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2009-02-19

『琥珀道士』


          『琥珀道士』


荒野。
ただ、吹き荒ぶ風だけが累々と重なる骸を撫でる。
風に吹かれ、桜が散った。
桃色は褪せて、色は紅。
飛沫が飛び散った、成れの果て。

その中に。
琥珀色の髪が流れた。
鳶の瞳を持つ彼女は「琥珀道士」。
手指に挟むのは符。

ただ、紅桜の中を、立ち惚けていた。
足下に、炭と化し灰に散りゆく人の子を置いて。
彼女は腕を上げ、符を掲げ、唱える。

しかし、瞳には。
雫が。
一筋。



彼の、乖離戦争の、情景。




彼女は、道士としては、かなり名を馳せていた。
彼女ら琥珀道士の仕事は「闘争の援助」「魂魄の誘導」
その二つの力量が、彼女・・玻玖は飛び抜けていた。

符を使った符術を用いて、仕事を全うする。

しかし、彼女は一月前より符を持たなくなった。
乖離戦争に参加してからと言うもの。
彼女は、全くとして、村から外に出ようとはしなかった。
原因は、誰にも分からず、村人は困窮した。

幸いかどうかは別として
彼女の家系は村にとっての地主の役割を持っていた。
不信・不満・不平・・そのようなことは直接には言われなかったものの
それらは確かに、村人達の心に植え付けられていった。


そして、さらに一週間が過ぎた頃。

「主様、ここは・・策は一つしか取り得ません。」
「ご決断くださいまし・・」

場所は、玻玖の家。
村人が訪れ、ついに嘆願を申し立てた。

策・・・それは僵死と呼ばれる、補佐役の者を付けるというもの。
ただし、それは人でなく、符術によって生み出された存在。
完全な自律神経を持ち、性格は多種多様。
琥珀道士が持ちうる、最秘奥の秘技であった。
方法は、門外不出、技術は完全なる一子相伝であった。

主は、不承不承ながらも、それを受け入れ
僵死を、喚びだした。

喚び出された彼は「羅刹」と名乗った。
思考回路は天上天下唯我独尊、まさにそのものだったが
忠誠心においては、他には無いほど抜きんでていた。

玻玖は羅刹が傍にいることを、拒みはしなかった。
しかし、それだけであった。
普段通り振る舞っていても、そこに気はあらず。
過去の威厳・覇気等は抜け落ちてしまっていた。

羅刹が、無理を言って、玻玖を仕事に連れ出そうとしても
彼女は何もせず・・・符も構えず・・・

それは、さながら人形のようであった。

彼が、玻玖に付いて三日が経った頃。
そんな様子に飽き飽きしたのか、羅刹は一人で鍛練を積んでいた。
玻玖を一人にしておくのは、出来ない話なので
もちろん、傍には彼女が佇んでいる。

「おい、何を呆けてるんだ?」

声がかかる。
相手は紛れもなく玻玖に向かってだ。
声をかけてきたのは同業の「朱春」・・・自尊心が強すぎる
玻玖の存在が、重荷になっていた者だった。
要は、玻玖によって、自分のプライドが傷つけられてきた・・・
そう言うヤツだった。

「・・・朱春か・・」

玻玖は気怠そうに顔を上げ、朱春を見た。

朱春の隣には身の丈2メートルを超えるような巨体が居た。
天慎と呼ばれる彼は、その巨体を活かし
重量に任せた動きを本分にしていた。
ただ、彼は気性がおとなしく、朱春に指示を頼り切っていた。
悪く言えば、金魚の糞とでも云われるヤツ。

「はっ、なんだ、たかだか戦争に行ったぐらいで
ここまでヘタレるのか、お前・・・あ~あ、信じられないなぁ・・
この村一の符術使い玻玖様とも在ろう方が、たかが死人一人見ただけで
ここまでにも弱くなっちゃうのか・・あははっ、バカじゃないのか?」
「・・・そうかい・・・」

朱春は勝手に一人で話し始めた。
嘲笑・哄笑混じりの彼の語らいは、誰が訊いても
腹の虫が治まらないものだった。
それを、玻玖は心底どうでもいいように、聞き流していた。

その様子を見て

「・・・おい。」
「ん?何だい・・あぁ、お前も大変だねぇ・・
使えない主を持っちゃってさぁ・・・良かったらさぁ・・・」
「貴様の話なんか知ったこっちゃねぇ・・覚悟しやがれ・・
何人たりとも・・我が主の侮辱は許さん!」

彼は、朱春に飛びかかった。
拳を振りかざし、狗鷲のような速さと万力のような強さをもって。

「・・やめて。」

羅刹の一撃が、天慎によって防がれたとき。
玻玖の鶴の一声があがった。

「・・・なぜです?!・・何故止めるのですか?!
こいつらは、あなた様を愚弄したのですよ!?」
「・・もう・・いいのよ・・」

彼女は・・立ち上がった。
ただ、いつもと違ったのは・・・

「悪いけどね・・・もう、誰も傷つけたくないの・・いいえ
もう、傷つけない・・・誰かのため、とかそんなものじゃなくて・・
だって・・私が・・耐えきれないから・・」

空気が固まった。
羅刹でさえも、初めて見る玻玖の様子に気圧された。
そう、これこそが彼女の力。
琥珀道士としての、力だった。

その様子に、不意打ちだったのだろう。
気勢を削がれた朱春達は、まるで逃げ帰るように
そこから立ち去った・・・。

「・・羅刹。」
「はい。」

実質的に、これが最初の命令だった。

「・・連れてってちょうだい。」
「・・場所は?」
「あの場所へ。」
「・・承知。」

覇気が戻った玻玖は羅刹に抱きかかえられると、声を張り上げた。

「そういうこと、だから。
私は乗らないわよ、すべては私が弱かったせいだから。
迫害を受けたのも、誰のせいでもないもの。
それに・・・私はね、誰も恨んではいないのよ。」

それは、誰に対してのものだったのか。
自分か・・それとも、他の誰かに向けてか。

彼の地にたどり着いた玻玖は。
両手を挙げて「ただいま。」と、つぶやいた。
羅刹は、どことなく満ちあふれた笑顔をしていた。

そのときに、火傷を負った少女が駆け寄ってきた。
玻玖は、久方ぶりに、符を構え。

彼女の傷を、癒し始めた。






木陰にいた、二人の人影は、それを聞いた後。
「彼女は・・乗るべきではない。」と、判断を下した。
一人の影は、みるみるうちに小さくなり、動物の影へと変わった。

彼らの結論は、恐ろしく簡潔だった。

ただ単に、彼女は強くなったから。
それは、以前の彼女よりも格段に。

彼女には、まだ、残されているから。

と。

2009-02-19

『支配者』


          『支配者』

カラカラと、大きな箱を載せた台車を動かす。
それは、とっても重くて、何だか終わりのない作業。

「よいしょっ・・と。」

台車を、定位置に固定する・・・隣にあるアームを操作して、箱を掴む。
そうして、箱を奥にある部屋の中に、置く。

部屋の中一杯に敷き詰められ、積み上げられた箱、箱、箱・・・
それを確認した後、さらにアームを操作して鉄板を掴む。
そして、部屋に、蓋をする。

そして、僕はこの万力のような
接着剤で引っ付けられたかのような黒塗りのレバーを。

ただ、引く・・・それが僕の仕事。
引き終わった後、もの凄い轟音が工場に鳴り響いた。
あのコンテナが、何処に行くのかは知らない。
これも、いつもと変わらない、何も変わらない。

レバーを引くのは、たぶんこれで3回目。
時間・・は、よく分からないけれど、今日はもうおしまい。
あとは、残った機械の整備をすれば良いだけ。
あ、そうだ・・・報告しなきゃ、管理員に。

僕は、手早くアームをもとの場所に戻して、駆動部分に油を差した。
昨日はちょっと乱暴に扱ったから、今日はどうだろう・・と、思ったけど
特に問題はなかった。

管理員は、何か気に障ることでもあったのか、こっちを見ようともしない。
でも、それもいつものこと・・・きっと、いつまで経ってもあのままだと思うから。

「今日は、3回でした。」
「・・ん、そう・・わかった。」
「F-048062です。」
「了承・・帰って良いよ」
「はい。」

いつも無駄に緊張している・・・僕は何だかこの人は苦手だ。
本当なら、先に認証番号を言わないといけないのに・・・
そうして、更衣室でつなぎから、私服へと着替える。
と言っても、ただのジーパンと、白色の薄手のトレーナーだけど。

ふと、鏡を見る。
そこに映るのは僕だけ・・・別に幽霊なんかは信じてないけど。
僕の髪は真っ白、肌も色白くて。
瞳の虹彩は、限りなく白に近い灰色。
そう、僕らはヴァイスと呼ばれる【白い人】だ。

鏡を前にして、少し身だしなみを整えたあと。
僕は、工場の外に出た。

外に出ると、無機質な水銀燈の灯りが、通路を照らしていた。
僕が住むのは、この地下世界。
正しくは、地下都市・メフィレティ。
一応、地上にも世界はあることはある・・・らしい。
だから、いまでも地上に暮らしている人なんか聞いたこと無い。

水銀燈のほんのりとした灯りを頼りに、煉瓦で舗装された通路を通って家に帰る。
辺りは、薄暗く人気も感じられない・・・いつもはそうだった。

それがいま、僕の目の前には一人の人がいる。
そこには、色が付いた人がいた。
髪は黒、セミロングで先端は少しカーブがかかってる。
黒いトレンチコートを着て、黒の虹彩を持ったその目で。

僕をじっと見ていた。

初めて見た・・・この子がシュバルツ・・・【黒い人】なんだ・・
ぽっかりと、そんな風に思ってた。
見た感じ、どうも14,5ぐらいの少女に見えた。
と言っても、年齢なんかはさして、問題にはならない。
大事なのは、僕が、彼女が、【黒】か【白】か。
その一点だと思うから。

そして。
少女は、右腕を前に出し人差し指と薬指を上に立てた。

――来て。

そのボディランゲージは、無言だったはずなのに
どこか、威厳を感じさせて、そして、優しかった。
基本的に、僕らは彼ら(今は少女だけど)に逆らえない。
いつからそうだったのかは知らないけれど、ずっと。

少女は、踵を返して、遠ざかる。
慌てて、僕もそれに習って、ついて行く。
道中は、見たこともない景色が並んでいた。
だってそこは、今まで立ち寄ることもなかった・・場所だったから。

けど、目まぐるしく変わっていくんじゃなかった。
ただでさえ殺風景な風景が、それさえも越える、景色に。

ふと、目の前を歩いてた少女が立ち止まる。

「・・・なにか、言いたいことはあるかしら?」

雲雀のような声だった。

「いえ、何もありませんけど、ひとつだけ。」
「・・無いのに聞くのね・・・何かしら?」
「何をされるのですか?・・ここに連れてきて。」

そもそも、そこにヴァイスである僕が必要なのか?・・と

「別に、何もしないわよ・・・気紛れなんですから。」
「・・・・・・・解りました。」

たとえ、それがどんな理由であっても
意見する、なんてことは僕には出来ない。

「そう・・じゃあいらっしゃい。」

少女の目前には扉が一つ。
ただ、それはとても奇妙な光景で・・・
扉はある、けど、その周りにあるはずの壁がない。
そこには、ぽつんと、扉があるだけだった。
少女は、扉のノブを回し、開いた。

扉の中には、空間があった。
空間には、見慣れたモノが所狭しと。
現実には、空間・・・部屋に置かれているのはモニターだった。

しかし、僕の仕事内容には。
モニターを扱う作業など存在しない。

そう。
目に映るのは。

僕の手僕の手白い手白い手ボクの身体カラダ躯白い白い
シロイテテテアシ足頭頭アタマ・・・・・・・・・・ボク、僕。

ソレは、ヴァイス。
現状意識が断絶されそうになる。

「先に言っておくけど、ソレは、アナタであってあなたではないわ。」
「・・どういう意味です?」
「世界って言うのはね、存外、汚れているモノなのよ。
少なくとも、あなたが今まで生きてきて、経験したぐらいでは
語れないぐらい・・・ね。」

・・よく、解らない。

「時にあなた、自分が何をしているか、知っていらっしゃって?」
「・・仕事です、コンテナ運搬の。」

何を聞いてるんだろう。

「じゃあ、いったい、ソレは何なの?
・・と言っても、解らないでしょうね、きっと、何も知らされてないでしょうから」
「・・何です?」

まだ、気持ちの整理が出来ない。
なにか、ここに来てはいけなかったんじゃないかって。

「あれ、アナタ。」

思考が止まる。
アレは僕?

「アナタの仕事は、私たちから言わせれば『廃棄工場』なの。
だって、壊れたモノなんて、いらないでしょう?
だから、棄てるの、当然でしょう。
その分、アナタは同胞殺しをしているのですけど
私たちには関係がないから、何も思いませんしね。
・・・まぁ、他にもありますがね。」

は。
ははははははははは。
なんだか、笑いが止まらないや。

「けど、何でそのようなことを僕に言うのです?」
「何故?・・そう、理由がいるかしら、やっぱり。」
「はい。」

彼女は少し、首を傾げた後。

「そうね、直接的にアナタに思い入れがある・・で、良いかしら?」
「それだけ・・ですか?」
「いいえ、勿論他にありますわよ。
意外とね、ヴァイスと私たちの生活ってあまり変わらないのよ。
・・・単調、と言う点で。
それに飽きてしまったのよ、簡潔に言ってしまえば。
・・・・それにね。
本当のところ、理由なんか私にも分からないわ。
もしかしたら、そんなモノ、無いのかもしれないわ。」

さっきから、彼女は笑顔で喋っている。
心底、楽しいんだろう、今の会話が。

「さて、アナタ。」
「はい。」

雰囲気が変わった。

「おゆきなさい、何処とでも。」
「何故です?」
「あら、もしかして今の話を聞いたにもかかわらず
まだ、あそこで働くつもりなのかしら?
今までのように、無心で働けるのかしら?」

そんなの、無理だ。

「でも・・何処に・・」
「さぁ・・・ただ、気の向く方に行ってはどうかしら?
もしかしたら、ここではない、何か楽しいモノがあるかもしれないわ。」
「でしたら、アナタは・・・」
「あら、私はシュバルツよ?
ここを出るわけにはいかないじゃない。」

それは、そうだった。

「じゃあ・・・」
「ええ、気にしないで、大丈夫だから。」

・・・。
それを聞いた僕は。







白と黒。
ここでは、絶対的と言っていいほど
あり得ないコントラストを、遠目から覗く・・・
いや、もとい見つめる人がいた。

「・・ちょっと!何でこんな所にいるのよ!」

怒気の籠もった声が響く。
声の主はアリシャという女性。

「いや、よく見えるだろ?ここ。
というか、今更言うなよ、さっきまでここで見ておいて。」

ただ、いる場所が問題だった。
方舟の、展望部でも、甲板でもない。
外郭の先端部分という、一つ間違えば死にかねない場所。

「見えるけどもっ!あんた操縦は?!」
「オートパイロット。」
「・・あるの?」
「ある。」

半信半疑、と言った風だった。

「けど、シグナ。」
「ん?」
「私は、羨ましいと思うわ。」
「そう・・けど、やっぱり、それはそうであって
誰にも言えることだと、思うの。
同じように・・とは言えないけど、きっと。
だから、と言う訳じゃないけど、世界って
そう言うモノ何じゃないかな、ずっと、汚れてるんだ。」

