

「とりあえずぶっ飛べっ!!【恋符「マスタースパーク」】!!!」

ガゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォンンンンン!!
という、凄まじい爆音を轟かせながら魔理沙から放たれた超極太レーザービームは
レミィとパチュリーの弾幕をこれでもかと言うほど無効化し、さらにそれだけに止まらず
勢いはまだ潰えぬようで、天井をぶっ放し、空に一筋の大きな光の柱を立てるまで、となった。
もちろんかなり間近で見てた俺には、異常とも言えるほどの眩しさが襲ってきていたが
そんなのどうこう言う前に、いろいろと言いたいことがあった。

・・・・・・
・・・・
・・

「で、俺はいったい何をしに来たんだっけ?」

すべてが終わった後、魔理沙が放った恋符「マスタースパーク」がもたらした惨劇の跡地で。
俺は一人、立ちつくしていた・・・三人を土下座させたその前で。

「悪気はなかったわ。」

そう、未ださっきの毅然とした態度で何が悪いのと言わんばかりにレミィは言った。
まあ土下座してる所為で威厳も何もあったものじゃないけど。

「無かったのなら余計にタチが悪いと思うのは俺だけか?」
「ここまでそうなるとは思わなかったわ。」
「いや、明らかにパチュリーはあの状況を楽しんでいただろう?」
「ちょっとしたスキンシップじゃないか。」
「魔理沙、お前は少し自分のやったこととかそういうのに詳しくなろうな?
ていうか自分の胸に手を当ててよ~~~~~~っく考えてみろ、普通に考えてその発想はおかしい。」
「わたしは~・・・帰ってきたらなんか、全部壊れてました~えへへ~♪」
「小悪魔ちゃんは無実だと俺は言いたい。」
「「「それは横暴だ!!」」」
「お前らどの口でそんなことが言える義理だこの野郎!!!」

咲夜さんは何も言わずに、壊れたものの修理や補修作業をしている。
この件に関しては主人を守ろうとか、そういう考えは起きないようだ。起きても困るけど。
俺じゃあきっと咲夜さん相手に弁舌で勝てる気なんて・・・起きない。

「・・でも仕方ないわ・・・だって・・・」

そして、そんな中さらっと微妙に哀愁を漂わせながらそう呟いた。

「だって・・・?どうしたんだレミィ?」
「・・・運命だもの。」
「・・・・運命かあ・・・」
「運命なの・・・それは仕方ないわね。」
「待て、待ってくれ。そこまで運命なら信じられる理由って何だ?」
「私は運命を操れるのよ?それならこういう結末だって分かってるから問題ないわ。」
「ほほぅ・・・・・ほほぅ・・・・?」

やたら自信満々に(無い)胸を張って言い切るレミィ。
というか、その理由だとどんな物事でも、ご都合主義的にそれでどうにかなっちゃうじゃないか・・
・・・うん、でもな。

「それなら、その結果を変えようとかするのが・・・普通やるべきことじゃね?」
「他にも結果はあったんだけどね・・・でも。」
「でも?」

そして、俺は脱力する他無かった。

「この結末が一番楽しそうに思えたんですもの。」
「・・・サイデスカ。」

俺の明日はどっちなんだろう。
というか、この人たちにまともな思考とか期待したらダメなんだろうか。
ついに俺はダメ人間~ズに入っちゃうんだろうか、三人ほど人間じゃないけど。

「あ、そうそう。」
「ん?」
「貴方の名前が分からない理由も分かるわよ?」
「・・・はっはっは・・・それを先に言ってくれよレミィ・・・マジで・・・」

本気で頽れた。というか実際「orz」状態。
どうしてこう・・・いや、もういい。
なんか・・・もっと気楽に生きれば良いんだよな・・そうだよなビバ『幻想郷』!

「で、どうしてなんだ?」
「そうねえ・・一つは【貴方が『外』の人間であること】がまず、大きいと思うわ。
もう一つは【貴方が異常事態に巻き込まれ、ここに来た】か、ということね。」
「なんとなく、それだけでも分からなくもないな。」
「ええ、そういう風に言っているんだもの。当然でしょう?」
「はい、お嬢様。」

いつの間にか控えて頷く咲夜さん、補修作業はどうしたのと訊いたら
そんなものは後でやります、との言。うん、やる気がないのかあるのか分からんぞ?
というか極端というか何というか・・・自分ですることはちゃんとする人なんだろうなと。
つらつらと思いつつ、俺はさらに気になることを訊いてみた。

「それで・・失った原因はともかく、思い出すにはどうしたら良いかな?」
「分からないわ。とりあえず当面を過ごす上で仮の名前でも付けたらどうかしら?」
「それには概ね同意するわ。いつまでも「貴方」だなんて呼ぶ気はないわ。」
「私もそれは同感だな。思い出したらそっちで名乗れば良いだけだしな。」
「・・・そう、だな。俺は・・・」
「偽名と、仮名と分かってても、安易に名前を付けてはダメよ?」