白と黒との様子を、二人は見ていた。
そんな二人に、詳しく語ることは無かった。
だって。

それが、きっと・・・・

2009-02-19

『傀儡姫』


「それ」は、その為だけに作られ、そして、闇に葬られる。
ただ、それだけの存在。

決して、それ以上でもそれ以下でも、無い。

一つの例で言えば、彼女。
そう、涼のような・・・ただ、それだけのために作られる。


          『傀儡姫』


   【前編】

―白桜家、地下室にて。

そこは、暗闇。
その中で、揺らめく一筋の光があった。
それは、灯りが点った提灯・・・

それを持つのは、白髪ながらも精悍な顔立ちを持つ男。

男は風貌に反し、歳を感じさせなかった。

男の隣には、この部屋の雰囲気にそぐわない女が一人。
そして、女が口を開く。

「これで・・・・完成か?」
「御意、技術の粋を用いて創り上げました・・」

彼らの目の前には、女が一人。

「しかし、やりよるのぉ・・ここまで似せられるものか・・・
くくく・・傀儡にしては、ほんに瓜二つじゃな」
「有り難き所存で。」

高慢とした態度で、まるでそれが楽しむかのように話す女・・・
彼女こそが現白桜家当主、白砂。
その態度に、不満を感じさせない調子で応える、従者の男。

声に反応し、彼女は目を覚ます。
両腕は肩まで上げられ、そこで固定されていた。
両足は綺麗に揃えられ、同じように直立不動の形で固定されている。

目の前には鏡、そこに映し出される自身の姿。
そして鏡の隣に佇む、別の自分。
だが、その自分は、鏡に映るものとは、どこか、違っていた。

彼女の脳はそう認識した。
やはり、そこに鏡は、無かった。

「誰?」

何も、感情の抑揚のない声で、彼女は鏡の隣に座している者に訊いた。
それに対し、嘲笑うかのような調子で、応えた。

「お主は影武者・・・妾の身代わりとなるべく生を受けた傀儡」

緋色と金刺繍で彩られた着物で着飾った白砂が言う。

「まぁ、傀儡に命などあれば・・・の話じゃがな・・」
「質問に答えてくれないか?・・煩わしいのは嫌いだ」
「はっ・・何を言うやと思えば・・そんなことか?」

あからさまに、嘲笑の態度を崩さない白砂。
対して、毅然とした態度をとり続ける涼。

「愚かよのぉ・・・妾の名なぞ、そちに教ゆる必要なぞ在りはせぬ・・・・・連れて行け」
「御意」

指示を出された直後、白砂の背後より、控えていた別の男たちが闇を縫うかの如く現れた。
誰も彼もが表情はなく、まるで人形のような人たちだった。
そして、その中の一人が涼の肩に手を乗せた。

「何を・・」

涼が話そうとしたとき、別の人が、所持していた鉄棒で涼の頭に殴りつけた。
当たり所が悪かったのか、完全に気絶はせず、意識は残る。
否。そうなるよう故意に殴りつけたのかは、定かでないが。

「一刻ほど、慰み者とでもなっておれ・・・その後に、躾じゃ」
「なかなかの名案ですぞ・・・それ以降はいかほどに?」
「好きにしよれ・・・教育についてはお主に任せるぞ?・・・水鶏」

先程から、従者のように付き従っていた男、水鶏と呼ばれた男は恭しく頭を下げ

「有り難き所存で御座いまする・・・では、後ほどに」
「よいな?・・明朝迄じゃ・・遅れるなよ?後は頼んだぞ」
「御意」

頭に激痛を伴いながら、一連の会話を聞き逃さなかった涼は。
既に、男達に弄ばれながらも、心の奥から湧き上がる、醜悪なる感情を。
抑えられずに、また消すことも出来ずに、燻らせていた。

・・・

惨劇が終わり、ほとぼりが冷めた頃、水鶏によって回収された涼は。
水鶏自身の部屋に寝かされ、水鶏は涼の回復を待っていた。

一刻ほど後。
涼はまたも、目を覚ます・・が、しかし、先ほどと違うのは。

醜い憎悪の感情が自身を支配していることだった。

「気分はどうだ?・・・”涼”」
「聞くまでもないだろう・・・それで、貴様は誰だ?」
「私はお前を創りし者・・水鶏という」
「創りし、者?」

一つの単語に違和感を覚える涼。

「どういうことだ?」
「そのままじゃよ・・・ほれ、例えば・・」

おもむろに、脇差しを抜く水鶏。
そして、それを鈴の腕に当てて・・

「お、おい!何をする!」
「いや、ただ単に、自分が傀儡であることを知覚して貰おうと思ってな。」
「な、なんだと・・・・グッ」

腕は切り裂かれた・・・がしかし、鮮血が溢れ出ることもなく。
ただ、歪な、そして数々の、「線」が、涼の目に映る。

「こんなのって・・・」
「分かって貰えたかな?」

落胆の衝撃を隠せない涼。
しかし、どこか気を許せない水鶏に対し、涼は、気丈に振る舞う。

「は、なんだ、いくらあたしが傀儡だったとしても、貴様が作ったんだろ?
さっきは、自分の作品が穢されてるのに助けてもくれなかったな?」

ようやく、抑揚の付いた声で、感情を小出しにした声で応える。

「あれはな・・・仕方なかったんだ、姫様の手前な・・・しょうがない・・」
「・・・・」
「ああ、でな、お前の気分が悪くなる話ならまだあるんだがな」
「まだあるのか?」 「聞くか?」

すこし、逡巡した後、何かが切れたかのように。

「聞こう・・・で、なんなんだ?」
「ふむ・・・実はな、お前はあの姫様の影武者だ」
「それはさっき聞いた・・・で、なんでそうなってるんだ?」

涼は、全く驚いたそぶりを見せず、ただ、聞き返す。
水鶏は、理由を尋ねられ、機関銃のように話し始めた。

「今の白桜家は、主君・園田家に仕える形となっておる。
しかし、つい最近になって他の家々が主君に反乱を起こす・・・
つまり、謀反じゃな・・それが多くなってきおってな・・・」
「へぇ・・それで。」
「うむ、そこで園田家は謀反を恐れるあまり【人質】を要求してきおったんじゃよ・・・」

一瞬の沈黙。涼はその間にそれらの情報を脳内で処理することができた。
それから、口を開く。

「その人質とやらが、姫様だった・・・て訳か。」
「左様、無論こちらとしてもむざむざ姫様を人質に出す訳にもゆかぬ・・・
そして、唯一の善策が・・・お前、つまり影武者じゃ。」
「まてよ。・・・それって。あたしが姫の。・・・ってことは、あたしは・・・あたしはそれだけのために!?」

不満げな顔で、涼は水鶏に問う。
・・・問うと言うよりは、もはや確認の域だったが。

「まぁ・・・そうなるな。」

それだけで、彼女自身には十分だった。
彼女の存在価値は影武者としてのみのものだと。
決定され・・・事実が裏付けられた瞬間だった。



   【後編】


涼が、唖然としているとき、水鶏の背後の襖が開き。

「主、刻限が近うございます・・・お急ぎを」
「あぁ・・分かった」

黒子が、水鶏に告げ、短き応答を交わした後。
黒子は、その場から音もなく去っていった。
それがいた痕跡は、一寸ほど開いた、襖があるという事、それのみだった。

「さぁ、時間もない・・・気に入らないだろうが・・・」
「・・・まぁ、気に入った事もなかったけどな・・・」

そして、二人は立ち上がり、階下へと向かう。
徐々に白み始めた、空の下。

「入っておけ」

冷たい、従者の声。
しかし、涼が今まで出逢った人に比べれば、その人はまだ
人としての温もりがあるように感じられた。

涼が入れられたのは、十畳ほどの一間。
周りには、まさに目が眩むほどの金糸・銀糸で彩られた着物。
そんな物があるかと思えば、その反対側には
質素のように感じられるが、決して貧相には見えず
むしろ、気品漂う上質の着物さえ在った

それらがある中で、彼女は知る。
ここが、「衣装部屋」である事を。

そして、涼自身、これからも・・・また、これから先も
永劫着る事はないだろうと思われる、煌びやかな着物を打ち着せられ。
部屋の外に出たとき、目の前には
白砂が、自分と同じ姿をした娘と、二人立っていた。

「ほぅ・・・人形であっても、着る物が違えば見違えるのぉ・・」
「母様・・・あれは、一体なんですか?」
「あれは人形じゃ・・・たかが「姫!訂正を申し上げたく所存であります」・・・なに?」

白砂が、話を止めた。
そして、水鶏に問う・・・

「水鶏、妾の話に口を挟むとは、そなたも余程偉くなったものじゃのう?」
「それについては非礼を詫びさせて頂きたい・・・が。」
「が?・・・なんじゃ?」
「いくら人形とはいえども、これでも私が根を詰めて創った一品
それにて、人形ではなく・・・傀儡と、お呼び下さい」

白砂の、「人形」発言に対し、水鶏の自尊心が傷つけられたらしい。
しかし。
目の前で、二人のやりとりを見ている方としては、たまったものではないが。

「ふむ・・仕方ない。」
「そ、それでは!?」
「改めよう、傀儡じゃ、あれは傀儡じゃ・・・分かったか?”涼”。」
「はい、分かりましたわ、母様」
「それでは、”涼”お前は、もう部屋にお帰り。」

先刻とは、まるで別人のように振る舞う白砂。
嘲笑・軽蔑などの感情は一切込められず。
今、感じられるのは、慈愛・親愛などの優しい雰囲気だった。
”涼”は、4人の従者に連れられ、本丸へと戻っていった。
その後、城門の方より、男が一人走り寄って来て。

「姫、申し上げます、申し上げます!」
「来たか?」
「はい、園田家より先方より御老中一行様、受け取りにいらっしゃいました!」
「よい、報告に礼を申す・・・退がれ」
「はっ」

急いで、男は退がる。
そして、笑みを浮かべた白砂は、涼に振り向き

「クク・・聞いた通りじゃ・・もう、長くないのぉ・・・連れて行け」

涼は、何も言わず、押し黙ったまま、大勢の従者に連れられ
城門へと向かう。

「待て!」

突如、水鶏が声を張り上げた。
そして、既に駕籠に入れられた涼に走り寄り、小声で話す。

「よいな。決して何も言うではないぞ?
姫は、お前が行った後、お前は死ぬように言っておられるが、それは違う。
近いうちに、我が白桜家は園田家に対し、謀反を起こすべく、準備しておる。」

涼は、水鶏の驚くべき告白を聞き、声を出しそうになったが、すんでの所で、押し黙る。

「その時に、十中八九、私も参加する。
分かるか?・・・お前は向こうで飼い殺しなどにはならない。
それまでは耐えろ・・いいな?必ず私がお前を連れ出す。
だから、希望を捨てるな・・・いくら、影武者とはいえ
用が済めば、おさらば・・・と、なりがちだが、お前はそうさせない。」
「おい、何を話している・・・さっさとどけ、傀儡師ごときが。」

苦虫を噛み潰したかのような顔で、一歩、退く水鶏。
その隙に、城門の外へと連れ出される涼。

そして、城門の外で。

駕籠師は、園田家の駕籠師に、涼が乗った駕籠を引き渡し。
園田家老中側近は、白桜家大老側近に、文書を受け渡した。

こうして、涼は、園田家に、引き渡された。

・・・。

そして、園田家に引き渡され、二ヶ月が経った頃。
園田家の、本丸三階に涼はいた・・・そこに鎮座していただけだが。
涼は、水鶏の言葉を信じ、今か今かと、謀反を心待ちにしていた。
しかし、感づかれてはいけない為、決して、顔には出さなかったが。

(まだなのかよ・・・もう二ヶ月だぞ?)

そう、思った瞬間。
耳に、階下から爆音が鳴り響いた。

「襲撃だと!?・・どこからだ!?」
(よし!・・・どこだって?)
「もう、本丸に攻め込まれた!?・・・馬鹿な・・白桜相手にか?」

涼は、内心、喜んだ。
これで助かる・・・こんな自由のない生活―人生―から抜け出せる・・・と。
そして、勢いよく、襖が開けられた・・・

「涼!」

開けたのは、自分を創った、傀儡師・水鶏だった。

「何をしていた!遅いじゃないか・・」
「すまない・・思ったより斥候が情報を掴むのに難儀してな・・」
「さ、早いところどっかに連れてってくれないか?」

―こっちは二ヶ月も待たされたんだ・・どっかに連れてってくれないか・・?
そんな、一縷の希望も、水鶏の吐いた言葉によって、打ち消された。

「ははぁ・・・よかった。まだそれを真に受けていたか・・」
「なんの話だ?」
「だから、たかが影武者を助ける訳がないだろう・・・
影武者とは本来、死なせたくない本人の身代わりだ
このまま、お前を助けるとその人が、困るだろうが・・・」
「じゃ、じゃあ・・・前の話は嘘だったのか!?」

涼の中で、忘れかけていた、あの感情が浮かび上がってきていた。
―それは、憎悪・・・人に対する憎悪の感情。

「嘘も何も、まず、そんな事があるわけが無かろう・・・
影武者として、一番困るのが、自分から自分が影武者だと吐露する事だからな。
それを防ぐ為に、自分にはまだ希望がある・・・と、思わせるのが得策だろう?」
「じゃあ、さっきの斥候がなんたら・・・って言うのは嘘か!?」
「それは本当だ・・・せっかく始末しなくてはならない対象が
どこにいるかが分からなくて始末できませんでした・・・では、私の面子というのもあるんでな
やはり、下準備はしておくものだな・・・上手くいく。」

涼は無意識に、背後にあった一本の刀を手に取っていた。
それは、何故か。

水鶏の胸に、刺さっていた。

「ぐぁはぁ・・・」
「あんたもか・・・あたしの自由はどこにあるんだよ・・・」

すでに、本丸は炎に包まれていた。
気づけば、周りには。

一人の死体と、灰と化していく調度品。
そして・・・涼。
水鶏という、自分を始末しに来た者がいなくなった為に
こうして、自然死という・・・例を見ない消え方をする、哀れな傀儡が一人。

突然。
天井が焼け落ちた・・・が、それは横にずれ。
涼の頭上には、青空が広がっている・・・はずだった。

頭上にあったのは、空飛ぶ・・・そう、それは飛行船。
それは、涼の目に、綺麗に映った。
飛行船、そう言う言葉でしか、今は表現できない。
そして、涼に一番近いところの蓋が、開いた。

「生きたいかい?」
「あぁ・・・生きたいさ!自由に!」

蓋が開いた先には、一人の笑顔の女の子がいた。
そして、涼は。
自分はこんなに声が出せたのかと思うほど、声を張り上げた。

「じゃあさ・・・」
「?」

そして、彼は一拍おいて、こう言った。

「方舟に、来ない?」

その質問に、涼は。
笑顔で、首を縦に振った。

2009-02-18

『歪み行く中で・・・【併穏】』

          『歪み行く中で・・・』

   【併穏~1~】

一、人間慣れれば何でもなくなる。

というのを、なんだかどっかの誰かが言ってた気がする。
別にそれが言ってたのか、どっかに書いてたのか、それはどうでもいいんだ。

「カタミ、あのね。」
「なんでしょう・・・」

とりあえず状況的に、一番のピンチです。

「いきなりね、穴の中に女の子を投げ入れるって言うのはどうなのかな~?」
「ええ、はい・・あれは、その、成り行きでですね。」

ミナちゃんは笑顔・・・けど目が笑ってないです。
さりげなく、俺の首に手・・いや、腕を回している辺り・・・いや、なんでもない。
ちなみに、敬語なのはなんてことはない、怖いんです。

「へぇ~・・・カタミは成り行きで女の子を放り投げちゃうんだ~」
「でも、俺その後すぐに穴に落ちたぞ?」
「うん、それとこれとは別ね♪」

どうやら全部俺の責任みたいです。
冤罪だ!これはきっとミナちゃんの長きにわたる陰謀なんだ!!
とか思ったりしたけど、よく考えたら初めて逢ってから3日ぐらいしか経ってない。

(そんな計画無理だよなぁ~・・・)

で、さっきからずっと思ってたことを訊いてみた。

「あ、そうだ、ミナちゃん。」
「な~に~?」

やる気なさそうな声が帰ってきた。

「この穴って長いよね。」
「だね~。」

さっきから落ち続けて既に30分ぐらい経ってる感じです。

「いつ終わるのかな?」
「わかんな~い。」
「どうして?」
「簡単に入れたら、何か面白くな~い。」
「・・・ちょっと待って。」

オーケー、落ち着こうか俺。
落ち着け、そして焦るな俺・・・安心して聞き返そうじゃないか。

「ミナちゃんは何もしてないよね?」
「・・・。」

・・・何で明後日の方向向いてるんですか?
答えてよ!不安になるから・・・・

「あのね。」
「おお、何でしょう。」

ポジティブシンキングでいこう・・・この世界何が起こっても不思議じゃない。

「あと少しで地面に落ちるんだ。」

・・少しって何・・?

「少しって何・・っていうかどれくらい・・?」
「50秒ちょっと・・・だと思う・・」
「それ、結構もうすぐだよね。」
「うん・・・」

残り44秒。
ただ、ミナちゃんの言うとおりならば。

「さっきね、リュプスロさんから念通が来てね・・・」
「念通・・・?・・・まぁ、いいや、来て?」
「手続き受理終わったから、もうゲート閉じるって。」

おかしい・・・・話が矛盾してる。
ゲート・・この穴は開く物じゃないのか?
内部と外部からの門があって、外部は開いてるけど内部で閉じる・・
これで、セキュリティやらなんやら確保できるんじゃないのか・・?

それが、今、実際に入るとなると内部側で「閉じる」と言う表現が。
穴の中のトンネルの出口を塞ぐことになるから、俺たちは入れないんじゃ・・
そして、俺たちは外部から「落ちてきた」。
つまり、帰還は不可能・・・でも、ミナちゃんは安心しているようだし・・

「・・カタミ、考えてないで早く準備するよ~!!」
「おおおっ!!・・ゴメンゴメン・・で、準備って何?」

物思いに耽ってたか・・・
うぅむ・・・これ何とかしないと敵に襲われたら俺死ぬんじゃないのか・・・?

「えっとね、またなんだけど。」
「また・・・?」
「うん、現語呪文の唱和・・・っていうか、前の転移の奴・・かな。」
「ああ、何かミナちゃんの後に唱えていく奴だろ?」

そうそう、あの時はアレで助かったんだっけ・・
で、実施ワープしてみれば「ここはどこ?」みたいな状況だった、と。

「あ、覚えててくれたんだ~」
「勿論、ていうか、俺も呪文とか使いたいんだけど。」
「う~ん、村に着いてから詳しく説明するね。」
「まだ俺はお預けを喰らうのか・・・」

使えたら面白そうなんだけどな・・・格好良いだろうし。
あ、でも【狩人】だからそんないっぱい使える気がしないな・・

「あははっ、そう言うことになるかな・・で、ペンダント付けて。」
「これ?・・・よく分からんけど、普段から付けてるぞ?」
「おおっ!それはなんだか意外・・・」

いや、こう言うのは嫌いなんだけど、せっかく貰ったし・・
とか、言うのは止めといた・・なんか、恥ずかしかったし。

「実はこれを付けてないと、呪われるんだろ・・?」
「ふふふ・・実はね・・って、さすがにそれはないかな・・」
「冗談冗談、で、なんて云えばいいんだ?」
「オッケー、じゃあ、行くよ~。」

元気な声と共に、ほんのりと蒼い光が俺たちを包んだ。

【術式・開始】
「術式・開始」

【吹き和む静穏の春風よ】
「吹き和む静穏の春風よ」

【花の匂いを纏いて我らを包め】
「花の匂いを纏いて我らを包め」

「撫で愛でる草の絨毯のように!」
「撫で愛でる草の絨毯のように!」


ほんのりと、緩やかな暖かい風が吹き、落ちる勢いが弱まった。
徐々に勢いは落ち続け、やがて、赤茶色に染まった固い地面に俺たちは降り立った。
・・・降り立ったのは俺だけだけど。
ミナちゃんは俺の後ろにしがみついてます、おんぶ状態。

【術式・閉鎖】
「術式・閉鎖」

よっ、と声を上げて、ミナちゃんは俺から降りた。
ちょっと嬉しそうに見える笑顔だった。

「歓迎しますよ、お二方。」

数メートル先に、そそくさと先に消えたリュプスロさんが立っていた。

「こちらです。」

まぁ、ついて行く以外に選択肢なんか無いので、ついて行った。


(続く)

2009-02-18

『歪み行く中で・・・【來放】』


          『歪み行く中で・・・』

   【來放~1~】

ヒュゥゥゥゥゥゥ

あー・・・

・・・。
今のこの瞬間はアレか・・?
よくテレビとかで見る、スカイダイビングの企画とか
たまにやってる無重力実験の実践版かな。

実際にやってるというのは、なんだか変な気分だ。
さっきから耳の近くでゴォォォォォッって言う音がしてるし・・

まぁ・・・
生き残る保証がないのが辛いけどさ・・・
命綱があるわけでもないし・・

「どうしたの?カタミ?」
「いや、なんでもない・・」

むーっ・・っと、ちょびっとこちらを睨んで
何かを思いついたかのようにポンと手を叩いた。

「もしかして高所恐怖症?」
「違う・・今起こってる現状が原因でなりそうな気がするけどな・・」
「む・・それは私のせいじゃないよ~」

・・なんか、そうじゃない気がするのは俺の気のせいか?

「そんでさ・・・どうやって着地するんだ・・・これ」
「え?・・カタミがその二本の足でガシッとty「できないから」
・・・・できないの?
「俺がそれをできたら、今頃ここにはいないとは思う。」

ていうか、どこの超人だ。
・・今ちらっと下を見たんだけど、色が緑になってきてる・・
海なら海でおもしろかったんだけどな・・・

「カタミ・・・」
「ん?どうした?」
「下はどうなってるの?」
「自分で見れば・・・・まさか」
「ち、違うからね、ただ、
集中しないといけないからカタミにして貰おうって思って・・・」
「へ~、そうなんだ~ふ~ん・・・一応緑一色だけどさ・・」

あ~、なんかすっごいかわいいぞ。
顔真っ赤にして指でもじもじしながら言われてもなぁ・・・

「聞いてる?」
「ああ、聞いてるって・・」

実は大半聞いてない。
途中から「だってね、私のおじいちゃんがね」とか言われたら・・・なぁ・・・

「あ。」

突然、体が浮いた。
いや、浮くって言うのも何か変だな・・
さっきまでも浮いてると言えば浮いてるわけで。
どっちかというと、速度が徐々に遅くなった・・・って感じか。

「なぁ、ミナちゃん」
「なんだから・・・ん?なに?」
「呪文唱えたっけ?」

さっきから言い訳(としかとれない)ばっかしてたからなぁ・・
どうみても呪文唱えてるようには見えなかったけどなぁ・・

「へ?・・なんで?」
「いや、今までみたいに呪文唱えなかっただろ?」
「あ~・・これね、意識呪文だから、詠唱はいらないの。」
「便利だな・・それ」
「う~ん、でも唱えてないから威力とかそう言うのはないんだけどね・・」
「あぁ・・・なるほど」

・・何か分かる気がする・・
ん、と言うことは唱えたらもっと凄いことになるのか・・

と、言ってる間に、いつの間にか地上へと着いていた。
辺りは一面の草っ原で・・遠くの方にちょっと大きめの山が2,3個見えるぐらい。
人が住んでそうな気配が全くしないけど・・綺麗な場所だった。

「ま、だからって唱えても何にも変わらないけどね、これ。」
「へ、そうなのか?」

予想外の言葉に驚く俺・・
唱えても変わらない・・・?

「だって、そう言う呪文なんだもん・・これって。」
「じゃあ、変わるやつもあるのか?」
「うん、そう言うのも少ないけどね・・・」

ケースバイケースってことか。

「でね、カタミ。」
「・・まだなんかあるのか?」
「問題があるのよね~」

何のだ。
しかもその問題、絶対にいい気がしない。
笑ってるし・・かなり良い笑顔で。

「あのね、ここがどこか分からないの。テヘッ」
「マジで?」
「うん、マジで。本気と書いてマジで。」

テヘッと言われたときは、何かこう・・グッときたけど
内容が内容だったからどうにも・・・

あ、そういえば・・

「試練場じゃないのか?」
「うん、全然違う場所みたい。」
「なんでさ。」
「ん~、まぁ、あれじゃない・・」
「何?」
「よくある失敗って事で。」
「よくねぇ。」

むしろ、そんなことが頻繁に起こってたら俺が困る。
そしたら、いきなりミナちゃんが人差し指をピンと上に立てて

「そうだ!」
「何?」
「あのね・・・こんな草原のど真ん中にいても仕方がないでしょ?」
「まぁ・・そりゃそうだな。」
「とりあえず、人でも探そっか~」
「なんで・・・って言うまでもないな・・そうだな。」
「うん、と言うことでれっつごー!」

楽しそうだ。
見てたら、幾らか不安はなくなったけど・・

「あのさ・・・」
「どうしたの?」

クルッと振り向いて、顔をこっちに向けるミナちゃん

「人を探すって・・・どうやって?」
「ん、適当に・・」

・・・先行き不安だ・・・
そんな「え~っと」とか「う~んっとね~」とか言われても・・

「あれ?」
「どうした?・・・何か見つかったか?」
「いや・・・何か人が通った気がして・・」
「へ?」

目の前を見てみる。
ミナちゃんが見ていた方向を見てみても、特に何かある訳じゃない。
むしろ、草原が広がる、長閑な風景にしか俺は見えない。

「気のせいなんじゃ・・・」
「ううん、絶対見たもん!」

握り拳を掲げて力説するミナちゃん・・

「・・何をしているんですか?・・あなた方は。」
「は、はい?!」

突然声をかけられた。
驚いて振り向いてみると、そこには。

いかにも、インディアンな方がいた。
加えて、俺たちの命のピンチだった。

「え~っと・・説明しますから、その・・」
「弓・・・下げてくれる?」

弓には二本の矢が装填されていた。
しかも、臨戦態勢で、いつでも放てるように。

対して、俺ら丸腰。
・・・いや、ミナちゃんの杖は在ったけど、戦闘には向いてなさそうだし。


どうしよう。



   【來放~2~】

「いや・・その、怪しい者じゃないんだ・・」
「・・空から降りてきた人を、どうやったら怪しくないとでも?」

正論だ・・それもそうだ。
ていうか、そんなのは俺でも信じない。
いきなり空から降りてきたら(落ちてきたのではない)
それは・・何か別の次元の人か
よっぽど変な人だろう・・たぶん。

ミナちゃんに関しては・・・そっとしておこう。
ワタワタと慌てふためきもせず・・完全にフリーズしてる。
・・せめて、口を閉じてくれ・・・ポカンって・・

というか、目が死んでる。
どこを見ているんだ・・というか、早く帰ってきてくれ・・

「・・・ですが・・・」
「なんでしょう・・?」

なんで敬語?俺。
いきなり話しかけられたから、冷や汗が流れた。
マジで怖い・・・何だろう・・このぞっとする感覚・・
これが、俗に言う「悪寒」ってやつなのか・・

「私といたしましても・・別に敵対する意志はありません。」
「「へ?」」

ミナちゃん復活。
予想外の言葉に驚いたみたいだ・・・俺も同じく。

「・・・敵じゃないの?」
「ええ、なんだかそちら・・・お困りのようですし・・・」

ミナちゃんカムバック完了。
なんだか楽になったみたいだ。
ふぅー・・・って、溜息までついてるし。

そして、ここで俺はさっきから気になっていた点で。

「あのさ・・・手に持ってる弓・・下げてくれるか?」
「はい?・・ああ、すみません・・弓下げますね。」

気付け・・・むしろ、気付いて欲しかった・・・
そして、彼は弓を片付けながら

「それと、自己紹介もしておきますね。
私はリュプスロですので・・・よろしくお願いしますね。」
「うん、えっとね、リュプスロ・・さん?でいいの?」
「ええ。」

ようやくミナちゃんが自我を取り戻したらしい・・・
いつものミナちゃんの雰囲気になってる・・よかった・・

「えっとね、こっちがカタミっていうの。」
「ミナちゃんさ・・・俺が言うから・・」
「え~・・・いいけどぉ・・言わせてよ~」
「それは、後からで言えるだろ?」

自分で紹介できないのがそんなにイヤなのか・・・
何というか、見慣れた「む~・・・」って顔でこっちを・・

視線がイタイ・・主に左から。
左にいるのは、身長が小さいけど凄い魔法を使える女の子だけど。

「俺は、御諏村確実。
何か知らないけど、いざこざに巻き込まれてこんな状態だ。」
「分かりました・・で、行く当てはあるのですか?」
「行くあてはなぁ・・・・・」

ふと、ミナちゃんと目を合わす。
いや、目があったというか。

”ある?”
”いや、無いだろ・・・俺はここに詳しくないし。”
”だよね~・・・私もよくわかんない。”

さすが俺ら。
アイコンタクト一つでここまで話せるようになるとは・・
ちょっと事故が多かった気がしたが、それはアレだ。
きっとこれのためだろう。

「無いのでしたら・・私たちの村にいらっしゃいます?」

また村か。
ここまで来るとアレだ・・町にも行ってみたい。
けど、おおよその見当は付いてるから期待も出来ないけどさ・・・

「どこにあるの?」
「そうですね・・・少し・・歩きますが、いいですか?」
「うん、別にいーよー、私たちは構わないから~。」
「ああ、そう言うことだ・・・それじゃ、案内してくれます?」
「もちろんですよ、こちらです。」

草原の中をさも当然のように闊歩していくリュプスロさん。
それで・・5分ほど歩いた頃かな。

「ここです。」

さて。
密林を指さされて、俺はいったいどう返せばいいのかな・・・これ。
少なくとも・・俺の目がどうかしていない限り・・・

「密林?・・だよな。」
「うん・・・カタミも・・・・そう見えるの?」
「さぁさぁ、こちらですよ。」

笑顔で、密林の中へ入っていくリュプスロさん。

まぁ・・・置いてけぼりはいやなので。

ついて行くことにした。
怪しいけど。



   【來放~3~】

怪しいのは分かってたけど
その実、本当に怪しいとは思いもしなかった。

―マジか・・・

とりあえず、鬱蒼と茂った森の中を歩いてた。
これはジャングルというかアマゾンじゃねえのか?
なんて思える雰囲気の森を歩くんだが。

もちろん、そんなところを初見で歩けるわけもなく。

「・・っ、切ったか。」
「?・・カタミどうしたの・・?」
「いや、どっか出っ張ったところで引っ掻いたみたいだ。」

という、アクシデントが続出している訳だ。

「そういや、ミナちゃんってさっきから怪我しないよな?」
「ん~、そうだね~、なんでだろ?」

・・・その大きめの服が・・とか言ったら
なんだか、また死を垣間見るような気がするのは間違いじゃない気がする。
何せ、踝まで届くようなローブだし・・・
ていうか、袖で手が隠せる・・っていうのも、それはそれで問題が・・・
明らかに着る服を間違っているとしか思えないんだけどなぁ・・・

「・・あ。」
「どうした?」

また、突然「あ。」とか言われても正直反応に困るんだけどな~

「そういえば、ずっと障壁付けてたの忘れてた。」
「障壁・・て、バリアーみたいなのか?」

うん、何かそれっぽいのはマンガで見たぞ。

「うん、当たってるけど、話したっけ?」
「いや、話されてないけどさ、何か・・こう、勘で。」
「何かそーゆーのって反則だよね~。」

・・・・何がだろう・・・。
不機嫌ではないみたいだけどさ・・笑顔だし。

「あの・・・・」
「「はい?」」
「お話中の所申し訳ないんですが、つきましたよ?」
「・・あー、そうかそうか、そうですか。」

・・一瞬頭が真っ白になるとは思わなかったぞ・・
びっくりしたじゃないか・・寿命は縮まないけど。

あー、まぁ、アレだ。
到着したのは良いんだ、うん。
さらに、目的地がすぐ目と鼻の先にあるって言うのも良い感じだ。

うん、それと。
私はちゃんと道案内をしました・・的な凄く満足げなリュプスロさんも良いとしよう。
とっても好感触だ・・俺はとっても嬉しい。

のだが。

「で、村って何処さ?」

目前に聳え立つのは一本の大樹。
しかも、かなり年月が経っているみたいで
見た感じ、かなりの老樹・・・っぽい。
ちなみに周りは大木だらけで、

「いや、ここですが。」

いや、ね、そう言いきられても・・・

「・・そっか、カタミに見えてないんだね。」
「はい?」

なんでまたそんな意味深な言葉を・・・
ていうか、手招きしてる・・・ああ、そっちに行けってことか・・

そう言うわけで、現在ミナちゃんの目前で。
ちなみに、いくら近いと言っても3Mか4Mは在るわけだ。
それに、場所が場所なだけに、移動するのもやっとなんだが
ミナちゃんの所に行ったときに。

「あ、すぐ済むから。」
「・・どれくらい?」
「2秒?」

・・・。
そんなに本とか読まない俺でも・・「言葉もない」っていう単語は知ってる。
まさにこの状態が、そのことなのかな~・・とか。

「はいはい、落ち込まないで・・いくよ。」
「・・・なんで落ち込んでるのが分かるんだ、とか
色々突っ込みどころはあるんだが・・・ほい。」

スッと、無音。
風は止む、鳥の囀りもどこかへと。
うるさいほど啼いていた獣の声も、かき消えた。
杖を翳す・・標的は、まぁ、俺しか居ないのだが。

【冤視・婉眼】

目がほんのりと暖かくなるのが分かる。
だから・・・と言うわけでもないんだが・・

「あのさ、ミナちゃん。」
「ん、どうしたの?・・もしかして私の周りに黒い霊でも廻ってる?」
「え・・あ、そう、それ・・何だこれ?」

リュプスロさんを見れば、紅い霊が廻ってる。
こう、一個しかないんだが、身体の周りをゆったりと縦横無尽に廻ってるという感じ。
ふと、自分を見れば、肩先の所に蒼い霊が浮かんでいた。

「それね、属性魔魂っていうの。」
「・・そっか、俺は水だから青色なのか・・」
「そう言うこと・・・で、さっきの樹を見てみて。」

視線を向ければ、ぽっかりと穴が開いてる。
それも、人二人は軽く通れるほどの穴。

「ようするに、ここを通れば行けるって事か。」
「そうです・・・えと、ミナさん・・でしたかな?」
「うん、そーだよ・・どうかしたの?」
「少しお話が・・・」

二人で内緒話か・・・
俺はどうしよう・・・二人が話している間は俺は暇だからなぁ・・・
属性魔魂か・・・妖精みたいなモンかな・・・

―・・・!