自分の名前かあ・・・と脳天気に考えていたそんなとき。
卒然、パチュリーが言葉を漏らした。無論、俺は気になって訊き返した。

「それはどういう・・・?」
「名前はその人を表す一種の象徴であって、また存在を固定するための楔よ。
これを蔑ろにすると、貴方自身の「何か」が失われると思っても過言ではないわ。」
「そういうことか。」

一瞬、頭の中で山田太郎とか考えてしまった俺が恥ずかしいとか思ったりもするが
逆にその名前ってありそうで無いという微妙な名前なんだよな・・・。
どこかに有り触れて居そうで、しかし居ないというか会ったこと無いような気がする。
逆に凝った名前の方がありそうと言うか何というか・・・不思議としか言いようがない。

「それじゃあ・・・名前だけ、あればいいと思うんだ。」
「そうね、ひとまず呼び名だけでもあれば十分変わるわ。それだけでね。」
「ありがとなパチュリー。」
「どういたしまして。」
「・・ねえ、二人で盛り上がってるところ悪いんだけど、私の事忘れてないわよね?」
「「全然。」」
「・・・・・なら・・・・良いんだけど。」

少しだけ記憶の隅に追い遣られていたのは黙っておこう。
そんなわざわざ愚の骨頂犯してまで、この身を危険に晒すものでもないし?
ていうか俺はそこまでMって訳でもないし?望みなんてしないしな。

「それなら、運命を操れる私の出番じゃないかしら?」
「それはお勧めするわけにはいかないわ。断じて。」
「あら・・・それはまたどうしてなのかしら?」

妙な迫力があったのは決して・・・錯覚じゃないと思う。
今まであまり動かなかったパチュリーの眉がこの時だけ、キュッと動いたのだから・・・うん。

「お嬢様、また・・・おやりになるつもりですか?」

そして咲夜さんの鶴の一声。
そして凍り付くレミィの背中。
そして、まるで大氷穴の中にでも居るのかと思えるほどの空気が漂う。

「・・いえ、やめたわ。」
「そう、まさかレミィは従者の一言で矛を収めるほどのチキンだとは思わなかったわ。」
「客人の身分でお迎えしているとはいえ、あまりに行きすぎますと私も手を出さずには・・・。」
「「ごめんなさい。」」

そんなシュールな光景を見て・・・否、見せられて・・・・

「・・・なあ、あんたらの主従関係ってどうなってるんだ・・・?」

ふと、俺はそんな一言を漏らした。
だってどう考えてもおかしいというか、ぶっちゃけ変っていうか・・・
そんなときに魔理沙がそっと耳打ちしてくれたのが

「それは『紅魔館』最大の謎だから誰にも解けないんだぜ。」
「ああ、なるほど・・・そういうことか。」
「ああ・・・そういうことなんだぜ。」
「何をどう理解したのか訊かないでおいてあげるけど、たぶん何かが間違ってるわ・・・」

半眼で呻くパチュリー、いや・・もともとジト目っぽいから半眼かどうかが怪しいけど。
どうやら叱られていた二人の方もどうやら決着がついたようだった。
・・・主にメイドさん咲夜さんの一人勝ちという・・何とも言えない結果に。
ふと、さっきの会話で気になったことがあったのでパチュリーに訊いてみた。

「なあパチュリー。」
「何かしら・・・何度も言うけど、さすがに歳なんて訊かれても答えないわよ?」
「いやいや、それは訊かないけどさ・・・レミィに名前を任せない理由って・・・」

少し考えたような素振りを見せた後、サラッと。

「あ~・・レミィってね、ネーミングセンスがこれでもかと言うほどにアレなのよ。だから。」
「何を言うのよっ!!」

机を―ここじゃテーブルを―バンと叩いてレミィが主張する。

「あれだけ威厳に溢れて格好良い名前も珍しいくらいだと思わない?!」
「よっし!じゃあ答えてくれ!魔符「全世界ナイトメア」の何処が格好良いんだぜ?」
「また魔理沙は要らん茶々を・・・いや、だからこそなのか?」
「いや、別に私はそう言う認識をされるために言ってる訳じゃないんだが・・・」
「ストレートな分、レミィより魔理沙の方が格好良いときが多いわね・・・ええ。」
「お嬢様、さすがにこれは少し分が悪いかと・・・」
「ねぇ味方はっ!?私の味方は居ないのっ!?」
「「「・・・ゼロ、なんじゃないかなあ・・・」」」

見事に倒れ伏すお嬢様。その名はレミリア、『紅魔館』主にして・・・・吸血鬼。
ああ! なさけないれみりあ こんなところで たおれてしまふなんて!
・・・おっと、妙な天の声が。
まあ、いいか・・・そろそろ、考えてた事も決まったしな。