・・話せるかな?
まさか・・いや、でも・・う~ん、どうだろ・・

“どうしたよ。”

「いやな、こう、さっきからふわふわ動いてる・・属性魔魂だっけ。
それが、もし妖精とかに近いなら話せるのかな~って思ったんだ。」

一人ぼやく。

“はー、そりゃ結構なこった”

「だろ?」

律儀にも返してきやがったので、こちらも負けじと。

“そうそう、それとは別にだな、いま、お前は誰と話してるんだ?”

「誰って、そりゃあ・・・・・・、そりゃ・・・・
え?・・・・、あ・・・、そういや、お前誰だ?」

“誰って・・妖精なんだが・・お前が言う”

あー、そうか妖精かそうかそうなら早く言ってくれって・・は?

「ハァァァァァァァァァァ!?」
「え!?どうしたのカタミ?いきなり大声挙げて・・?」
「いや、今・・何か妖精って言うのか・・
それとなんか会話してた気がする
あぁ・・でも、妖精とかどんだけ非現実だって話だよな
まぁき「いるよ。」い・・・へ?」

今なんと?

「だから、妖精は居るって言ってるの。」
「なんでさ。」
「う~ん、それって属性魔魂の事?」
「ああ。」
「話したの?」
「ああ。」

何が聞きたいんだろう・・
まぁ、ちょっと俺の方がパニックで「ああ」しか言えてないけどさ。

「そう・・・カタミ。」
「な、何だ?」
「近いうちに特訓しよっか。」

・・ゴメン。
正直何が何だか分からないんだが。



   【來放~4~】

特訓?
いや、特訓て、何のだ・・・?
そもそも俺は魔法とか魔術使えないし・・・。
ていうか、実のところだと使えないより、分からないに近いんだが・・・。

「・・?、どうしたの?」
「いや、俺にその・・特訓とかいう・・の、必要なのかな~・・って。」
「・・私は必要と思ったから言ってるんだけどな~♪」
「ええ、私もそう思いますよ。」

なんでそこにリュプスロさんまでが・・・
既に身体の半分は穴の中に入ってるけど。

「それと会話って言うのは、なかなか出来るものじゃないんですよ。」
「なんで?」

俺はさっき普通に会話していたんだが・・妖精(?)もどきと。
・・今は何処に行ったのか、黙ってるけどさ・・・

「なんて云いましょうか・・・?」
「う~んと、ね~・・・なんだろ、精神の統一?」
「・・・格好良くは言ってるけど、要するに気持ちを一つにって事か?」
「うん、そうなんだけど・・・」

・・?
まぁ、気持ちが重なれば会話が出来るようになる・・・というのは分かる。
二人が言いたいのはそんな感じだろう、きっと。

「属性魔魂って、自分とは相反する気質なの。」
「相反するって・・・正反対?」
「そうなりますね~・・・自分で自分のライバルを持ってるんですよ。」

・・それ絶対無意味な気がする。
いや、せめて味方ぐらい味方で固めさせてくれよ・・・。
どこのRPGがパーティの中にゴブリンを入れるんだよ・・・・スライムとか・・
俺なら入れない、ていうか、普通入れさせて貰えない気もするが・・。

ていうかリュプスロさん。
あんた先に行くつもりだろ・・もう頭しか出て無いじゃないか・・
案内業は何処へ・・・むしろ、どうしたんだ・・・

「だからって、今浮かんでる魔魂に攻撃しちゃダメだよ?」
「なんで?」

速攻で手にハチェットを持って、これ(魔魂)に振りかぶろうとしていたのに・・・
(あわよくば、先に何処かに行こうとする誰かを攻撃したくもなったけど。)
ミナちゃんは、人差し指をこちらに向けて「あ~っ」と言いたげな・・・・顔で。

「・・返って、来ちゃうから・・」
「・・・何が?」

遺憾ながら、とても恐怖発言が待っている気がします、お母様。

「その・・・・ダメージが。」

・・・・。

「・・なんか、頭の処理が追いつかないんだけど。」
「カタミ、気持ちは分かるけどこれって大事なんだよ?」
「ダメージが返ってくるって事は、相手もここを狙う・・・訳ないな。」
「うん、それは正解・・狙っても無駄だもん。」

だって、魔魂の大きさはピンポン球ぐらい。
それが身体の周りをふわふわ浮いているだけだし・・・
狙うんだったら、俺の・・そう、本体を狙えばいい話だ。
うん、バカの俺でも分かるからきっと本当に常識なんだろうな~・・・

「でもね、カタミ。」

ん、まだあるのか・・?

「そっちを狙えば、ダメージは大きいのよね・・・」
「話が矛盾してないか?ミナちゃん。」
「ううん、してない、むしろ話に合ってるの。」

お~っと、混乱しているせいか分からなくなってきている・・・

「なんで?」
「えっとね~・・」

両手を腰に当てて、満面の笑みで話し出すミナちゃん。
でも、威厳とかそう言うものの前に、可愛さが出てます。
それも、かなり微笑ましいレベルでの可愛さ。

・・・わかってるのか・・・?

「うん、魔魂を狙うのは無理って言うか・・すっごく効率が悪いの。」
「ああ、それは俺にも分かった。」
「ここで問題なのが、魔魂の役割。」
「・・・属性判別。」

いや、それ以外知らんし、分からん。

「それもあるけど~、大きいのが魔力の元っていうのかな、そんなの。」

・・・ちょっと待て、それってつまり・・・

「・・・なぁ、俺、ちょっと話が読めたんだけど。」
「え、な、何が・・?」
「それ、要はミナちゃんみたいな魔導師とか、そう言うクラスのヤツに
大ダメージってだけで・・・使わない俺は関係ないような・・・」
「あう~、それはそうなんだけど~・・・」

狼狽えるな。
地面にへたり込むと、やっぱり身体は小さいし
それに滅多に見ないが、細いな~・・色も白いし・・って、あれ?

「・・・なぁ、ミナちゃん。」
「なによ~?」

ふと気付いた。

「リュプスロさんは何処に行った?」
「さっき、穴の中に入ったじゃない・・・何で?」
「いや、だって穴の中って、あそこは魔術関連の穴だろ?」
「うん、【ゲート】とか【ゾーン】ていうの。」

・・案外普通なんだな、呼び方。
なんか、俺の元居た世界とあんまり変わらないじゃないか・・・

「だったら、なんかいろいろと複雑な通り方とかあるんじゃないか?」

絶対、こう言うのって仕掛けがあるんだよな~・・・

「ないよ?・・一本道だし。」
「はい?」
「どうせ、この村の人が通るだけなんだし、別に何にもないよ?」
「・・まだ通ってもないのに・・分かるんだ・・」

俺たちって、さっき穴をチラッとしか見てない気がしたんだけどな・・

「うん、さっき解析したの。」
(何時の間にやったんだろう・・・呪文とか唱えてたっけ・・?)

さも、それが当然のように「解析したの。」なんて云われても・・
そしたら、ミナちゃんがパンパンと手を叩いて

「さ、いこっか。」
「お、おー・・・」

とりあえずノっておいた。
ただ、それが気に入らなかったのか、襟首をつかまれて
穴の中に引きずられていったのは、とても忘れたい事項だと思う。

―――・・・ックキャッー!

入ろうとしたら、何か飛んできたけどな。
・・またかよ・・



   【來放~5~】

・・まぁ。

「アレだな。」
「アレって何よ?」
「さっきのアレはなかったことにしたいんだが・・」

勿論、アレ=さっきの奇声というのはミナちゃんも分かってる筈なんだが。
ていうか、分かって貰えてないと困るというかなんというか。
もし、ここで「え?なんの話?」とか言われたら
それはそれでなんだか寂しい気もする・・・気がするだけ。

で、当のミナちゃんは、さもなんでもないように

「あんなの気にしてたらキリがないんだってば・・・行くよ~。」

次々・・・っていうのも変だな。
何しろ、あ~・・ゲート、に入って行ってるだけなんだし。
なんでもないとは言うが、俺的に凄く気になる。

「なんかさ、ああ言うのって男のロマンに近い物があると思うんだ・・・」

ちなみに、声を出したけども誰も反応を返してくれなかったり。
しかも俺は誰に同意を求めたんだろう・・・
・・・ミナちゃん女の子じゃないか・・

ちなみにロマンって言うのは、RPGみたいに敵が出てきたら
武器とか魔法使って、何とかして倒すというシチュエーション。
・・・ただ、問題なのがこれが仮想じゃなくて現実だと言うこと。

洒落になんねえ・・・

「あ、そうそう!」
「おわあああああああああああ!!!」
「ヒャッァ!・・・な、何よ?!」
「いきなり出てくるなぁぁ!!!!ビクるだろうが!!」

ちょっと物思いに耽ってるときに突然声を掛けるのは
いろんな意味で反則行為だと思うんだが・・・
というか、穴から顔だけ出てるのがとってもシュール。
むしろ、シュールなんだが別の意味で怖い。

(可愛いだけの妖怪ってこんな感じなんだろうか・・・)

その光景を見ての第一の感想がこんなのだったり。
あれ・・・もしかして俺は行ってはいけない方向に・・?
だんだん感覚が麻痺しているような気も・・・

「え~・・っと、聞いてる?」
「ん、ああ、オッケー、なんだ?」

とりあえず、みんなが向こうに行ったみたいなので
おれも、移動を始めることに、というか・・・
まぁ、穴のある方に向かっているだけなんだけど。

まあ、その間ミナちゃんは気にせずに話すんだが。

例えば、さっきの声は、いわゆる日常茶飯事。
朝起きたら聞こえる鳥の囀りみたいな物、と言うことで理解してね☆
って、思いっきり笑顔で言い切られた。

・・・目覚めすっきりしないだろ・・・それ・・
爽やかというか朝からグロいタイム発動なのかよ・・・朝から重すぎるぜ・・・

で、極めつけに。

「ゲートの中で目を開けちゃダメだからね。」

・・・またか。

「なんでさ・・・俺、今まで魔法っぽい物全部見てないぞ・・」

今までは、何かにつけて「目を閉じろ」とか言われたから・・なぁ・・
てっきりそう言う物かな~、とかそろそろ思い始めてたりしてた。
(そう言えば一回見たような気もするが、曖昧すぎる・・・・)

「そろそろ、慣れてきたし・・・良いだろ?」

なんか、俺の中だと魔法とか、魔術とかそういうのは
結構危険な物・・・なんか放射能に近い感じ・・・ちょっと違うか?
ま、概ねそんな感じの物だと思ってた。

ミナちゃんはちょっと困ったような顔を浮かべて

「う~ん、まだカタミには止めといた方が良いというか何と言うか~・・
・・・とりあえず、詳しい話は後で~。」

俺は一体何時になったらその理由を聞くことが出来るんだろう。

「あのさ・・ちょっと聞きたいけど・・・その理由・・」
「うん、今、すっごく眠いの・・・ていうか面倒くさい~。」

結構歩き詰めだったからなぁ・・とか、ちょっと感傷に浸る。
のは、良いんだが・・・いや、浸ってるのは俺なんだけど。

詳しいことは、中で・・・・か。
もしかするともしかするかもしれないな・・・これ。

“クヮッキャー!”

・・・叫び声にエコーというか、重複音が聞こえてきた。
数増えてるし・・・音だけでもそんな感じだ。

「もう~、ほらほらボーッとしてないで早く早く!」
「ああ、はいはい、分かったから。」

ようやく、村(正直、町じゃないのが納得いかない。)に行ける訳か。
思えば、これでちゃんとミナちゃんから話を聞けるのか。
今までなんだか、勢いでここまで来ちゃったけど。
というか、そろそろそれに順応してきてそうな俺。

思ってたら、ミナちゃんから声を掛けられ

「こっちこっち~、えっとね~・・こうやってこうやって~」

なんか嬉しそうに、俺にレクチャーを。

・・・とても、可愛い所作付きで入り方を教えて貰いました。
内容としては・・要はプールの飛び込みと同じ・・・なんだけど。

やけに、あのインドのマハラジャっぽいウネウネとした動きがあったのが気になる。
飛び込んだ後はその体勢をキープ・・するだけで良いらしい。

「で、カタミは飛び込む前に私を投げ入れていってね。」
「・・自分で飛び込めないのか・・?」
「服が大きいから、ちょっと身動きがとりにくいの!!」

怒られた。
・・・うん、怒られたんだと思う。
しかし、とんでもない理由だなぁ・・とか思う前に

「じゃあ、なんで大きな服着てるんだ・・?」

最大の疑問。
少し前に、特に邪魔にならないとか言っていたような気もするが
やっぱ、普通に動く分には問題があるんじゃ・・・

「そっちの方がなんか、『魔導師』っぽくていいじゃない。」
「・・・ああ、そう。」
「あ、バカにしたでしょ!今絶対子供っぽいって思った!」
「してない、思ってない・・・ただ、妙にアレだから・・」

ひょいとミナちゃんを担ぎ上げる。

「ひゃあ!・・・ちょっと、ちゃんと話を、っていうかアレって何よ?!」
「それも後で詳しく言うから、とりあえず行くぞ~。」

グイッと、真上に掲げて少し反動を付けて穴(ゲート)に放り込む。

「ちょっとまだ心の準備って言うかえっもうなの?!いやああああああああぁぁぁ」

あああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・
へ~・・・これってやっぱり穴だから反響はするんだ・・・

とりあえず、ミナちゃんの断末魔(死んでない)が聞こえなくなったときに
俺もゲートに飛び込んだ。

何かに入る感触も無しだったので。
ほぼ自由落下。

「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

ひとまずは叫んでみた。
というか、叫ばないとやってられない。

・・・これ・・・着地って・・どうなるんだ・・・?

2009-02-18

『歪み行く中で・・・【流景】』


          『歪み行く中で・・・』

   【流景~1~】

さて。
ドコから話したほうがいいのだろうか・・・・この。

魔界のような状況を。



とりあえず、あの戦いのあと。
微妙にまどろみ掛けていたミナちゃんを背負い
自分の家まで案内させたところ・・・・

どこからどう見ても一階建てのプレハブ建築な訳で。

―鉄筋が、珍しいのだろうなぁ・・・きっと。

ちなみに言うと、周りはテントやコテージだ。
いったい何なんだ?この差は?・・・

そんなことを思っていても仕方ないし、とりあえず家の中に入ろうとして・・
後頭部に強烈な痛みがあった後・・・倒れたのか?

・・・どうも、そこからの記憶がない・・・何があったんだ?

最近、俺ってよく記憶があやふやになるなあ・・・歳か?・・・まさか。

そして、辺りを見渡せば、やけに豪華そうな装飾が煌びやかに。
しかし、それもどこか上品さが漂う訳でもなく・・・寧ろ幼稚さが感じられる。
その中で、何故かは知らないけどベッドに寝ている俺。

さっきから、気を抜けば目がチカチカするほど眩しい・・・
う~ん・・・決して趣味が悪いとかそう言うのではなくて・・・何だ?

いや、と言うかそこは問題ではなくて。
見た感じ・・・この部屋にはベッドが一つしかないように・・・思えるけども。

―昨日(今日?)の記憶があってれば一部屋分ぐらいの大きさの家だったはず・・・

ちょっと待て?・・・少し、再確認しようか。

俺は?―御諏村だ。
ここは?―地球らしいな・・・ミナちゃんの話だとそうらしいけど。
この部屋は?―ミナちゃんの家・・・なのか?
じゃあ、肝心要のミナちゃんは?―・・・どこだよ?

―探すか・・・

で。

探すとなると、やはり今寝ているベッドから降りなくてはいけない訳で。
そしたら、ベッドに手を置いたときに。
むぎゅっ・・・・なんて音がしたものだから。
やっぱり・・・とか思って、その手の先を見る訳ですよ。
視線の先にはミナちゃんがいた訳で。
ついでに言うと、俺の手はミナちゃんの・・・その、胸の、辺りに、ある訳でして・・・
さらに言うと、ミナちゃんの目がウルウルと潤んでいる訳でして。
そして、必死に泣くのを堪えた声で、一言。

「カタミ、言い残す事って・・・ないよね?」

本気で書いてマジと言うよりは、必死と書いてマジという方が
より的確な気がするほど、怖いんですけどミナちゃん・・・

「じゃあさ、一つだけ」
「な~に?」

・・・。
で・・・この状況を一人で打破するのですか?
雰囲気的に・・・どう言っても打破は不可能だと思うんだ・・・
せめて・・・言わせてくれ・・・

「せめてさ、下着ぐらい着けようよ・・・」
「・・・うん、分かった。・・・そんなに死にたいんだね♪」

―うっわ~・・・お約束だね☆

そんなことを、脳裏に浮かべながら・・・
吹っ飛んでいる俺がいたとさ・・・




「・・、・・・タミ、カタミ」

何だかアレだな・・・ついさっき、不可抗力で触ってしまったのだが・・・
妙に意識してしまって・・・って、ミナちゃん子供じゃないか・・・
なんで、意識する必要があるんだ?・・・別にいいじゃないか・・

「カタミ~、起きてよ~、さっきはゴメンってば~」
「あぁ~、起きてるから生きてるから、大丈夫」

でも、それを本人の目の前で言ったら殺されるだろうけど・・今度こそ本当に。

ていうか、俺、本当によく生きてるなぁ・・・
少なくとも、6種類ぐらいの攻撃魔法を喰らった気がするのに・・

で。

「ミナちゃん」
「ん、な~に~?」
「顔がさ・・・痛いんだけど、これはどうして?」
「・・・・それは・・・・あの、えっとね。」

なぜ、黙る?・・ていうか、何でうつむくかな・・・
何か、理由があるのか?・・・・

「なんかね、カタミがいつまで経っても起きないから・・・」
「から?」

・・・あ。
予想は付いたが。

「だからね、こう・・・」

そうして、黙ったまま、自分の胸の前で右手を横に振るミナちゃん。

「・・・で、顔が腫れるまで往復ビンタを喰らわせたと。」
「うっ・・・うん、まぁ、そういうこと・・なんだけど・・」
「・・・暴力的・・・で、合ってるのかな。」
「違うもん、それは違うよ、カタミ。」

何をそんなに否定するのか分からないけど・・・

「え~っと・・・何が違うんだ?」
「だって・・・だって私お嬢様なんだよ!?・・レディなんだよ!?」
「あ~・・はいはい、分かったからって・・」

お嬢様って言われてもねぇ・・・って、お嬢様?

やけに煌びやかな装飾の家。
村人達から「あそこの娘はねぇ・・・」と、言われていたし・・
周りとは段違いに耐久度が違う家。

・・・あと、私服が妙にフリフリな点か。


「ていうか、マジでお嬢様?」
「うん、そうだけど・・・信じてなかったの?」
「ああ、全く、これっぽっちも。」

当たり前だ。

「ふぅ~ん・・・まっ、別に良いんだけどね。」
「何が良いんだか・・・で、ここってミナちゃん家?」

さっきから気になってた事を訊いてみる。

「ん、そうだよ~。」
「そ、そっか・・・」
「でもね~・・・」
「な、何だ・・・・・何があるんだよ・・」

そこはかとなく嫌な予感がするのは何故だろう・・・・
ああ、変なことを言いませんように・・・

「あと30分で、この村を出なくちゃいけないんだよね~♪」

その言葉は。
俺の中にあった希望という名の灯を消すのには充分すぎる程。

冷たく、容赦ない言葉でした。

「マジデ?」
「うん、マジで。ちなみに変更とかないから。」
「ドッキリとかそんなんでもなく?」
「こんなタチの悪いドッキリなんかする訳無いでしょ。」

ちなみに、本当にマジらしい・・・



   【流景~2~】

さ・・30分?

「ちなみにさ、ここから出るのにかかる時間は?」
「あ~、それはね、20分。」

いや、それはつまり休む暇もなく今から急がないといけないのでは・・・
一応、それでも余裕を持ってとか、ハプニングに備えてとか。
つうか、さっきから走りっぱなしだったから・・・って。

「そういやさっきから気になってたんだけどさ・・」
「何?」
「なんか、妙に疲れづらくなってんだけど・・・これってなんかの影響か?」
「それ・・・カタミのクラスの特性だと思うよ?」
「はぁ?・・・いや、まてよ。」

特性ってことはそれ特有ってことだから・・
狩人、狩人・・・そうか、英語だとハンターか。
そりゃ、獲物捕るときに「疲れたから、ヤメ」なんて言わないもんなぁ・・・

「あぁ、そう言うことか。」
「それでね・・・あのね、カタミ。」
「何だ?」

ちょっと・・・何でそんな複雑な顔してるんですか?

「そんなことはね、また後で教えてあげられるんだけどね。」
「まぁ、今理解したけど・・・それがどうした?」

さっきたっぷり考えたことを「そんなこと」で片づけられたのは・・・まぁいいか。
それで、一体何が言いたいのだろう。

「分かってもらえたのは嬉しいんだよ。・・・でもね、時間のこと、忘れてな~い?」
「時間・・・あ。」

忘れてた。

「なにが「あ。」なのよ!、すっかり忘れてるじゃない!」
「ゴメンゴメン・・って謝ってるから、叩くな叩くな足を叩くな痛いから!」
「ふーんだ、先に行っちゃうもんねぇ」
「ちょ、ちょっと待てって!」

いつの間にか背中に持っていた大きめの杖っていうか、長い杖に跨って
宙に浮かんで・・・って。

(・・・でも、そんなに高く飛べないんだぁ・・・)

見間違いじゃなけりゃあどう見ても2メートルぐらいしか浮いていない気がする。
でも、いくら高さは低くてもやっぱそこは魔法なのか魔術なのか分からないが
普通に速いし。でも、高度は低いけど。
それも、しつこくこっちを向いてアッカンベーしてくるし。

だけどやっぱり、高度は低いけど。

そもそも、俺が追いつくので精一杯だし・・・しかも全力疾走で。
本当に狩人で良かったと思う・・・つくづくそう思う。

でも、走るのに精一杯で今喋ると・・・後が疲れるだけか・・

走っている内に、視界の中に町並みがだんだんと無くなっていって
東西南北が分からないような荒野の中をひた走っている俺。

その先の方を、まだ怒っているみたいだけど
さっきよりはスピードはゆっくりになったミナちゃんが飛んでいる。

「カタミ、反省した?」
「な!?・・ああ、反省したから!、そろそろゆっくり行かないか!」

必死に声を出すけど、これはマジでヤバイかも・・・息切れで。
これで許してくれなかったら、本気で死ぬかも知れない。

「は~い、許してあげるから・・・わかった。」

よかった。許してもらえた~。
いや~、実はかなり優しい子だと思い直す。

さっきまで、あり得ないほど俺が原因でハプニング起きたのにね。

さて。
確かにさっきまでは俺の前の方を飛んでいたはずなのに・・・
少しずつ、減速をしていったのは覚えてる・・・けど。
ふと気づけば一瞬のうちに俺の横に来ているミナちゃんって一体・・・

―そういや、魔導師じゃん。

あー、こういう時に限って俺の頭がついて行ってない・・・
分かっているはずなのに・・・

でも、これで説明がつくってのも何だかなぁ・・・

その状態でひたすら歩く。
さっきの件で「走らなくても良いよ?」なんて言われたので歩く。

でも実は早歩きだったりする。

そのまま、歩いていると。
なにか・・・青い玉が飛んでいった気が・・

「どうしたの?カタミ?」
「いや、なんでもないけどさ・・・ん?」

まただ。
左っかわ・・・左の方に今なんか変な物が見えた気が・・・

「ん?、何か見つけたの?」
「なんかさ、左の方に何だか異様にでかい建物が見えた気がしたんだけど・・・」
「ふ~ん・・・何色だった~」
「なんか深い青色みたいな・・・紺色って言うのかな・・」
「へ?・・・え!?カタミ!それどっち!?」
「いや、だからさ、左の方だって。」

何を焦ってるんだろうか、このミナちゃん。
ていうか、焦りようがハンパじゃないけど。

「私たちが行くのそこなんだって!」
「なんでさ!?」
「そこに行かないことには何も出来ないんだってば~」
「そうじゃなくて!そこってなんなの?」

焦りまくってる・・・まるで非常時の猫型ロボットみたいで面白いけど。

「転移媒体選択型送還装置」
「・・・。」

長いし。訳が分からないし。
ていうか、一回も噛んでないし・・・すげえ。
でも、あえて言うなら。

まず、何を言ってるのかが分からなかったんだけど。

「あれ?わかんなかった?」
「ああ、全然、さっぱりだ。」

当たり前だ。
そもそも漢字が出てこねえ・・・

「分かりやすく言うと~・・・」
「言うと?」
「『愛称:ワープで試練ちゃん』って言うの・・・」
「・・・頭痛くなってきた・・・」
「ゴメンね、カタミ・・・私も初めて聞いたときそう思ったから・・」
「それ、誰に聞いたんだ?」
「ダグ」

俺の中のおじさまのイメージが崩れ去った。



   【流景~3~】

・・いや、そんなに打ちひしがれている場合じゃないみたいだ。
ミナちゃんが、本気で焦っているように見える。

「それでさ。」
「なによ?」
「そんなに急ぐのならさ・・・」
「むしろさっさと向こうに向かった方が良いと思うんだけど?」

正論だ・・・
まごう事なき正論だ・・

そんな事を言いながらも、ミナは杖に跨り既に宙に浮いている。

「それもそうだと思う・・けど、ミナちゃんって魔導師だろ?」
「・・今さらそう言う事聞いてどうなるの?」
「だからさ~・・あの、ワープとか・・出来ないのか?」
「へ?」

目が点になってる・・下顎に手を当ててむぅ~っと考え込んだ後。
ちなみに、俺がそう見えただけで、そんなに時間は経ってない気がするけど。

「カタミの言う”ワープ”って、空間転移の事?」
「まぁ、よくは知らないけど、そんな感じじゃないのか。」

はぁ~・・と、顔を下に向け、ため息をつくミナちゃん。
そして、ミナちゃんが顔を上げたとき。

その顔は満面の笑顔だった・・・
ていうか・・瞳が輝いてます・・ちょっと怖いです。
それと、このときも杖に跨っているので、向くのは顔だけだったりする。

「なんかね、カタミって時々賢いよね~」

・・・時々って言うのが多少引っかかるけど。

「まぁ、いいやっ、カタミのおかげで早く着けそうだし。」
「で、その・・空間転移、ってヤツ、やらないのか?」
「うん、じゃあ今からやるから、ちょっと目を瞑ってて。」

言われたとおりに、目を瞑る。
ストッという軽い音―杖から降りたのかな・・―がした後。
カリカリという音が4秒ほど鳴った。

「行くよ~」

目を瞑っていても、瞼の奥から光が通ってきている。
これ、ミナちゃんは眩しくないのかな?
俺でも眩しく感じているし・・・どうなんだろう・・?

『術式・始動』

いつもより、かなり集中しているのが分かるほど
今のミナちゃんの声は、何か違っていた。
俺が喩えても分かりづらいだろうけど、何というか・・・
いつもの声がラの音なら、今の声はソみたいな音。

【標を求めて旅人は彷徨う】

・・足下には確か地面があったように感じていたが
今は、どこかフワフワしたように浮いているように感じる。

【界は境を闇に引き、雫落つるは凝となし】

きっと、さっきのカリカリという音は。
俺たち二人を囲む、魔法陣を書いていたのだろう・・
その証拠に、俺の足下が輝き煌めいているのが分かる。

【それを求むは、愚を極めし安逸の預言者】

ふと、聴覚を残し、全ての感覚が消える・・!
一際、大きく響いたミナちゃんの声が、俺が存在している事を証明した。

「導くは、戴天を支えつる使者なり!」

・・・。

風が吹く。
いつの間にか、俺が居たのは見慣れない建物の前。
これが例の・・・あの・・ああもういいや!
思い出せない・・・むしろ思い出さなくてもいい気がする。

「は~い、到着~・・・よかった成功して。」
「ミナちゃん、今、何かさりげなく怖い事言わなかった?」
「うふぅん!?」

声が裏返ってるって・・・図星、かな?

「ねぇ・・ミナちゃん、もしかしてだけど・・」
「いや・・あは、あはは・・」

人間あれだな。
本当に切羽詰まったら笑いも乾くんだな。
むしろ、俺はこの世界に来ているという時点で切羽詰まってるようなものだけど。

「転移呪文ってね、すっごく難易度が高いの。
一度、神界に自分たちを引き上げさせて~
その人達に移動における因果の改変を頼まないといけないの。
これがすっごく難しくてねぇ・・・たった1センチの距離でも
下手したら死んじゃう事もあるからね~・・これって。」

・・・とりあえず、因果とかよく分からないけど・・

「要するに激ムズってこと?」
「うん、もの凄く省略されてるのはどうかと思うけど、そんな感じかな。」
「へぇ~・・・そういえばさ。」
「どうしたの?」
「こうやって話してるとさ、いろいろと聞きたい事が増えるんだ。」
「それって、カタミがこの世界の人じゃないから、疑問点があるのは普通じゃない。」

・・・ああ、わかってたんだ・・
多分こんな反応が返ってくるんだろうなぁって・・

「ミナちゃん。」
「カタミだったら、別にちゃん付けで呼ばなくても良いよ~」
「あ、そう?・・・じゃあミナ。」
「なぁに~?」
「俺たちは一体何をしに来たんだっけ?」
「何って・・・そりゃあ・・。」
「ミナが13歳になったら、試練の年で・・・」
「キャーキャーキャー!!言わないで、そこから先は言わないで!」

そう、気づいて欲しかった。
今、俺たちが居るのは、なんか・・・ミナが目指していた場所。
・・何だか納得いかないけど、ワープ君と呼ぶ事にしよう。

そこの、真ん前。
目と鼻の先には目的地。
・・・そして、なぜか入らなかった俺たち。

「カタミのイジワル。」

・・泣き顔見てると―泣いてない、泣きかけ―・・
何かこう、微妙にそそられるのは何故?

「て言うかね、カタミ、ここに入れると思う?」

指を指して、ワープ君を示す。
そこには、かつて正しく操業していたであろうワープ君の。

怪物達に、占拠されかかっている、傷ついた、建造物の姿だった。



   【流景~4~】

「で、これどうすんの?」

一応、聞いてみた。
まぁ、ミナの事だから「戦う~」とか「何とかする~」とか
そう言う事しか言わないだろうなぁ・・・とか予想はしてみる。

「あのね、カタミ。」
「何?」
「さすがにね、戦闘に慣れてないカタミを連れてね・・・
ざっと見た感じ30を超えるような中級悪魔に勝てる訳無いじゃない。」

・・・あれ?
今さりげに俺足手まとい扱いにならなかったか・・?

「てか、中級悪魔なんだ・・・アレ。」
「うん。」
「何で分かるの?」
「悪魔って言うのは大まかな区分けなの。
その悪魔自体に階級分けがされてて、全部で6つあるの。」
「6つ?・・・中級があるなら下級、上級があって3つじゃないのか?」

何かこういう講釈を聞いてると
本当に俺ってファンタジーの世界にいるんだな~って気がする。
まぁ、実際にいる訳なんだけど・・・なんかなぁ・・

「カタミが言った3つが原則的な分け方、で、6つがその中での役割。
普通は、6つの方をよく使うよ。」
「で、目の前のアレはいったい何なんだ?」
「第三位のクトニアって言う種族の悪魔。
モンスターの名前なんか覚えてられないからみんなこっちで言うよ。」

・・・もしかして・・・
この世界の人って・・・もの凄く大雑把なのか・・?