「瑠為、とでも呼んでくれたらいいか・・・な。」

ほんの一言ポツっと漏らしただけなんだけど、なんでこうも静まりかえるかな。
ていうか特に、後ろの方で踊ってただけの小悪魔ちゃんが動きを止めている・・・・!
そんなに驚くことだったんだろうか・・・何か不思議だけど。

「ああっと済まないぜ、いきなり言うものだからちょっとな。」

ブンブンブンッ
魔理沙だけは現実に帰ってこれたようだけど、後の二人がダメすぎる。
ていうか、パチュリーとレミィが魔理沙の意見に首肯するように頷いていた・・・
・・咲夜さんが数に入ってないのは、そもそもこの人が驚いたかどうかが分からなかった。
だって、言う前と言った後の違いが全然分からないんだもの・・無理じゃないか・・これ。

「じゃあもう、難しいこと言わずにルイっていっとけばいいんだな?」
「ああ、そんな軽い感じで頼むよ。」
「まあ・・・言いやすいから特に何も問題はないわね。」
「レミィが心配するところは韻だけなのかしら・・そこはかとなく不安だわ・・・」
「それでは、ルイ様。」
「はい、なんです?」

そして、優雅なお茶会は終幕を迎えることになった。

「当『紅魔館』に居られまする、もう一人の関係者に会っていただきます。」
「咲夜っ!!あの子には会わせないという話じゃなかった!?」

そして、その一言にレミィが激昂した。
瞳は先よりも深紅に染まり、黒き翼が惜しげもなく広げられていた。
まるでその一言が本当の禁句であるかのように、ついさっきの情景が蘇る。

「可能だと判断しました。きっとルイ様は”飛び”ません。”飛ば”されないと思われます。」
「・・・いいわ、折角の楽しい客人、”飛ぶ”事の無いようにしなさい。」
「えっと・・・”飛ぶ”って何?」

専門用語っぽいと訳が分からんなあ・・・ホントに。
勿論、こんな時にも頼りになるのは出来るだけ軽く答えてくれそうな魔理沙だけど。

「へ?そりゃあ・・・・”飛ぶ”って言ったら・・・」
「言ったら?」
「空を飛ぶか、意識が飛ぶか、物が吹っ飛ぶか、それか・・・意味的に死ぬ、かな~・・・」
「あ~・・そうかそうか、死ぬことか~。」

言いながら紅茶を飲みつつ、スコーン(プレーン)を囓りつつ幾つかを袋に詰める。
・・・後半やってることは、たぶん軽い窃盗なんじゃないかなと思ったけど・・・
まあ、魔理沙だし特に咎める必要も何も感じなかった。
てかむしろ、その意味に驚きすぎて何も口に出せなかったというのが正解。

「って俺死ぬのやだよっ?!」
「大丈夫です、そんなものは行かなければ分かりません。」
「分かるじゃん!?どう考えてもなんかその人怖いよ!?」

咲夜さん、それは良い笑顔で言って良い台詞じゃないです。
というかなんで貴方はこうも時々、気合い論で物を語るのデスカ?

「ん~・・・きっと咲夜が大丈夫と言うからには大丈夫なのよ、ねえパチェ?」
「確証は持てないけど、今までよりは遙かにマシとは言えるかもね・・」
「えと、俺の生き死には確率論で語られるの・・・?」
「あら・・?絶対とは言ってない辺り優しいとは思わない?」
「・・・・スミマセン、オレガマチガッテマシタ。」
「よろしい。」

何でそれで上機嫌に紅茶を啜れるのかが俺には分からない。
・・・えっと、それで、この流れは・・・

「では、こちらになります。
諸事情で、地下に隔離、幽閉しておりますがお気になさらないでください。」

・・・それ、どういう神経をしてたら気にならないのか知りたい。
さっきからの話で、なんかウズウズしてたのか魔理沙も着いてくるようだ。
と、思ったら結局ここにいるメンバーは殆ど着いてくるとのこと。(咲夜さん談)
一人で行かなくて良い分・・・まだマシと思うことにしよう。

そして、俺たちは『紅魔館』最上階の主の間から、地下に向けて歩き始めた。
・・・・まあ、なんというかメンバーがメンバーだからか、少し・・・・

「そういえばここ最近、アイツに会ってないんだよな~、元気にしてるか?」
「ええ、曇りの日で調子が良いときは結構どんちゃんやってるみたいよ。」
「おかげで夜中に集中して本が読めないの・・・むきゅ~・・・」
「いや、パチュリーは少しぐらい寝た方が良いと思うぜ・・・?」
「知識はいつどれだけあっても、別段困る事なんて一つもないのよ・・・?」
「・・違う、私が言いたいことはそうじゃなくてだな!」

――訂正、かなり騒がしく、地下に向かっていた。


(続く)

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