「なるほど・・説明ありがとう・・・・で。」
「うんうん、で、何?」
「どうやって中に入るんだ?」
「・・・むぅ~・・出来れば忘れて欲しかったのに~」

両手を振り上げてポコポコと殴ってくるミナ。
感覚的には叩いてると同義だけど、何だか必死だから・・・
ていうか、「ムッキャ~」とか言いながら叩かれても可愛いだけなんですが・・・
・・・計算なのか・・いや、あり得ないなw

ピタッと、手が止まる。

「そうだ!」
「なに?」
「前みたいにカタミが私の援護をしてくれたら良いんだ。」
「前って・・・フロッガーの時みたいに?」
「そう、と言う事でそうと決まったられっつごー!」

何で楽しそうなんだ・・ミナ。
そしたら急に振り向いて。

「カタミ、前に渡したペンダント着けてる?」
「え?・・ああ、ちゃんと首に付けてるけど・・」

服の中からペンダントを取り出す。

「おっけ~、そいじゃあ行くよ~」
「了解。」

【勇傑・進軍】

何かの呪文だったらしい・・・
体が軽くなった。

「カタミ。」
「何?」
「とりあえず、最上階の転送装置を目指して!」
「分かった。」
「あと、呪文に当たらないように・・って言うか、今回は魔法かな?」
「分かった、なるたけ当てないようにしてくれ。」

ミナの周りに、紅い弾が回り始める。

【炎弾・装填・回転機銃・掃射】

じょじょに、大きくなる炎弾に気づいたクトニアが此方に向かってくる。
それに対し、ミナは容赦なく、炎弾をぶつけ始めた。

さながら、ガトリングのように。
クトニアに中らなかった炎弾は建物に中ることなく。
全て、地面に当たり、地表を抉っていく。
その間を縫うように、俺は走る。
目指すはワープ君。・・・緊張感がぁ・・・

両手にハチェットを、握りしめながら。
建物の中に入る・・階段は・・どこだ?

(カタミ?)

俺・・やっぱ疲れてんのかな・・幻聴か・・
下手したら、ここで死ぬのかもしれんねw

(カタミ、テレパシーって言葉・・・知ってるよね?)
「ああ・・・もしかして・・これか?」
(アッタリ~・・・それでね。)
「なに、俺は今必死に階段を探そうとしてるんだけど?」
(・・・カタミ、あのね・・・よく聞いて。)

ちなみに、こうやって会話(念話?)している間も、
外ではずっと爆発音が鳴り響いてたりする。

(そこにはね・・・階段はないの・・あるのは転送板だよ・・)

かるちゃーしょっく。
いやいや、動揺しすぎてひらがなになっちまった・・

「転送板ってどんなのさ?」
「青い正方形の板を探して貰えたら・・・いいんだけど・・」

・・・。

「ミナ。」
(なに~?)
「それってさ。」
(うん。)
「乗ったらどうなるの?」
(光が出て~、板が回転して~、いつの間にか目的地って・・)

そうか・・・

「ところでさ、ミナ。」
(何よ~)
「今な、俺足下がやけに明るいんだ。」
(・・へ?)
「それでな、さっきからだんだんとな、足下の床がぐるぐる回ってるんだ。」
(ねぇ・・それって・・)
「で、ついさっきなんだけど、やけに大きい青い玉がある部屋にいるんだけど。」
(ちゃっかり転送板には乗ってる訳ね・・)

さて、どうしよう・・・
今居る部屋は、かなりの確率で密室だと思う。
何せ光源がその青い玉だからなぁ・・・

(カタミ?)
「どうした?」

直感的に不味い。

(どうしよう・・・囲まれちゃった・・・)
「それ・・俺にどうしろと・・・」



   【流景~5~】

「なぁ・・ミナ。」
(何よぉ~)
「囲まれたって言ってもさ・・俺にどうしろと言うんだ・・」

そもそも俺に言う必要性が分からない・・・
むしろミナなら魔法やら魔術やらでなんとかできるんじゃないか?

「もしかして・・今からそこに行けって言うんじゃ・・」
(まさか。)

恐怖していた選択肢が一つ消えた。
よかった。
しかし、懸念は残る。

「じゃあ、どうしろと?」
(あのね~・・呪文を唱えて欲しいの。)

知らない言葉だ。

「ちょっと、待て。」
(なによ、勝負は一刻を争うのよ?)
「なんでそう言う言葉を知っているかが果てしなく疑問だがとりあえず訊いて良いかな?」
(うん、な~に?)

・・ちょっと怖かったが気のせいだろう・・うん、きっと。

「なんで俺が?」
(カタミってなんでペンダントしてるか覚えてる?)
「・・・いや。」

むしろ聞いた事なんて無いんだが。

「ていうか、聞いた事無いんだけど・・・」
(だって、言ってないもん)
「それじゃあ、なんで聞くのさ」
(ん~っとね、そろそろカタミ自身で気づくかな~って。)

無茶を言う。

「・・・それ本気で思ってた?」
(その話は後、とりあえず、呪文教えるから。)

気になる。
しかしどう考えても、本気で思われてはいないとは思う。
何か雰囲気的に・・・

というか、切羽詰まってるときに何やってんだろ?

(一回しか言わないから・・・って言うか一回しか言えないから。)

それだけピンチなんだろう。
ところで、声の調子が全く変わらないのは俺の錯覚かな。
こっちからは見えないから全く分からん。

「はいはい、んじゃ、ど~ぞ。」
(【結び留るは点と点、引き寄せるは虚の間】)
「むすびとめるはてんとてん、ひきよせるはきょのはざま。」
(カタミ下手くそ~・・・でもいっか、上手くいったみたい。)
「へ、なにがって・・・え。」

いつの間にか、ミナが目の前にいた。
はて・・・いやいや・・でも。

「何驚いてるの?」
「いや・・・本当に瞬間移動って出来るんだな~って。」
「瞬間移動じゃないよ?」
「どういうことさ?」

いつの間にか現れてて、それが瞬間移動じゃなくてなんだというのか?
何かココにいるといろんな物が出来そうで怖い。

「今のは、私が動いたんじゃなくて、呼応したの。」
「呼応?」
「ま、詳しい事は、また今度言うから・・ほら、カタミ、こっちこっち。」

ミナに手を引かれて、さっきから目の前にあった球体の前まで来た。
正直、かなりデカい。
どれくらいだろ?・・・たぶん2メートルくらいあるんだろうか?

「はいはい、カタミ、またまただけど、眼を閉じてね~」
「ずっと、思ってたんだけどさ。」
「何?」
「なんで俺は毎回、眼を閉じてるんだ?」

顔を逸らすミナ。
あれ・・何か理由でもあるのか?

「えっと・・・それも今度話す。」
「・・・やっぱ、何かあるのか?」
「いいの!・・・ほら、早く眼を閉じてって。」

必死だ。
両手をぶんぶん振ってるから、もう・・・手はグーだった。
・・・とりあえず、また今度聞いてみよう。

別に、うっすらと目を開けてても良いんだけど・・・
それはなんか別の意味で怖いので止めておく。
ちゃんと理由を聞いてからにしよう。うん。

「閉じた?」
「はいはい、ちゃんと閉じてますよ~」
「オッケー・・・それじゃあ、そのままこっちに来てね~」

手を繋がれた。
小さくて暖かくて・・いや、何を考えてる、俺。
そのまま引っ張られる方向に歩みを進める。

ボミュウン

何か変な音がした。
いや、シャレでもなんでもなくボミュウンって。
でも、なんか変な感じ・・・水の中?
変にこう・・・まとわりつく感じ・・・うん。
手の感触はまだ、さっきと変わらないからミナが居る事は分かる。

「カタミ。」
「何。」
「・・・あのね。」

なんだか、目が開けられないからよく分からんが・・・
こう言うときは何か、変な事を言うときだと、俺は学習した。

「急に体が重くなったら・・・」
「たら?」
「すぐに・・・その・・・抱きかかえて・・」
「えっと・・今なんて?」

なんか・・声が聞き取れないくらいに小さくなって・・

「・・・だから・・その。」
「なんだ?」
「・・・抱きかかえて!って・・」
「なんで?」

ていうか、この後、何があるんだ?

「・・・落ちちゃうの。」
「は?」
「世界が変わって・・・試練場に出るんだけど・・・」
「ああ・・・それで?」
「転送装置を使ってもね、場所は不特定なの。」
「もしかして・・・」
「うん・・たぶん、カタミが思ってるとおりで良いと思う。」

要するに。
さっきまで俺らがいた世界とは違う世界に
俺らは転送装置を使って、来ている。
しかし、その転送装置を使っても、明確な場所は特定は出来ない。
一応、ミナが言うには「人がいける場所」らしい・・
ちなみに、今回の場合。

ミナの直感的に、出るのは「空」らしいので。

「俺に受け身を取って欲しいと。」
「うん・・・お願いね。」
「そう言われても・・・って、今ふわって体が浮いてぇぇぇぇぇぇx!!!」

落ちた。

2009-02-18

『歪み行く中で・・・【動揺】』

          『歪み行く中で・・・』

   【動揺~1~】

目が覚めれば、空は暗雲が立ちこめていた。

―あれ?下が地面で毛布被って寝てるって・・何してたんだ? 俺。

って。
そういえば、昨日(?)の儀式の後、猛烈な眠気に襲われて
ついつい、眠ってしまったんだっけ・・・

で。
多分この毛布を掛けてくれたのは・・・

「あ!やっと起きたんだ~、おはよ~」

この子、ミナちゃんだろう。

「もう・・・幾ら昨日ので疲れたからって寝過ぎ~」

また拗ねてる・・・ちょっと可愛い・・

そういえば、昨日は少し動転していたから分からなかったが・・・
澄み渡った空より少し薄めの色で彩られた、腰まで届く程の長髪。
また、心の先まで見透かされそうな翠緑色の双眸。
そして、丈が少し大きめなのだろう・・・足が見えないし。
ブカブカ気味の濃紫色の踝まで届くローブを着ている。

「だよ~・・・って、ちゃんと聞いてるの~?」
「ごめん、ちょっともう一回お願いできる?」
「仕方ないなぁ・・・一回だけだよ?」

とてもじゃないが、みとれてた・・なんて言える訳がない・・・
というか、改めて見ると結構美少女でした・・なんてこった・・

「なんかね~、私と一緒に冒険しなさいって
村の長老が言ってたんだよ~」
「へ???」

―今、何と?

「だから~、私と冒険しよっ・・ってこと。
正しく言うと、旅に出ようってこと何だけど・・」
「いや・・・だから、何でまたいきなり冒険なのか俺は聞きたい。」

誓っても良いが。
十人中十人が聞くと思われる、最もベターな質問のはずだ。
いきなり、見知らぬ所に来て「冒険しよ」なんて言われても
まずはその理由を聞くだろ・・・もちろんのこと。

「カタミが私のパートナーだから。」
「ちょっと待って、いつ決めたのそれ?」
「今日。」
「早っ・・て言うか、俺に拒否権は?」
「そもそも、魔師に推薦されて断る人の方がよっぽど失礼だと思うな~
・・・って、そうそう、魔師って魔法使う人の総称ね」
「ってことは・・・俺ってすごい名誉なんじゃぁ?」

一応聞いておく。
そんな話があるくらいだから、そう言うことではないのかと。

「名誉って言うよりは、幸運って感じかな?」
「幸運なの?」
「うん、力押しだけじゃ出来ないこともあるからねぇ~」
「つまりさ、バランスが良くなるからラッキーって事?」
「まぁ・・そうなるかな~」

なんか、そう言うことらしい・・・
納得できるような、出来ないような・・・

「それとね~、あともう一つ理由があって・・」
「?まだあるのか・・」
「今年、私が試練の年だから~」

―厄日みたいなものだろうか・・語感的に。

「それで、ミナちゃんって、今何歳なんだ?」
「13・・・明日で」
「と言うことは、出立の日は・・・」
「うん、明日だから。 準備頑張ってねぇ~♪」

そのまま、笑顔で走り去っていくミナちゃん。
心底、嬉しそうだ・・・俺を弄くったからか?

ていうか。

マジっすか。
冗談きついっすよ、ミナちゃん。

どうも・・・村で過ごせる平和な時間は今日限りのようです・・
とりあえず・・・何か、食べに行くか。



   【動揺~2~】

いや、何というかなぁ・・腹が減ったのは減ったんだが・・・
何で俺はこんなに落ち着いてるんだろうか?
・・・今さらこんな事思っても仕方ないような・・そんな気が。
ていうか、こうなったらなったで観念した方が良いのか・・・?
でも・・一縷の希望だけは持っておこうか・・

モトノセカイニカエレレバイイノニ。

「どうした?坊主」

もの凄くワイルドで筋肉質の30過ぎのおじさんだ。
なんだか、やけにこの村の人って友好的だなぁ・・・
俺のいた「元の世界」とは比べものにならないほどに。

「いやあ・・飯でも食おうかなっと思って・・」
「メシィ?・・・まだ食ってなかったのか?
・・って、坊主は見ない顔だな・・・どこのドイツだ?」
「え~っと・・御諏村 確実って言います・・なんだか
突然ここに飛ばされて・・・ミナちゃんに助けて貰ったんですけど。」
「確実?・・ああ、あのお嬢ちゃんのお付きの人かい・・
そいつを先に言って欲しかったな・・」

俺って、有名みたい・・・
でも、なんだかあまり良い意味では伝わってないようだが・・

「飯だったら・・ほれ、そこの角の突き当たりに食える場所があるからそこに行け。」
「あ、ありがとうございます。」

軽く礼をして、教えられた方へと向かう。
突き当たりを・・・曲がるんだったな・・
曲がると、そこには。

ちょっとした豪邸がある訳でして。

えぇ~・・っと。
おじさん、レストランとかファミレスではないのですか?
そうだとしても。

今、俺は金を持っていないのに、どうやって注文する気だったんだろうか?
素晴らしく謎なんだが・・・

「あれぇ~? 何してるの、カタミ?」
「へ!? 何でミナちゃんがこんな所に・・」
「だって・・私の家だもん・・ここ。」

どうやら。
驚きの種は絶えないようだ・・・
で、俺は飯をどうしたら良いんだ???

「え、ご飯?・・食べてったらどう?」
「マジで?・・ありがとう・・」

自分より年下の少女に食べさせて貰ってると言う・・・
ものすごく情けない場面だが・・・この際、仕方がないと思う・・
問題は、そんなことではなくて・・

「で、俺って明日までに具体的に何をしたら良いんだ?」
「ん?~・・・自分の武器ぐらい買って貰えば良いけど・・・」
「それってさぁ・・やっぱり相性がある訳?」
「うん、結構大雑把だけど、あることにはあるよ。」

詳しく言うと、大体5種類ぐらいある内から選べるらしい・・・
どれを選ぶかは完全に自分のセンスが問われる・・・

いらないシビアさだな、これ。

「まぁ、カタミってば、狩人だから・・弓とかハチェットとか?」
「やっぱり、狩り関連か・・で、ハチェットって何?」
「ハチェット?・・ハチェットは手斧のことだよ。」

スゲー、マジで狩人っぽいな・・・・
いや、実際に俺自身が狩人なんだけどさ・・・

「それってさ、どこで買えるの?」
「別に買わなくても良いよ~、家から持って行くし。」
「はぁ・・・さいですか・・」
「だから、あとで私の部屋に来てね~」
「ブボォァアアッ」

驚きのあまり、食事のあとの紅茶を吹き出してしまった・・・
初めてそんなコトしたけど、案外、綺麗に吹き飛ばないんだなぁ~と。

「あはは、冗談だよ~気にしないで・・私の家ね」
「そう・・だよな、あ~びっくりした。」

さっきのはシャレになりません・・・・・
ちょっと本気で犯罪者になるのかと思った・・・

ということで。
実はお嬢様だった(のはず)ミナちゃんの家に行くことになった。



   【動揺~3~】

しっかし、変な話だよな~・・・
さっきメシを食わせて貰ったところって・・
ミナちゃんの家・・なんだよな・・でもさっき、家に来て欲しいって言ってたし。
・・どういう事だ?

そもそも、だ。
何故、他の家はテント・コテージとかアウトドア系が多いのに
ここだけはちゃんとした様式の家なんだ?
・・・まさか・・本当にお嬢様なのか?

とりあえず、メシを食わせて貰ったあと外に出て

「1時間ぐらい・・時間つぶしてきてね~
あとで、カルムマラス広場の噴水前で待ってて~」
「分かったけどさ~・・それどこにあるのさ?」
「適当に他の人に聞いたらいいんじゃないの~?・・・それじゃあね~」

・・笑顔で走り去ってしまった・・似合うな~、笑顔が。
というか、俺が聞くのか・・教えてくれても良いだろう・・
あっ・・聞くの忘れてた・・・「ここって家じゃないの?」って
・・ま、いっか。 次逢ったときに聞けばいいし。

まぁ、さしてやることもないのでブラブラと歩いていると。

『ゼウィ・バルクス中央商店街』

という、看板が立っていた。
・・・が。

「・・・でも、テントしか立っていないんだな・・・」

すこし・・違和感を感じるけど・・何だ?
―そうか、入り口が少し大きめに改造されいるのか・・・

きっと、商品を置くために拡げているのだろう。
・・でも、おいている商品が普通じゃ見れないな・・・

ある一角では。
剣、斧、槍、長刀、鎌(持ち手が長い)、短剣、吹き矢(!?)・・・とか・・
今の日本じゃあ、銃刀法違反で即逮捕なんだろうなぁ~・・・
またある一角では。
甲冑(初めて見た)、兜、籠手、脛当て、ナックルガード、鎧、軽鎧・・・
・・・一瞬、本気で甲冑が欲しくなったのは秘密だ。

「おじさん、その甲冑、いくら?」
「38000デルトだよっ、なんだいお兄さん、買うのかい?」
「いや、結構です。」
「そうかい、またきてくれよっ!」

もの凄い元気だなぁ・・・何か嬉しそうだけど。
―・・・まさか!
ふと、辺りを見回す・・・が。

その場所には、俺以外買い物客がいないように見えました。

・・そりゃあ、嬉しいわな・・
いったい、どれくらいの間、人が来ていないのかを聞くのは憚られた・・
って、おっと。

「カルムマラス広場って、どこにあるんですか?」
「?・・ここをまっすぐ行って、そこの3番目の赤いテントを右に曲がればあるぞ。」
「ありがとうございます・・それでは。」
「何をするのかは知らないけどよっ、気ぃ付けろよ!」

快く教えてくれた・・・マジでいい人だらけだな、この街。
・・街って言うか、集落のような気がしないでもない(テントしか無いし)
とりあえず、教えられたとおりに道を進む。

「・・えっと。赤いテントを右に曲がるっ・・・と。」

右に曲がれば。・・・そこには。

虹が広がっていた・・・



   【動揺~4~】

「うっわ~・・・すげぇ・・・」

まさにそれは感嘆の言葉しか出ないような景色。
空がずっと曇っているはずなのに、何故か虹があるという疑問も同時に浮かぶ

「はー・・・でも、変わってるなぁ・・・
まさか、噴水がでっけえ穴の中に作られてて、
綺麗な景色だけが見られようになってるとは・・・
まぁ、いいや、ここで待っとくか。」

とりあえず、ぼ~っと立ちつくす俺。
・・・いくらか過ぎた頃に、ふと思う。

―それにしても、ミナの来る時間が遅すぎやしないか?

結構、自分では時間をつぶしたとは思っていたし
それに、あのミナちゃんのことだ。
きっと、集合時間の10分前ぐらいに来ていると思ったのだけど・・

―まだ、来ない。

・・・ていうか、なんでこんなに俺は焦っているんだろうか・・
気長に待っていれば、どうせ来るだろうし。

「なんだかなぁ~・・・」

何にしろ、ミナちゃんが来るまでは何も出来ないしなぁ~・・・

(!?)

今・・・一瞬だったけど。
ミナちゃんの声が聞こえたような気が・・・したんだけど・・
やっぱ、「こちら側」に来てすぐだから、まだ疲れてい・・・

―る、訳でもないみたいだ。

確かに聞いた、今度は確実に。

(村の出口に来てっ! 今すぐ! はやくっ!!)

何度、思い返してみても明らかに切羽詰まっている。
多分・・・SOSなのだろう・・・

と、思いながらも、全力疾走している自分がいる訳で。
なんだかいつもより体力の消耗が抑えられている気がしないでもない。
まぁ、それも好都合って言えば好都合か。

道を曲がる、曲がる、曲がる、時に進み、引き返す。

(俺ってこの街のこと知らないはずなんだけどなぁ~・・・)

どうも、身体が覚えている・・・ような、そんな感じだ。
そして・・・5分ほど走り抜けたとき、出口の門が見えた。

そこには。

(え~っと・・俺は無信仰だけど神様、これは夢にしてください
・・・マジで切実、こればっかりはちょっと無理っす!)

【人為らざる者】によって、虐げられている、ミナの姿。

「ミナちゃん!」
「!? カタミ! 遅いよ!」
「無茶言うな! これでも全力疾走だぞ!」
「嘘っ!?でもちょっと遅すぎって・・ウゥゥ」

相手は・・・何をどこから見ても、どう友好的に善意的に見ても
話せそうな相手でもない・・とりあえず、離れて貰うしかないけど・・

―どうやって?

(考えるより先に当たった方が得策か?)

一気に走り寄り、相手の身体に体当たりをかます。
瞬間、グラッとよろめいた・・
その隙にミナちゃんを抱きかかえ、猛ダッシュで引き返す・・が。

「ちょっと、ちょっと、さすがにこれは恥ずかしいってば~」
「そうか?・・今喋ると舌噛むぞ。」

抱きかかえ・・・と言っても、普通に抱え込んでる訳ではない。
まぁ・・人ひとり抱える訳だから、自然と持ちやすい抱え方になる訳で
だから、それがたとえ「お姫様だっこ」になっても、
俺には不可抗力な訳でして・・わざとではないです、はい・・・

「もうこの辺でいいから降ろしてってば~」
「え?・・ああ、はいはい。」

トンっと軽く足音を立てて地面に立つミナちゃん
そのあと、少しチョコチョコと歩き回ったあと。

「はい、カタミ、これ。」
「ん?・・・これって・・・」
「あげるって言ってたでしょ」
「そういやそうだったなぁ・・・」

貰ったのは。
・ハチェット(手斧、ハルモニクス製)
・弓矢(ガーブの木を使用)
・サバイバルベスト
(ハードレザー、胸にポケットが二つずつ、内側にも収納可能)
・ペンダント

「このペンダントは?」
「ん~っとね、簡易呪文誘導媒体って言うんだって」
「簡易呪文・・・っで、何なのそれ?」
「なんかね、呪文詠唱自体がね、一編の詩で出来てるのは知ってる?」
「ああ、なんか前の儀式でミナちゃんが言ってたアレ?」
「そっ、でも・・詳しくはあとで話すね・・・来たよ。」

ミナちゃんの目線の先、出口の門があった方角。
俺たちはそこから逃げてきた訳で・・・
もちろん、この場合はおまけが付いてくるのが定石で。
つまり。

「カタミ、さっきの、ちゃんと装備してよね。」

例の、化け物が、そこにいた。



   【動揺~5~】

「それ」は、普通ではあり得はしないものだった。
体長は2メートル前後、ほぼすべてが緑色に覆われ
そのくせ、瞳は赤と金のオッドアイで、両生類を思わせるほど大きく円い。
胴体は異常に短く、全身の3分の2は長く伸びた足で出来ている。
だらんと垂れ流している手の先には、先端がかぎ爪のように鋭くなっている爪がある。

「ていうか、マジで化け物なのかよ!」
「当たり前じゃない!」

怒られた。

「でも・・さ、ミナちゃん、魔導師だろ?簡単に勝てるんじゃないのか?」
「無茶言わないでよ、どんなに短い呪文でも10秒はかかるのよ?」
「あのさぁ、俺って、ここでのすることが分かった気がするんだ・・・」
「えっ?・・・・ちょっと言ってみて」

ミナちゃんが言うには。
呪文詠唱は短くても10秒が限界、つまり、相手はそれほど速いと言うこと。
そして、俺のクラスは「狩人」・・・

「要するに時間稼ぎしてくれって事だろ?」
「へ~・・結構、賢いんだね~カタミって。」

―今、微妙にバカにされた気が・・・

「そうそう、アイツはね【フロッガー】っていうの、素早さだけが取り柄だから」
「で、そんなヤツに対してたかがハチェット一振りで戦えと?」
「うん♪、だってカタミは私のパートナーでしょ」

・・・どこかで、「大変だねぇ・・・」と。
村の人の台詞が聞こえた・・・

(少なくとも、あの言葉は嘘じゃあ無かったのか・・・)

「カタミ!!」

ふと呼ばれて、我に返る。
目の前には例のフロッガーが・・・いない?

「上!!」

咄嗟に上を向き、ヤツの姿を視認する・・・

―地球だったら、物は落ちてくるんだよな、地面に向かって。

3歩ほど、後ろにさがる・・・
ヤツは落ちてくる・・・来る・・来る・今だ!
ハチェットを握りしめ、ヤツに向かって振りかぶる。

ヒュッ

空を切る・・・当たり前か、何も練習は無しでのぶっつけ本番だからな・・
すぐさま、左手に持っていたもう一振りのハチェットを横に薙ぐ

カッ

―・・カッ、だと?

おかしい・・・これだけ柔らかく動き回っているにもかかわらず
ここまで、表面の皮膚が硬いのか?・・・どうすれば・・

「やっほ~ぃ、カタミ、今から全速力で逃げてね~、そこから」
「えっ!?何!?時間稼ぎ終わり?」
「うん、とりあえずそこの辺り吹き飛ばすから~、速く逃げた方がいいよ?」
「よっしゃあ、了解。」

二振りのハチェットをホルダーに入れ、すぐさま全速で走る。
走る走る走る走る・・・

右後方の辺りの空間が光っている・・・
っていうか、感傷に浸っている場合じゃねえ・・速く逃げなきゃ

―逃げるのは、俺だけか?・・俺、一人だけなのか?

そして、俺は。


・・・・・



【炎の御霊を我が手に宿し】

手が熱い・・・けど我慢我慢・・・そうしなきゃ、いけない。
術式呪文の詠唱さえ始められれば、異形の物は私に触れられない。

【現に起こすべくは水面に墜とす】

外で、叫び、藻掻くフロッガー。
―もう、アナタはおしまい・・・誰にも会えなくなるの・・・

【雫で起こす波紋の衝撃】

―だから、代わりに、私が、言ってあげる。

「走れ!爆ぜ唸る爆炎陣」

自分を中心に、半径20メートルほどのドームで外界と区切られ
その中で、紅い炎が巡り巡り・・・すべてを燃やし尽くし、焦がす。

―バイバイ。

そして、化け物の姿はそこにはなかった。

「あっ、ヤバイ、この呪文はまだ未完成って忘・・れ・・てた・・・」

意識が遠ざかる・・・そう、経験上この次はきっと。

―倒れちゃうんだよねえ・・・



ポフッ

「お~い、大丈夫? ミナちゃん?」
「ん~っとねえ・・多分ね、大丈夫じゃないと思うの。」
「一旦、村に帰るか?」
「うん、私の家行こう。」
「はいはい・・」

疲れたのか、おんぶしても今度は何も言われなかった・・・よかった・・・
・・でも、暇さえあれば、もう一回ぐらいお姫様抱っこしたいなぁ~・・

そう思いながら、村へと向かい、歩く。

2009-02-18

『歪み行く中で・・・【歪曲】』

     『歪み行く中で・・・』

   【歪曲~1~】

つくづく。
この日本って国は平和なんだなと実感する。
誰も、そこらの市場に溢れているようなゲームの世界なんか求めていない。
しかし、そんなモノに限って、よく大ヒットするのは何故か?

非日常だから。

日常的にないモノ。 死への恐怖、生死を分かつ瞬間・・・
そんな切迫した状況がないからだろう・・

じゃあ、なぜ俺がこんな事を思っているかというと。
まぁ・・その、あれだ。

その非日常にいつの間にか対面しているからだろうか・・・






話は戻るが。

御諏村 確実。 それが俺の名前。
一応、普通の高校2年生・・だろう、世間一般的には。

成績は、いわゆる落ちこぼれ。
だが、運動神経は人より少しは良いみたいで体育だけはマシだった。
しかし、それ以外の教科は通知票に赤い数字が並んでいた訳で・・・
よって、この前の夏休みで連続10日の補習を受けたばかりだ。
(おかげで、健全なる高校生の休みが減った訳だが・・)

時間が経つのは早いもので、今や10月の中旬。
1週間後には実力テストが待っていると言う・・最も嫌な時期だ。

昼頃、俺は中学からの親友、今野 剛と一緒に更衣室へと向かっていた。
・・ちなみに言うと男子更衣室な。
覗きなんかしたら男子からは褒め称えられるが
女子からの印象はがた落ちになるのは、火を見るより明らかだし。

「なぁ、タケ」
「ん? 何だ・・」

どちらかと言えば、剛は寡黙なヤツだ。
ただ、その代わりと言ってはなんだが・・・
成績はほぼ上位、意外なのが激情家であること。
キレたら、誰にも止められないほど、まくし立てる。

ところで、剛と俺はいつも一緒にいるのだが
何故その中で成績上位なのだ?・・・と、疑問に思うときがある。

「なんかさぁ・・魔法とか使ってみたくねぇ?」
「・・誰かがさ、行き過ぎた科学は魔法と見分けがつかないって言ってたよな」
「誰だよ、そんな夢も希望も無いこと言ったヤツ」
「知らない、昔の人だろ・・・多分」

・・とりとめのない会話だが、まさか本当になるとは思っても見なかった。



   【歪曲~2~】

「・・・でさぁ、その子がさぁ・・・」
「ウッソ? それマジで言ってん・・」


クラスの男子共の騒ぎ声・・・
まぁ、年頃と言えば年頃なのでソッチの話題が多いのは明白なのだが。
そんな喧噪の中、俺たちは黙々と着替える。
着替えている間はなにも話さない。

何故、話さないのか。 発端は剛の発言。
剛曰く。

「この時間が一番考えるのに適しているんだよ。」

言われてみれば・・・そうなのだろうか?
実際、着替えている間は知り合いと話すにしても
普段以上に神経を着替えに集中しているため
あまり、会話の重要性は低い。

それはさておき。
剛が言う、その説は認めよう・・・が、しかしだ。
剛。 お前一体何を考えてるんだ?
不思議で仕方がない・・・・いや、本当に。

「確実、授業始まるよ?」
「あ・・あぁ、分かった今行くよ。」

まずい・・・自分の世界に入りすぎた・・・
これが俺の悪い癖だ。
良い結果も結論も出ないくせして、ひたすら考えるだけ。
ちなみに、授業の大半はこれのせいで聞いていない。

「そうか・・・自業自得だったのか・・・」
「ん? 何の話?」
「ん、いや、気にしなくていい。」

そう、簡単なやりとり。 これこそ、平和の象徴。
そして、平和は突然・・・・破られる。
タトエ ソレガ ノゾンデ イナクトモ。

―リィィィン

鈴の音??

「タケ、今さ、鈴の音聞こえなかったか?」
「いや、全然。」

気のせいか・・・
疲れているのか・・・俺は。
そういや、最近はあまり寝ていないし・・・

―リィィィィン

・・・いや。
気のせいじゃあないのか・・・

「タケ、ほら、また鳴っただろ鈴の音?」
「あんまりふざけるのもいい加減にしてくれないかな・・・いくら確実がそう言っても、僕には聞こえないものは聞こえないと、さっきから言ってるでしょう。」


―リィィィィィン

奇妙だ。
タケには聞こえていない鈴の音。
もしかして、俺だけが聞こえているのか・・?
しかも、だんだんと近づいて来ていないか?

(!)

本能的に危険を察知する。
とっさにそこから飛び退く・・・が。

「どうしたの? 確実?」
「オイオイ・・これはいったい何の冗談だよw」

まさか、飛び退いた先が真っ黒な孔になっているとは。
吸い込まれる!?

「タケ!!!!」
「おーい、タケ、先生が呼んでいるぞ~」
「うん、分かった。 すぐ行く。」

まさか・・・・聞こえていない!?
徐々に飲み込まれていく俺の身体。
飲み込まれていく面積が増えるたびに、俺の意識が朦朧としていく・・
もう一度、力を振り絞り、喉が潰れそうな声で叫ぶ!

「タケシィィィィ!!!!」

「あっ、久しぶり三野君、今まで何して・・・」
「いやぁ、さぁ・・・」


薄れ行く視界の中。
最後に見えたのは・・・奇妙にそして、今まで通り流れている世界。

(俺は・・・世界とやらに見放されたのか・・・)

薄れ行く意識の中。
最後に思うのは・・・・安穏と思う死への想いか。
それとも、親愛を注ぐ家族への想いか・・・・


・・・・。
・・・トントン。

誰かが肩を叩く・・・それも、かなり弱く。

・・・トントン。

なんだか起こすと言うよりは、まるで生死を確かめるような・・・

ガバッ
「って、俺生きてる? マジで? びっくりしたぁ~」

確認のため、マンガでよくやっているアレを実行した。
アレ=頬をつねる。

「あいててででででで・・っつう。」

とりあえず、自分が生きてることと、夢ではないことを確認。
そして、多分自分を看ていてくれたこの・・・見知らぬ女の子に

「ありがとうな。」
「574''%&%$()645868yrjv?」

・・・ハッハー、なんて言ってるのかが分からないよ?
一応、自分がいる場所はテントのようなものの中だったので。
とりあえず、外に出てみた。

とりあえず、見たこともない景色が広がっていたのは言うまでもない。
事実だった。

「ま・・・マジかよ・・・」



   【歪曲~3~】

コォォォォォ・・・

「これは・・・一体どういう事だ?」

おもわず、言葉が漏れる。
ついさっきまで(と言ってもどれだけ意識が無かったのかは分からないが)
俺は校舎の更衣室の中にいたはずなんだが・・・
それが、目覚めてみれば校舎なんて物はなく・・
ただ、外には荒野が広がっていた。

しかし、どうも人はいるようで
そこかしこに、今自分が寝ていたテントと同じようなテントが
立っていた・・・それも無数に。

「でも・・・テントがある割には人の気配がない気がするが・・・」

クイックイッ
服の裾が引っ張られる・・誰だ?

「・・・」
「ああ、さっきの女の子か。」

服を引っ張ったのにも関わらず、話しかけてこないのは
多分、さっきの会話で聞いたこともない言葉を聞いたからだろうか・・

「jhcxvjblsh」
「・・う~ん、やっぱわかんねぇな、これは。」

元々、勉強も出来ないのだから分かる訳がないと開き直っていたのは秘密だ。
今は、そんなことよりもここがどこなのかが知りたい所だが・・・

「起きましたか?」

・・・。
気のせいだろうか・・
今、確かに日本語が聞こえた気がしたが。
俺もついに幻聴が聞こえてきだしたか・・・

「あの~・・・聞いてます?」

・・・。
どうでもいいのだが・・・
この声、どこから聞こえているのだろうか?
確かに声は聞こえているのだが、位置が特定できない。
まさか・・・テレパシー??  ありえない・・・それこそ。

「・・・さっさと答えろって言ってるでしょうが・・」
「すいません、どちら様でしょうか?」

気のせいか、心なしかさっきの言葉に殺気が感じられたが・・・
なんだか、答えなかったら死ぬ気がしました・・・

「あ、やっと起きてくれた~」

答えた瞬間、いきなり声のトーンがあがっているし・・
というか、声が甘ったるく高い。
喋っているのは・・・子供か?

「あのね~、お兄さん、誰? どこの人なの?」
「え~・・俺か?」
「お兄さん以外誰もいないじゃない、ここには。」

それもそうだ。
さっきから感じる人の気配はこの小さい少・・・・って、あれ?
どこ行った? あの子?

「もしかして・・・迷子にでもなったのか?」

だとしたら、大変だ。
すぐ探さなきゃ・・・と思ったとき。

ポカッ

後頭部・・・ではなく、何故か肩胛骨の辺りを叩かれた。

「お兄さん、本当だったらこれで死んでるよ?
どうやって、この辺境まで来たの? ねぇ~ってばぁ?」
「へ!? そんなこと言われてもなぁ・・・」

聞いてきたのは、先ほどの女の子。
なにか、違和感を感じるが・・・

「そんなことよりさ、君ってさっき変な言葉喋ってなかった?」
「変な言葉?・・・ああ、ザルク語のこと?
あんまり、こっちの地方でも使われてないからぁ・・・
お兄さんの言語媒体中枢機関に探り入れてみたんだけど・・・
【日本語】っていうの? これ、どこの言葉なの?」
「いや、どこって、日本の言葉だけど・・・」
「そんな国無いよ?この星には」

これは一体、どういう事なのだろうか・・・



   【歪曲~4~】

「この星?」
「?・・・うん、この星にって・・・どうしたの?」
「いや、何でもないけど。」
「ふぅ~ん・・・じゃあ良いけど。」

そんなあからさまに拗ねなくても・・・
あ、ほっぺ膨らませてる・・・やっぱ、この辺りは子供か
・・って違う。
―何でもない訳無いだろう・・・
いきなり意識が消えて、目覚めてみればそこは地球ではありませんでした~
なんて、今時小学生でも信じないぞ?

「そういえば、聞くの忘れたけどさ、この星の名前は?」
「お兄さん、記憶喪失か何かなの?・・・地球だよ。」
「あー、そっかー、地球か、そうそう思い出したよ・・・」

ちょっとは期待したのですけど・・・
と言うか、地球ですか。 言うに事欠いて地球ですか。
にしても・・・地球にこんな場所ってあったっけ?・・

「もう一個聞くけどさ、この国の名前は?」
「ゼウィ・バルクス。」

聞いた事ねぇ・・・

「オイ、アンちゃん、何をそんなところで突っ立ってるんだ?」

知らないおじさまだ。
なぜ、おじさまかって?・・・決まってるじゃないか。
この人、もの凄く『ダンディ』だから。 だからおじさま。

「いや、ちょっと・・・」
「このお兄さんね~、この辺の人じゃあないみたいよ~」
「よそ者か?」
「まぁ・・そのよそ者と言えばよそ者ですけど・・・」

事実。
こんな所、一つも知らないのだからよそ者だろう・・俺は。

「というか、俺がいたのはこんな所じゃなくて学校に」
「ねぇねぇ、学校って何~?」

飛び跳ねながら聞くのはやめていただきたいものですが・・・

「ごめん、君の名前って何なの?・・・今まで聞いてなかったのが不思議だけど」
「ん?・・ああ、私の名前?」
「ついでに、俺も言うから、さ。」
「いいよー、私はね・・・クレスト=ミナルディエンス。」
「御諏村 確実」
「ねぇ~、クラス名は?」
「クラス名?・・・って何?」
「だから~・・クラス名なの!」

訳が分からない・・・クラスって何だ?
なんだか、胸張って「3組」・・・ってことでもなさそうだし・・・

「オイオイ・・・ミナ、分かってないのに教えようとするな
「は~い、ごめんなさい・・・でも、みんな知ってるよね・・・コレ」
「まぁ・・そのはずなんだが・・・仕方が無い、私が教えるよ。」

教えてくれるのなら、何でも良いです・・・はい。

「私はダグで良い・・・それじゃあ・・・」


・・・。
・・・・・・。

なんだか、2時間半ほど話されました・・・
どうもクラスというのは職業のようだ。
大体一人一個の職業が生まれたときに与えられ、それで生きていくらしい。
あと、例外があるらしく、ごく稀に転職する人がいるらしい・・難しいらしいけど。

ちなみに、俺のクラス・・なんてものは知らないので。
あとで、ミナが調べてくれるらしい。

「そういや、なんでミナちゃんが調べるんですか? ダグさんでも良いでしょう?」
「私のクラスは【小剣士】でな。そう言うことが出来ないんだよ。」
「そうなんですか・・・で、ミナちゃんのクラスは?」
「ミナか?・・珍しく【魔導師】だ。」

・・ミナちゃん、意外とすごかったんだね・・・俺はびっくりしたよ・・



   【歪曲~5~】

なんだか感心している間にも、「儀式」とやらの準備が進んでいるようで
さっきから、知らない人たちが慌ただしく立ち働いている。
それで、さっき手伝おうか・・・と言ったところ。

「「「「邪魔だから、隅の方で座っとけ。」」」」

と、なんだか一斉に一瞥された・・・
で、やることがなかったので、適当に隅の方で暇をつぶしていたのだが。
いきなり、女の人(お婆ちゃん)から呼び出され・・・

「ちょっとアンタ、ここ、見ておいてくれよ。」

そう言って、フリフリの服を身にまとい、足取り軽く出ていった。
その後すぐにその人の娘さん・・・だと思う人が

「ごめんなさいね、ここは私がするから、向こうに行ってて良いよ。」

と、言われて仕事(見るだけ・・と言うかいるだけ?)を引き継ぐと。

「暇だったら・・・ミナちゃんのとこ行ってて。
あの子、結構寂しがり屋だから・・・ね、お願い。」

・・・そんな目で俺を見ないで下さい・・断れません。
結果、ミナちゃんについていてやることになったのだが
この感じは・・・これって・・お守り・・・なんじゃあ・・

「あんまり、子供扱いしないでよぉ~。」

・・そう言うけど、その身長で言われてもいまいち・・・
見た感じ、135センチぐらいの身長で言われてもなぁ・・・

「ごめんごめん・・って、俺そんなこと言ったっけ?」
「え?・・あ、ううん、何かそんなこと考えてそうだなぁって思っただけだから。」
「・・・ふぅ~ん、変なの。」

すぐに取り繕っていたが・・・あの、焦りようはなんだろうか?
まさかマジで心が読めるのか?・・・ハッ、まさか。

「準備、出来ました。」

準備―30分ぐらい―が出来たらしい。
出来たのは良いんだが・・・一体、その泡が出ている飲み物は何ですか?

「仕上げです、呑んで下さい。」

変な仮面付けた男が言う・・・淡々と。
ちなみに、ミナちゃんはもう既に飲み干していた・・・スゲェ。

「こうなったら、根性かなぁ・・よおしっ」

グビッと、一気に盃を煽る。 のど越しはほとんど無い。
・・・味がしない・・・のだが、妙に身体が火照っている・・
なんだか、熱に浮かされている気分だ。

「大丈夫だって、数分で終わるからねぇ~。」

相変わらずのロリロリボイスで呑気な事を言うなぁ・・
でも、今はその数分とやらを信じるか・・・・
そうでもしなきゃ、やってられません。

祭壇に昇る・・・
だんだんと意識だけがはっきりしていく・・
しかし、身体の自由がきかない・・むしろ感覚がなくなっているような・・・

「う~ん、準備オッケー?」
「・・・・。」

なんか、喋れないので、猛烈に縦に首を振っておいた。

「りょ~か~い。 んじゃ、いっくよ~。」

始まるようだ・・・と思った瞬間。
足元が明るくなる。
足下には先ほど描かれたのだろう、魔法陣が描いてあった。
シンプルな2重円の中に複雑な言語の筆記体らしき文字が書いてある。
それらは円に沿って書かれ、円と共に回転していた。

【術式解放】

光が強くなる・・・

【汝に宿る精霊よ、その身をもって我に子細を説せよ】

身体の中から奇妙な液体(だと思われる)が出てくる
なんだ・・・あれは?

【その力、術式閉鎖後に於いて誓約者にも知覚させん事を】

液体みたいなものがだんだんと人型になっていく。
・・一瞬、俺に向かって礼をしたような気がしたが・・気のせいか?

【術式閉鎖】

徐々に光が弱まっていき・・・消えた。
いつのまにか、魔法陣も消えていた。

「しゅ~りょ~。 あ~、疲れた。」

・・・疲れているようには見えないのですが・・
徐々に身体の感覚が戻って来ていた・・

「えっとさぁ~・・何だったの、俺のクラスって。」
「ん?・・ああ「狩人」だったよ。」
「狩人?」
「うん、狩人。」

あの、獣を狩ったりする狩人らしい・・・

「でもね・・・」
「え、どうしたの?」
「狩人にしては、属性がおかしいのよね~」
「属性?」
「うん、カタミの属性は「水」だったの。」

それって、何がおかしいのだろうか・・・
属性なんだから、人それぞれ違って当たり前なんじゃ・・・

「でもさ、それって別に良いんじゃねえの?」
「ううん、おかしいの。」

いまいち、よく分からない・・・

「どういう事?」
「例えば、ダグの場合「小剣士」でしょ?
ダグの属性は「剣」なの、今は付加がついて「火」もあるけど・・」
「つまり、関連性があるって事?」
「うん、そう言うこと。」

そうか・・・
「火」があるってのは、炎の剣というのがポピュラーだからだろう。
そうだよな・・・・狩人に「水」ってのは・・変だな、確かに。

「そういえば、ミナちゃんの属性は?」
「私? 「魔」だよ。」
「何でそんな曖昧な属性なんだよ?」
「だって、私「魔導師」だよ?
魔法使うのが仕事なのに、使えなかったら意味が無いじゃない。」
「じゃあ、何でも使えるんだ・・」
「何でもって訳じゃないけど・・・大抵は・・・ね。」

俺が予想するに。
魔導師の上は賢者なんだろうが・・そこまで行くと万能だな、まったく。

とりあえず、猛烈な眠気に襲われたので、今日は寝るとしよう。
なんだか・・・一日が長かった。

「お休み、ミナちゃん。」
「うん、また明日ね~。」

こうして。
夜が更けていった。

2009-02-18

『掠柵』


『掠柵』

ほぅら、どこかにいっちゃった。

君がそんなに大声出すからだよ。

泣いても仕方ないじゃないか、君のせいだよ。

未練がましく泣いたり、喚いたりしても無駄さ。

暴れたところでどうせ何も変わりはしないのさ。

彼は、君に愛想を尽かして出て行っちゃった。

空が落ちてきたって、これは変わらない結末なんだよ。

悔しいかい?

悲しいかい?

恐ろしいかい?

腹が立つかい?

誰が?彼にか?それは無茶ってものだよ。

たとえ君が何を思おうとそれは酷いな。

大したことも出来ないのに一人前に口だけ言ってもね。

それが君であって君であることなんだよ。

わからないかな?

わからないだろうな。

だって分かっちゃいけないんだもの。

それは秘密なことで、君なんかが分かっちゃいけないんだ。

知るにも権利がいる、それはとても厳しいようで当たり前なんだ。

知って貰うのにも権利がいる、話して貰うにも権利がいる。

近づいて貰うにも権利がいって、触れることにも権利がいる。

君は、その権利をするだけの義務を果たしたのかな?

そのことにちゃんと胸を張って言い切れるのかな?

言い切れない、言えない、していない、迷うのなら。

一度振り返ってみたらどうだい?

後ろを。

横を。

背中を。

生き様を。

歴史を。

世界を。

全てを。

君は、囚われてはいないかい?

くだらない、つまらない腐った枠の中に。

反吐が出る、殺してしまいたくなるほどの濁った檻の中に。

嫌なら考えてみるんだね。

君が何を、どう、何処で、何時、どんなときに。

その頭は、ただの飾りでは無いのだろう?

なら、考えたらいい。


少なくとも、解放は目の前にあるだろう。

2009-02-18

『底より這い、拍拝するべく天上へ。』


『底より這い、拍拝するべく天上へ。』



憂いの目で見つめていた、あの瞳は。
何時しか遠い憧憬をのぞき込み、削除する。

私は心を開かない。
それは、周りが怖いから。
全ては自分を護るため。

人がなんだろう。
笑え、怒れ、泣け、喜べ。
見せかけの仮面で何処まで行けるのか。
その道は細いのではないか。
まるで蜘蛛の糸のよう。

足を滑らせ堕ちるのは。
何処まで行っても私だけ。
光明は差さず、何もない、映らない。

手を差し伸べた。
貴方は取り柄もなく、何もない。
けども輝く、目があった。
そこに、光明は差していた。

虹の光は、形を持たない。
それ故に、罅は何も意味を為さない。
漆喰に埋められた、この壁は。
荒んだ風で崩されて、消えた。


・・・・先は。

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